土榎r-novel

□一杯飲ませてみました。
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 ※…催印剤使用




いつもの丁サの、いつもの居間で寛いでいれば、急な呼び出しも何もなく時間はもう夜中に差し掛かった。
鉄くんも部屋に入って暫く経っているから朝まで起きて来ない様子。
明日は休暇で好きなだけ彼と一緒にいられる。好きなこともいっぱいできる。
そう、好きなことも、気になる事も。やろうと思えばいくらでも。できる。



彼が風呂に入っている間にと自分は、しのび足で厨へ向かった。
そして湯を沸かす。お茶を淹れるために。
そして、そして、以前から気になって気になって気になって仕方無かったモノを、ポケットから取り出した

「これ、が・・・?」

小さく三角に折られている紙。その紙がショッキングピンク色だけど、見た目はただの薬。
少しためらってから、それを開くと乾燥したハーブが入っていた。うわ、途端に甘い匂いが漂ってくる。
動悸が激しく音を立てた。震える手でそれを拾い上げて思わず、ごくり、と固唾を呑む。
この代物はひょんな事から数日前にブリュネさんから譲り受けたモノ。なんでもフランスで見つかった新種のハーブらしい。
効能は滋養強壮だとかで。つまり簡略すると、

「コレが、さ、催印剤…?」

そう、本日私は、この催淫剤を、彼に使ってみようと目論んでいるところ。
だって、まあ確かに最中は熱っぽい目をしててかっこいいんだけど、いつも優位というか、余裕というか、そう、その理性を木っ端微塵にしてやりたいわけで。
催淫剤でも与えたら少しは余裕じゃいられなくなるかな、とか思い至ったわけで。一杯食わせようならぬ、一杯飲ませてみようというわけで。
貰っちゃった。誘惑に負けて、つい出来心で貰っちゃった。

ど、どうしよう、貰ったはいいけど、どうすればいいんだろう。
用法・用量を取り敢えず聞いてみたら、そのフランス人は高い鼻を更に高くして言っていた。

−これで、たちまち快楽の虜ですよ−

なんて。ちがう、私は別にそういうのは特に期待してない。
問い詰めてざっと確認すると、コレで淹れた紅茶一杯を2人で半分ずつ飲むのが効果的らしいけど。
ちょっと、いや、かなり、怪しい。
所詮はハーブティーだし。あんまり効かない気がするので、自分は飲まないことにした。というか、最初から自分が飲む気なんてさらさらなかったんだけど。

「ぅ〜ん、でもなあ…さすがにそのまま飲ませていい…のかな?まさか阿片みたいに依存性があるわけないだろうけど…。でも一応、猫かなんかに飲ませてみた方が良いのかなあ…」

考えながらもお湯が沸騰してしまい、その甘い匂いが漂うハーブを入れたティーポットに注いだ。
ごめんね。と小さく呟いて丁度カップ一杯分を上手く淹れ終え。
更に、風呂上がりの彼に飲んでもらう為に氷で冷やしておく。あまり変な味してなきゃいいけど。
証拠隠滅にもならないけれど、目に優しくないショッキングピンク色の包み紙と出涸らしは屑籠の中に投げる。
ドキドキを通り越してバクバクしている心臓を押さえて、本を読みながら彼を待つ。あれ、どこまで読んでたっけ。

「次、早く入っちまえよ」

髪の毛を適当に拭きながら、襦袢を着た彼がちょうど戻ってきた。
緊張が最高潮になるけど、億尾にも出さないようにつとめて、うん、なんて軽く返事をする。

「そこ、紅茶冷やしておいたんだけど、飲む?」

「紅茶?」

「嫌い?」

「まぁ、飲めねぇことはねぇけど…」

「疲れを取るには珈琲とかお茶よりいいんだよ」

なんて、まあそんなような事が言われているような覚えがどこかにあって。
湯上がりでやっぱり喉が乾いてるらしい彼は、ふーん、と、言って、カップに口を、つ、け、た。
ああ、飲んでる。う、ぁ、全部飲みきっ、た。
彼は、ん?って感じで首をかしげたけど、大丈夫。
気にしない。気にしない。
自分は何も関係ありませんから。

「じゃ、じゃあ、入ってくる。先に部屋行ってていいから」

「おー」

ドキドキする。自分が風呂から戻ったら利き目が出てるのかな。
でも、ハーブなんてなんだか信憑性が低い。ああいうものは、気持ちの持ちようってのもあるだろうし。
あまり期待しないでおこう。それなりに反応ありそうなら吉かなって。そう思って服を脱いだ。
まさか風呂に入ってる最中に押し入って来ないかな、なんて少なからず思ったけども、結局なにも無く。
ひとしきり洗い終え、適当にシャツを羽織って髪を乾かす。
ちょっと湿ったまま戻ったら、風邪ひくだろ、と少し乱暴ながらにくすぐったい手付きで乾かしてくれるから、わざとに軽く拭いただけで戻る時もあるけど、
今日はなんだか緊張してて、どうなってんだろうと考えながら自分で拭いていると、彼の呼ぶ声がした気がして手を止める。


「おーいっ、上がったならちょっとこっち来い。今すぐ来い」

あ、やっぱり呼んでる。
生乾きだけど、呼ばれてるからしょうがない。今日も乾かしてくれるのかな。と風呂場を後にした。
すると彼はソファーの上であぐらをかいていて。その手に握られているものに、思わず言葉をなくした。


「なぁ、コイツは何だ。」

「・・・なに、それ」

俯いたまま彼は小さな紙を、ショッキングピンク色の紙を摘まんでヒラヒラ振るけど自分は取り敢えずシラを切通す。
ああ、髪の毛は乾かしてもらえそうもない。まだ毛先から水滴がポタポタとシャツに落ちていく。

「俺ァさ、アンタと違ってあーいうもんは飲み慣れてねぇじゃん。」

「…うん?」

「だから、前に飲んだモノとはずいぶんと違う気がしてな?」

そう喋る彼の声が、なんだかいつもより、アレ?

「なんか体も変に熱ィんだよなー…」

アレ?アレ?
ほう、って、気だるげなため息をひとつ落として、
ようやく顔を上げた彼の顔は、というか、目、が。

「あ、あのさ・・・」

「ぁあ?」

ああ怖い。もうその目は獣そのもの。獲物を目の前にしている猛獣みたいな。
そして確実に獲物な自分と、その猛獣の間に柵はない。怖い。
怒ってるとか、意地悪してくる時とか、セックスの時に見せる熱っぽい目とか、そんなの否にならない。
食われる。絶対これ犯される、を通り越して、咀嚼される。
そう思ったけれど、これは自分が蒔いた種。そもそもこうなる事を期待していて飲ませたわけだし。
ちょっと面白くないけどもすっかり従順な獲物は逃げ出せない。
乱暴に引かれる手の強さに、胸がはずんだのも事実。
床に叩き付けられて、間髪いれずに馬乗りされた。
乱暴な衝撃は酷く痛かった。でもそんなことより彼の体が異常な程に熱くて驚かされる。
着てたシャツを簡単にビリッと引き裂き。ボタンがはじけ飛んでいくのを、他人事のように見送った。

「ま、待って、ここでするの!?」

せめて寝室に行きたいと言う自分のまだ湿っぽい体を、彼はただ真上から舐めるように鈍く光る眼で見下ろしてくるだけ。
本格的にもう眼がちょっとイッちゃってるんですけどこの人。自分の声はまるで届いていない。
噛み付くよう首筋に吸い付かれて、思わず悲鳴みたいな声が出た。けど直ぐに唇を噛んで堪える。
もう移動する事は諦めよう。そして少し離れた部屋で寝てる鉄くんが物音で起きて来ないよう祈るしかない。土方くんに薬を盛ったなんて、添役に見付かるのも困るし。
だって、気になって布越しに触れてみた彼のモノは、ぎっちぎちに硬くなってて、どくどくいってて、熱くて熱くて、
反射的に手を引っ込めそうになったけど、逃がさないとばかりに上から手を握り込まれて、再び彼へと導かれる。
はあ、はあ、なんて自分がいつも苦し紛れにさせられている荒い呼吸を今は彼がしているの聞いて、あんまりな程の余裕のなさを実感した。



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