土榎r-novel

□Faire le singe
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「なに我慢してんだよ」

榎本は自室のベットの上で全ての衣類を剥ぎ取られ、土方のその長く皮膚が少し硬化した指先に翻弄されるがままに熱を上げていく。
抵抗する間もなく堕とされていく快楽に底なしの恐怖と愉悦を覚える。
何度経験しても慣れるものではなく、それ故にその初心な所作が土方を悦ばせていることも解ってはいるがどうすることも出来ないのもまた事実だ。

「も…、いっ…ぁ、」

「まだよくねぇよ」

いいだけ高められた熱を解放させることなく堰き止められ、耳元で告げられる残酷で甘い宣言。
ついでとばかりに耳朶がその熱い唇で遊ばれる。舐めて、齧って、噛んで、食んで、悪魔の囁きのように毀される甘さを隠した言葉達

「また溢れてきたぞ。耳、好きか」

「ち…がぅ…、ぁ…っ!」

「違うってなら何処が好きだった?此処か。…それともこっち?」

かりっ、と噛まれた耳から電流のような快感が全身を走る。
ひくり、と肩を揺らした榎本に気付いているであろう土方はそれをあっさりと流し、態とらしい口調でうっすらと紅色に染まる肌に指と唇を這わせていく。
上から順番になぞる様に、確かめるようにゆっくりと、それでいて厭らしく反応を楽しむように。

「あーあ、可哀想だ。アンタが早くどこが一番好きか言わねぇから、こっちはこんなにも泣き出しちまって」

「ひゃ…っ!」

「そんなにオレの指、ヨかった?」


堰き止める手は外さず散々土方の愛撫で感じ過ぎて濡れている榎本自身を、空いた手で殊更にゆっくりと敏感に感じる部分を的確に撫で上げていく。
それに生理的な涙を零しながら抵抗するように土方の頭に手を遣るが、力の抜けた腕では押し返すことも儘ならず汗でしっとりしてきた黒髪を混ぜるだけに終わる。
それを誘いと都合良く捉え、土方はにやりと口許を僅かに上げた。

「なぁ、何処が一番好き?俺にどうして欲しい…?」

「んんっ……ぁ、…」

どうして欲しいかなどよく判っているであろう土方は、榎本が望むべき所へは何もせず。真っ白な大腿の内側に小さく紅華を散らしていく。
ひとつ、ふたつ、と増えていくそれに榎本は小さく体を震わせ、快楽を生み出していく。
するりと腰に回された腕が曲線を描くように肌を這う。それから逃げるように腰を捻れば、逃げた方向で待ち構えた唇によって齎されるリップ音。居た堪れなく頬に朱を上書きすれば、楽しそうに笑う土方と視線が合う。

「じゃあ、俺から先に言ってやろうか」

楽しそうな瞳の中に、濡れた情欲の色を乗せているのがまた憎らしい。
自分だけがこの快楽に堕ちている訳ではないと、そう共犯者のように示すその瞳を榎本が気に入っていることを知っての行動だ。
煽り煽られて、理性などもう掴んでいられるのもそう長くない。互いに。


「白い肌が、こう、うっすらと色がついて。そこに、オレのものって証を付けるのがイイ」

土方は榎本自身に絡めていた指を離し下肢辺りに埋めていた顔を上体を起こすことで伸び上がらせ、
左鎖骨のやや喉元近くへと言葉通り【証】を残す。
綺麗に咲いたそれを満足そうに見遣り、ぺろりとまるでそれが甘い物かのように舐め上げる。その感触にもはや反射的に榎本は肩を震わせた。

「立派な軍服の下に俺のシルシいっぱいつけてんのによ。その目だけは、穢れず偉そうに気高くて」

「ぃ、…っ!」

かぷり、と右鎖骨にかぶり付き今度はうっすらと歯形を残す。
あまり小さくは無い痛みを伴ったそれに対し抗議の意を持って土方の両肩に手をつき間を開けようと力を込めれば、すんなりと離れられる。それを不思議に思い顔を上げれば真剣な瞳に出会う。

「それが凄く堪んねぇ」

そう告げる土方も、日常とも仕事の時とも普段榎本といる時とも違う艶やかな表情【カオ】をしていた。



「…なぁ。そろそろ此処まで堕ちてこいよ」

土方がまろやかと評して憚らない榎本の頬に手を添え、視線を逸らすことなく殊更にゆっくりと唇を合わせ、離れ。
しっとりとしたその心地良さが手放せず、追い縋る様に榎本からも口づけを贈った。

「夜はまだ長ぇだろ…?」

甘い唇を思う存分貪ったにも拘らず呼吸を崩していない土方が、額を合わせそう云う。無邪気に、計算高く、愛しさを込めて。
そんな土方の様子に榎本は敵わないという腹立たしさを覚え、目の前にあった唇へと咬み付いた。

「君こそ…そんな顔してられんのも、今のうち…」

瞠目する土方へと、息を乱しながらそう宣言する。
きっとそんな事を云えば離してもらえない事は十も承知だ。

「上等。」

挑発的な榎本の言葉に是を応える土方も最早止まれるような状況ではなく。二人縺れ合うようにベットで重なりあった。


窓外を照らす月が呆れたようにその姿を雲の中へと隠くせば、部屋の中は闇に包まれる。
宵はまだ入りを告げたばかりである。















「それで、」

榎本役職長屋へと資料を返却に来た軍医高松凌雲が、部屋の状況を見て呆れ混じりに溜息を零す。
タイミングが悪かったね、と思いはしたが言葉にはしない。
どうせ言ったところでこの状況が変わるわけでもなく、そして日常茶飯事的なものでもあったからだ。

「この有様は一体どういうことかな?」

聞かずにはいられない、という訳でもないが聞いてしまうのはたぶん、自分がこの家の住人の主治医を自負している者であり、その家主が半裸でベットに横たわり、ぐったりしていれば致し方がない事でもあろう。
答えられる解が大凡予想がつくものであったとしても、万が一を考えざるを得ないのは彼のその数奇な今までの生活を思えばこそだ。

「愛、って事で。」

家主の総裁ではなく、その傍らで彼を労わる様に撫でている軍師へと問いかければ半ば想定された答えをあっけなく告げられた。
だから聞いた所で何も解決しないんだ、と高松はいつもながらの後悔をする。

「で、どういうこと?」

「…じゃあ、愛、って事で。」

とりあえず総裁へと同じ問いをすれば、やはり得られる同じ答え。
いつもながらの問答となり果てたそれをいい加減止めたいと高松がいくら望んだとしても、2人が一緒にいる限り無理に近いことを知っている。
知ってはいるが聞かなければいけないこのジレンマ。そのうち全てを放棄したくなるだろうが、できない自分を分かっているのがまた嫌だ。


「A laver la tete d'un ane on n'y perd que la lessive」

せめてもの腹いせにそう告げれば、総裁は苦笑を零し、隣の軍師へ耳打ちすれば、2人は顔を見合わせ喉を鳴らして笑った。




A laver la tete
d'un ane on n'y perd que la lessive.
(バカにつける薬は無い。)








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ただそれだけの事です。
突発的な衝動で書きたくなった濡れ場(笑)



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