Serial-novel

□ボーイズトーク@
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それは、土方から大鳥へ渡してくれと書類を預かり。
その大鳥は総裁室に行ったと部屋で伝習隊から聞いた為、遣いに出された相馬は総裁室へ出向いた

のが、全ての始まりだった


長官室…謂わば榎本の執務室には、主の榎本と探していた大鳥と仏国仕官のカズヌーブが居た。
珍しく松平の姿は無い。
相馬が入室した途端に部屋の中に充満している紅茶の香ばしい匂いが鼻を擽り、
見れば三人は部屋の中央の応接用テーブルにて、優雅なティータイムを過ごしていたようだ。

なので、相馬は邪魔にならぬよう、早々と大鳥に書類を確かに手渡し職務を真っ当したのだが、

そこでカップを傾けていた榎本が相馬に声を掛けた

「相馬くん、少し顔色が良くないねぇ…」

「あぁ、…そうだな。」

大鳥も同意して相馬の顔をまじまじ伺い。疲れてるようだ。と苦笑する。
そこで今度はカズヌーブが

「貴方も一杯どうです?休息なさって行かれては」

と、随分と聞きやすい日本語で空いている己の隣のソファーへ促す。
相馬は当然、まだ隊務がありますので。と丁寧に辞退をしたが

「紅茶には疲労回復の効果があるんだよ。君がいま倒れでもしたら、土方くんが困るぞ?」

苦笑を浮かべたままの大鳥に土方を引き合いに出されて、相馬は素直に一杯だけ馳走になる事にした。
促された席に腰を降ろし。その横でカズヌーブがテーブル上のセットからカップを取りポットを傾ける。

「どうぞ」

「有り難うございます」

差し出されたカップを受け取り。
その湯気の立つ橙色を一口含むと、ほぅと拡がる芳香と暖かさに身も解れるような落ち着いた気になった


「君も大変だろうね。なんせ相手はあの野村くんだ」

「は…、まぁ…」

大鳥の言葉が不意だった事もあるが咄嗟に反論が出来なかった相馬

「その憔悴振りからすると、夕べも大変だったんじゃないか?」

「………夕べ…?」

今の大鳥の“大変だね”の大変は、既に五稜郭中に知れ渡るところの野村の世話で“大変だね”と言う労いの意味では無いようで。
大鳥が口にした“相手”の意味も些か、暗に別な意味が含まれているようだ。

夕べも…大変だね、野村が相手で。
の単語で相馬は直ぐに思い当たってしまった。
そして誤魔化しようにも、意思より先に顔が一瞬にして上気してしまったのだから仕方無い

確かに、夕べ野村の相手をした。そして今朝からずっと寝不足を伴う身体のダルさは否めないのだ。
まさか、それが他人に一目で気付かれるくらい顔に出ていたとは、自分でも思わなかった。
同じく日々鍛えているし。己も一新選組隊士だから柔では無いだろうが、野村と比べると少しは劣る。
若干、悔しい事に


「コラ、圭介。相馬くん困っちゃったよ。そんなんだから新選組に睨まれてんじゃないの?」

「いや、彼にはいつも庇ってもらっているからな。感謝してるし。同情している」

「同情はよして下さい…」

それだけ返すのが精一杯だった。

「自分だって苦労してっから、こーやってタロちゃん居ない隙に愚痴りに来てんでしょ?同士には優しくしなよ」

…─同士・・・・?
相馬は頚を傾ける

「愚痴ぐらいいーだろ。釜さんだって、今さっき相手しきれないとか文句言ってたじゃないか」

「だから、そもそも剣豪なんかの彼とは身体の造りが違うし。ちょっとは加減するとか労って欲しいって、要望だよ。不満とか愚痴じゃない」

「僕には同じようにしか聞こえないが」

要するに、どうやら相馬の向かえに居る二人は各々の相手の“大変”さを話していたらしく。
相馬は、知らぬ間に晴れて(?)同士になったらしい

「御二人とも、まぁまぁ落ち着いて」

「あ、そうだ、それで?ブリュネさんの話しだったよね」

「カズさん、日本語でソレを痴話喧嘩って言うんだ」

「チワゲンカ…?」

「愛情の縺れってやつ」

大鳥が人差し指を立てて、カズヌーブへ仏語で何やら説明し始めている。
その間に榎本から、ブリュネさんと痴話喧嘩して来たんだってー。などとクッキーを摘まみながら説明された

「キスしてるとこ見られたんだよね。銀ちゃんに」

「銀之助に…?」

思わず相馬も会話に加わる

「スミマセン、余りにも突然でして回避出来なかったんです。ただ直ぐに、殴り飛ばして来たのですが…」

長い睫に縁取られた綺麗なベージュの瞳を伏せるカズヌーブ。
クッキリと鼻筋が通り堀のあるブリュネも顔を見れば雄々しく端整ではある。
それとは真逆に、こちらのフランス人は絵画から飛び出て来たような単に美しさを兼ね備えた顔立ちだ。
絵画も異人の女性も未だ見たことは無い相馬だが、もしかするとブリュネよりカズヌーブに近い赴きなのだろうと思う。
それが儚げに歪み、口走った内容は随分なモノだが、相馬がどう返すべきか言葉を巡らせていると、
再び榎本がジッと相馬の顔を見て

「君も、何か不満とかある?」

話を振られて一斉に視線が集まった

「ここに居るのは、皆同士だ。何も気兼ねする事は無いぞ相馬くん」

「アレ?その同士ってのに私も入ってるの?圭介は愚痴りに押し掛けて来て、カズさんは逃げて来たんでしょ、勝手に。私は関係無くない?」

「何を今更。それとも自分は土方くんに不満も無く、上手く蔓延にいってると言いたい訳か?たまに死に掛けてるだろ」

「エノモトさん。逃げて来たのでは無く、出てきてやったのです。」

「え?帰らないつもり?」

「よし。僕も居るよ。ここの部屋の主は釜さんだから、やっぱり釜さんを代表にしよう」

「えぇ、そうですね。こうなったからには」

「仕方無いなぁ〜…。まぁ別にいいけど。じゃあ、そー言う事で、君も何かあるなら相談にのるよ?」


「………………。」

相馬は榎本と見合ったまま石化した。

そして、まだ一口分しか減っていない紅茶にちびり口付け、カップを握り締める


「あ、鍵掛けて来ようか」

「奉行、私が…」

腰を浮かした大鳥に代わり、相馬が立ち上がって入口に向かった。

カチャリ、金属音を鳴らし。室内へ振り替えると、
三人は満面の笑顔を浮かべ相馬を歓迎した
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