Serial-novel

□Happy Christmas
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今夜は聖なる夜と謳われるクリスマスのイブ。
世知辛い世の中ではあるが、それをも包み込むように深々と雪が穏やかに舞う蝦夷の箱館五稜郭


相馬「あの、食堂で御用とは何でしょうか?また皆様お揃いで」

カズヌーブ「相馬サン、今日はChristmasです。ご存知ですか?」

相「確か、西洋の祭りだとか本で見たような」

大鳥「そうそう、流石は相馬くん。博学だ」

榎本「Christmasのケーキを作ろうかと思ってね。野村くんにプレゼントすれば喜ぶんじゃないかな」

相「はぁ。食い物なら大抵の物は喜ぶと思いますが、私まで宜しいのですか?」

鳥「水臭いなぁ僕らはもう同士なんだぞ。それに人手は多いほうがいいしな」

榎「今日は聖夜だよ。そんな日くらいは、穏やかに、ロマンチックに過ごしたいでしょ?」

カズ「題して『甘いケーキで甘甘なHappy Christmas大作戦』です…よね?」

鳥「いやいや『甘いケーキで甘甘ロマンチックHappy Christmas大作戦』じゃなかったか?」

榎「違うよ、『甘いケーキで甘甘ロマンチックに聖夜を演出してやっか!Happy Christmas大作戦』だよ」

相「あの、題名はそんなに重要ですか?もう充分に、作戦意図は承知しました」

鳥「それもそうだな。さっそくケーキ作りに取り掛かるとしよう」

相「しかし総裁、確か土方先生は甘い物が苦手かと」

榎「勿論それを考慮して、カズさんと試行錯誤したから大丈夫!」

カズ「ウィ!ヒジカタは酒も苦手と聞いたので、三日三晩寝ずに苦労しました」

鳥「だから、その時間を仕事に当ててくれって、タロさんも言ってるだろ」

榎「だけど今回は、ケーキなんて食べてくれなさそうな、タロちゃんの為でもあるんだよ?」

鳥「んー…タロさん甘い物も結構イケるぞ。前にブランデーと一緒に貯古齢糖を食べてたの見たけどな」

榎「うわー、嫌味なくらい様になってるのが目に浮かぶんだけど」

鳥「まぁ甘党っても郁さん程じゃ無いのは確かだろうが」

相「それで、どのようなケーキを作るんですか?」

カズ「ビュッシュ・ド・ノエルです。我が母国では、Christmasをノエルと言い。ビュッシュとは薪木の意味ですよ」

鳥「ほ〜…、フランスではそれが一般的なのか」

榎「たまたまロールケーキを町で見掛けて。使えそうだったから、各自一個づつ確保してあるよ」

相「丸くないケーキですか。この円柱形を薪木に見立てる訳ですね」

鳥「どうやって?貯古齢糖だと、甘くなるよな」

榎「そこで三日三晩、考え抜いて出た答えが珈琲だったわけ」

カズ「甘くも無く酒でも無くてココに有る物は、コーヒーくらいですから」

相「それなら黒く、木にも見えるでしょうね」

カズ「それでは、相馬サン兵糧からコーヒー豆を運んで下さい。オオトリは飾りのフルーツを。エノモトはクリームのホイップです」

榎・鳥・相「ウィ!」

カズ「パティシエの道は、ケーキほど甘くないのです!私が監督するからには、最高のプレゼントにしてみせますよ!」

誰一人パティシエを目指そうと言う訳でも無く、そんなクオリティーを求めちゃいないが、
生まれも育ちも洋菓子の本場御フランスのカズヌーブは、手を抜く事は許せないらしい。

蔦色の眼差しを厳しく光らせるカズヌーブの下、榎本と大鳥と相馬のケーキ作りが始まった。





一方、クリスマスの欠片も無く職務に没頭している松平と土方とブリュネが入り浸っている会議室。
松平の煙管、土方の紙煙草、ブリュネの葉巻で見事なヤニの三重奏が奏でられ。
如何にも有害な靄が立ち込め、天井の景色も掠れている部屋の扉を野村が叩いた


野村「うお!ゲホッ…臭ぇっ!ンン゙、どうしたんですかコレ!よく息出来ますね」

土方「うるせぇな。何だよ。何しに来た」

野「取り敢えず先に窓開けますよ」

松「寒いだろ」

野「厚着して下さいっ!」

ブリュネ「分かったよ、相変わらず威勢のいい侍青年だな。で、君は何しに来たんだい?」

野「それが、相馬が総裁に何やら食堂に呼ばれたんで。部屋に居ても暇だし何かあるかと副長に」

土「今ンとこは用もねぇや。それより相馬が榎本さんに呼ばれただと?」

野「そんで、件の面子が揃ってましたぜ」

松「また何か始めたか」

ブリュ「私を見ないでくれよタロー。今回は知らない」

野「分からねぇぜ?また、カズヌーブさんを気付かない間に怒らせたとか、心当りねぇンですか?」

ブリュ「いいや、ここ3日間はエノモトの所へ泊まりに行ってたしなー。怒らせるほど一緒に居なかった」

土「あー、一昨日から俺も榎本さんに夜は会ってねぇ」

松「君、食堂で何をしてるのか見て来たか?」

野「途中まで覗いてたんですが、くり…く─…」

ブリュ「Christmas?」

野「それそれ!それがどうとかで、4人で料理してますよ」

土「はぁ?料理?その、何とかってなんだよ」

ブリュ「Christmasは祭だよ。そして今日がイブですから、パーティでも始めるつもりではないか?」

松「ウチにそんな余裕は無い」

野「でも既に集まってるし。止めに行きますか?」

松「当然だろう」

土「オイ、なんか甘い匂いもしてね?」

ブリュ「きっとケーキだな。さすがはカズヌーブ。良い匂いだ」

野「あぁ、絶対ぇ旨そうな予感がする」

松「では乗り込むとしよう」

野「承知!」

開けた窓は空気の入れ換えのため開けっぱなしにして、野村が一番に特攻して行く。
松平は灰皿へコンっと煙管の葉を落とし。ブリュネもそこで葉巻を押し消し。
土方は紙煙草を噛みながら部屋を出た


廊下には、やはり甘い匂いが漂っている。
奥の厨へ進む間にも何やら随分と楽し気な声が届き、4人は耳を傾けた








「・・・・あ゙っ!」

「エノモト、不器用?」

「釜さん…薬品やら物質の調合はあんなに出来るのにな。コッチの方がよっぽど簡単だと僕は思うが」

「るせぇこんちくしょう!集中してんだから話し掛けないで!!」

「ごめんごめん。それにしても、なかなかの出来映えじゃないか?」

「そうですね。これなら文句ないかと」

「お2人は筋がいいようですね。手際も良かったので仕上がりも早かったですし」

「カズさんの指南が適切だったんだよ。勉強になった」

「っ、出来た!見てよカズさん!!」

「…えぇ、とても素晴らしいですよ。エノモトの個性がよく出ていて」

「うん、そうだな。釜さんの強すぎる個性が、余すところ無く満面に出てる」

「それどー言う意味…」

「総裁、肝心なのは見た目より気持ちです。先生も、きっと御喜びになられますよ」

「そうだよね相馬くん!」

((いま見た目よりって、ハッキリ言ったぞ…))





「僕が食べたくなってきたなー。なんか、あげるのが勿体無い気がしないか?」


「何をです?」

「「「「!!!!」」」」

入口で松平を真ん中にして横に並ぶ一同と、厨に佇む一同、
それぞれ目と目が合った。
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