Serial-novel

□ボーイズトークA
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「それより松岡くん、甲賀くんの話しは真ですか?」

「え、あー…まぁ、ハイ。もう結構前の話しですよ。アイツあの性格ですから中々誘いに乗らなくて」

松岡はクイッとビール瓶を煽った。
勿論こっちの勘定も、隣の部屋(つまり榎本)にツケだと松平が店に伝えている

「まさか、あんな行動に出られるとは思いもしませんでしたけどねー」

「そんで躾られたのか」

「俺的には、結果オーライっスよ」

「あの甲賀くんがね。まぁ、確かに激情家ではあると聞いているが」

「そっちじゃ寡黙とか冷淡で通ってっけど、可愛い奴なんですって!そんであの時なんかもエロいのなんの」

「アンタ、ホントに海軍か?俺の知る限りじゃあり得ねぇノリと発言だなオイ」

「あぁ、荒井さんとか榎本さんっスか?そりゃ、海軍は先生らみたく超上品か、超野卑た野郎か極端だなー。ま、御上品な方が断然、多いだろうけど」

「そんなものですか。満遍なく適度に下品な陸軍とはやはり事情が違うわけだ」

「否定はしねぇよ…」

「それで!そんないつも清ましてる源悟が、あん時は手が付けらんない程ブチギレて」

「拘束されたのか」

「上に跨がってきて、まるで屑でも見るような顔して『今日は俺がしてやるよ』って、もぉ堪らないっスよぉー」

「どうやら完璧に調教されてるようで」

「ホント、照れ屋な奴だから抵抗されるってか、よく殺され掛けるんですがねー」

「照れ隠しで殺されちゃ、洒落にならねぇな」

「土方さんだって似たようなもんじゃないっスか?」

「なんで俺だよ」

「だって榎本さんなんか、ずば抜けて気韻に満ち溢れてるし、我も篦棒に強いから」

「あぁ、毎回よくも懲りずに喚いてる気はするが知らねぇや。つか実力行使?」

「…ドンマイ、総裁。そんなんだからきっと源悟に助けを求めに来たんですよ」

「榎本さんだけじゃねぇだろ。あのチビ鳥はどーなんだよ。タロさんが痛め付けてンじゃねぇのか?」

「まさか、苦労させられてるのは私だ」

「へぇ〜、意外っスね」

「最中にも関わらず普通に仕事の話しを切り出したり。資料をがさがさ始めたりと…」

「は、確かにソイツは酷ぇな。バカだあの人」

「だから多少は痛め付けたとて、それは自業自得と言うモノだろう」

「やっぱ痛め付けてんのっ!?ソコに相手に対する気持ちとか思い遣りとか無いんですか!?貴方たちも人間でしょうっ!?」

「しかし行為そのモノは、そんな思い遣りや気遣いでは成り立た無いじゃないか」

「え、」

「最初こそは相手も自分も満足する事が目的かもしれないが、最終的には自分が達する為だけに動くだろ」

「…アレ?反論出来ねぇ」

「身も蓋も無ぇ言い方するな」

「まぁ、どんなに抵抗されようが、憎まれ口を叩きながらカラダはトロトロってやつ?そのギャップがまたクルんですけどねー」

「君、そんな事だから甲賀くんにいつまでも尻に敷かれてるんじゃないのか?」

「そうだな、尻に敷かれてるってかもう飼い慣らされてンじゃね?」

「えー?」

「積極的でナンボだろ。男なら」

「土方さん、積極的って言えば間ともなだけで。貴方の場合は単なる鬼畜ですよ」

「いや、松岡くんも少しは彼を見習いたまえ。甲賀くんのような一度も他人に屈伏した事の無い者が、動揺した様を見たいと思わないか?」

「源悟の動揺した様…?」

「敗北感に苛まれた動揺と悔しさが滲む眼で君を見る訳だよ。堪らないだろ?」

「気丈な奴ほど捩じ伏せる甲斐もあるってモンだゼ?」

「今よりも更に取り乱す甲賀くんが御目に掛かれるかもしれない…」

「ぉおお2人とも!さっきから楽しんでませんっ?!何ですかその微笑はっ!?余計なお世話っスよっ!」

「アンタが動揺してどーすンだよ」

「余りにもウブそうなモノだから、つい…ね?」

「なんつーサディストな人達だよっ!!俺が箱館湾の藻屑になったら責任取ってくれんですか?!ぇえ?!」

「コラコラ、あまり声を張り上げると向こうに聞こえてしま………っただろう」


松平の声が詰まり。土方も松岡の奥を横目で見ている。
松岡はゆっくり首を動かして背中にある襖を肩越しに見ると、
襖が左右に開かれ、甲賀が仁王立ちしていた。

「似た声だと思ったら…、ホントに磐吉だし。しかも泣いてるし」

「源悟ぉーーっ!」

「お前、酔ってる?」

「探したんだぞー!」

甲賀の脚に飛び付いた松岡。甲賀は奥の松平と土方を見据えた。
因みに2人は襖が開かれた事に微塵も動揺していない

「なんか、世話を掛けたようですね」

甲賀は脚元に居る磐吉を蹴り飛ばし。振り替えって、その奥の榎本を見た。
因みにこっちの部屋の2人はポカンと開いた口が塞がっておらず。固まっている

「榎本さんご馳走さまでした。迎えが来たんで戻ります」

小さく一礼した甲賀は、今の衝撃で酒が回ったのか畳みに突っ伏して動かなくなってる磐吉の襟首を掴み。
退室する間際もう一度、松平と土方を見た

「お2人して磐吉で遊ぶの、これ切りにして下さいよ。じゃ、ご迷惑を御掛けしました」

暗に、俺のモノに(松岡に)構うなと言ってるようだ。
どうやら他人に松岡を弄られるのは気に入らないらしい。
そこら辺が甲賀の愛情なのか。と4人は思って、
実は二階のこの部屋から引き摺られて行った磐吉が、階段や雪道ではどーなるか気もせず。ただ見送った

と言うより落ちた磐吉など気にする余裕が無い榎本と大鳥。
甲賀が勝手に襖を開いて、2人は漸く隣の部屋に気付いたようだ

「ま、また追っ掛けて来たのっ!?」

「貴方とも在ろう御人が、無断で呑みになど行くから新選組に探査をさせたまでですよ」

「なにその不逞浪士扱い!」

「そこに隠れて今までの話を聞いてたんだろっ!?」

「さぁ、ソイツはどーだろうな…?」

土方はニヤリ微笑らって、横目で松平と何か会話を交わす。
そして、徐に松平は立ち上がり榎本たちが居る隣の部屋へ移動し一見した

「かなり呑み散らかしたようですね。大鳥さん二日酔いし易いんですから程々で止めないと」

「うっさい!酔いも醒めたわ!!気分良かったのにもう台無しや!こーなったら手出しされる前に酔い潰れたるっ」

醒めたと言う割には口調に地を出し、ワインを瓶ごと煽ろうとした大鳥だが、
松平の手がその瓶を掴んだ

「お止めなさい。と言っているのが、分かりませんか?」

遂に松平の必殺技(絶対零度の何者にも有無を言わせない微笑み)が出た。
大鳥は蛇に睨まれた蛙の如く石化する

「大鳥さん、そもそも今夜は私と先約があったんでは?それを断っておきながら、このような場所で酔っているとは」

「それは、釜さんに、どうしてもと誘われてだな…」

「そうでしたか」

松平の眼が榎本を捕らえた

「え、ごごごめん!それは知らなかったからッ…!」

「いいえ。総裁を責めてる訳ではありませんよ。選んだのは大鳥さんですから」

「ゎわ悪かったタロさん!ホントにもうしない!!」

「二度ある事は三度あるんですよ。総裁、私が大鳥さんに、ここで怒ろうが何しようが総裁には関係ありませんよね?」

怒ってるから何か善からぬ事をする気なんだろう。と直ぐに察した榎本。
まるで血も涙も無いような眼を向けられ、後ずさって逃げの体勢をとったが、
そこで今度は榎本にも声が掛かった

「榎本さん、来な」

己の魅力全てを知った上で浮かべているだろうニヒルな笑みを見せ付けながら、手を伸ばしている土方。
榎本は2つの部屋の境で、足がすくんだ

「総裁、そこから御覧になります?」

「ホラ、ソイツの気ィ長くねぇの知ってんだろ?巻き込まれる前に来いよ」

何だこの連繋プレーは。と、榎本は思った

「かか釜さんっ僕を見捨てる気か!?行くなよっ!!そっちも危険区域だぞ!」

「誘ったのは私だけどさ。でも、タロちゃんの約束をすっぽかしたのは圭介だよね……ごめん!!」

バタンっ!!と今まで居た部屋に大鳥と松平を残して襖を閉じた榎本

「釜次郎のバカヤローっ!この非道がーーっっ!お前なんか鬼に喰われてまえー!!」

大鳥の恨みがましい叫びが榎本にも聞こえていたが、
それは入った部屋に待ち構えていた土方によって耳に届かなくなったのか、
大鳥の叫びが次第に小さくなり消えて聞こえなくなったのか、
どちらが早かっただろうか





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