土榎r-novel

□hanker for affection
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「っ…は、っ…」

甘さを存分に含んだ吐息が、薄暗い室内に落ちる。
時折聞こえる濡れた音は、榎本の手元から届くもの。
寛げたズホンから自身を出し、それに手をかける姿は、ひどく倒錯的に見える。
それを目にする土方には、焦げそうな程の劣情を抱かせた。

「だいぶ濡れてきたな」

「っ、るさいっ…」

床に腰を下ろし、ベッドに背を預けた榎本が、精一杯の反論を吐く。土方の愉しさを含んだ声は、ただ降るように榎本へ落ちた。
存在自体は目の前にある。けれど跨ぐように椅子に座り、背もたれに組んだ腕を置き、そこへ顎を載せた土方は、ただ榎本の姿を見つめるだけ。
手を伸ばせば触れられるのに、少しも触れてはくれない。

「ん、っ…く…」

嫌だと、拒絶出来ない自分が悔しい。
土方の言うことを素直に聞いてこんな事をしているのは、そもそも元を振り返れば榎本が蒔いた種に過ぎない。

始めこそ全力で抗った。罵声を吐き、手も足もそれこそ体全部を使って逃れようと試みたものの、
背筋に冷たいものを感じた瞬間、榎本の抵抗は自然と止んでいた。
こう見えて、見下ろす笑顔の男は今までにないほど怒りに満ちている。
その証拠に、榎本を見る瞳は少しも笑んでいない。

「もっと弄らねぇと、イケねぇぞ?」

明るい声が、けれど冷たさを含んで榎本を責める。
聞き慣れない音は、それだけで言いようのない不安を榎本に与えた。
揶揄うように言いながらクスクスと笑う土方は、暗に行為の先を促している。
悔し紛れに睨み上げたけれど、映る男はふっと鼻で笑って頬杖をついた。

「どした?手、止まってんぞ」

言われなくても、こんなやわな刺激で達することが出来ないのは、榎本自身よく分かっている。
散々、土方の器用な手に慣らされてしまった体だ。
もっと言ってしまえば、自ら慰めたところで足りるとは思えない。
今でさえ、体の奥深くで土方を求めている自分が見え隠れしているのだから。
それでも、提示されたことは覆せない。

「ふっ…、う…ぁ…」

「早く出して見せろよ」

ならば、煽って煽って、
土方が手を出したくなるほどに煽ってやれば、いい。高みから見下ろす土方を落としてやる。
決めて榎本は、折っていた膝を少し開いて立て、土方からよく見えるようにしてやった。
羞恥を忘れたわけでも、ましてや捨てたわけでもない。持ち前の負けず嫌いが、それを上回っただけ。

「あぁ…、いい眺めだ」

「ん、ん…あ…ぅ」

ぬめりを借りて動く手は、思いも手伝って先程よりもずっと大胆に動いている。
くちくちと鳴る音も、この男に聞かせてやるんだと思えば気にならない。
けれど当然、それは榎本を追い詰める結果にもなる。
こぼれる露を全体に塗り付ければ、ますます濡れた音が静かに室内へ響いた。

「あ、っつ…ンッ」

刺激が、快楽が、足りない。記憶の中にある土方の手を思い出して真似てみても、榎本の手では無理がある。
懸命に動かしてみたところで、あの骨張り所々に刀胝がある大きな手には敵わない。
あの手を得るためには、まず椅子から下ろさなければ…。
思って見上げた土方の眼が、一瞬だけ揺らいだのを見た。相変わらず笑んだ口元が、僅かだが、歪んで見える。

「んぁ、あ…ッ…、ひ…、土、方…く…」

開いたままの小さな口から無意識に転げ落ちた名に、土方の喉が大きく動いたのが分かった。
つっ、と細められた瞳から、視線が外せない。
体の芯が疼く。上がるばかりの息は形にもならない音になって吐き出され、榎本の眦には今にも溢れそうな涙が留まっている。

「は、すっげ…ヤラシイ顔」

どこか嬉しそうに言った土方の科白には、今まであった刺がなくなっていた。
その声に榎本は思わず口端を上げる。きっと、もうすぐ落ちてくる。
瞳には、渇いた唇を舐める土方が映る。

その艶めかしい仕種に榎本の背筋に、ゾクリと何かが走った。
土方が欲情しているのは、榎本を見る瞳が雄弁に語っている。
獲物を仕留める瞬間を狙っているような、獰猛ささえ感じさせる土方の視線は、それだけで榎本の体を熱くさせた。


「ンやっ、は…っ、く…」

「ふっ…イくんじゃね?」

もどかしいまでの刺激は、もはや毒にしかならない。
榎本は思わず目をぎゅっと閉じた。問われて首を振れば、溜まっていた涙が散っていく。
どれだけ擦りあげても、先端を弄っても、絶頂どころか快楽にも繋がらない。
もっと高みを知っているから、体は疼くばかりで苦しさを榎本に与えている。
土方に仕返しをと思うのに、その分彼の熱が恋しくなって、榎本を焦らせた。

自分で出来たら、続きしてやるよ。土方はそう言ったけれども、それどころか、決めた目論見さえも危うくなってきた。
燻る熱は、中途半端に体を巡り、残る土方の理性をぐずぐずと崩していく。

榎本も土方に参ったと言わせたいのか、自分が土方に触れてほしいだけなのか、結論など、もう曖昧だ。

「ひ、あ…、や…や、ぁ」

「何が、いや?」

「はぁ、っ…も…、むり、ぃ…」

くちゅくちゅと音はするのに、目の前が白むようなあの瞬間が少しも見えてこない。
ただ苦しくて、優しく問いかけてくれた土方を覚えず縋るような視線で見上げた。
途切れ途切れに限界を告げれば滲んだ視界の中で土方の眉が困ったように下がる。
まだ許してくれる気はないのだろうか。そう思ったら胸が痛みを訴えて、榎本の頬を溜まった涙が落ちていった。
それでも、もう、土方が欲しい。許してくれなくてもいい。そのぶん酷くしてくれればいい。
土方が、欲しい…。

「っ土…方く、土方く、…」

切ない音で名を呼びながら、榎本は自分のこぼしたもので濡れた手を土方に向かって差し出した。
洋燈一つの部屋で、掌が艶やかに光りを反射する。
がたんっ、と椅子が倒れた音が聞こえたか否か、榎本は呼吸ごと奪われそうな口付けをきつく抱きしめられながら受けた。


さて、落ちたのはどちらか。真相は濡れた音の響く薄闇の中。









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中途半端でスミマセン。
副長が鬼畜に成りきれませんでした。
山もオチも無いとは正にこのこと!(威張るな)





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