Serial-novel

□秘書は見た!松平副総裁と
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皆さん、こんにちは。またお会いしましたね。
俺の名は大塚霍之丞です。
総裁の恩恵厚い秘書と言う仕事を仰せつかってます。
まあ、日頃は松平副総裁が総裁の右腕なわけで。普段なにやってんだよお前は、と思われがちだが、
俺は日夜総裁のお側で商談や外交が何たるかイロハの手解きを受けつつ雑務を行っています。


「大塚くん、後は頼めるかな?」

「はい。済んだら松平副総裁へ通しておきます」

ピラッと翻って差し出された一枚の書状には沢山の横文字。それを受け取り頭を下げると総裁が微笑んだ。
現来、典型的な美形である総裁のその笑みは、とても人懐っこそうで愛らしい…いや、屈託が無い。
こう言った雰囲気が外交の際に初対面の相手に好印象を与えるそうだ。


「君は仕事が早くて助かるよ」

「え、いや…まだまだ勉強させてもらってます」

「はは、君はホント真面目だねー」

世界の経済事情でも名の知れる方から言われると顔が思わず綻んでしまうのも仕方無い…と思いつつ、気を緩めると鼻の下まで伸びそう。
ヤバいヤバい。せめて総裁の御前では気を引き締めなければ─…。
だらしない顔を見られたかも、と心配してみれば、総裁は早々と机から離れ鼻歌混じりに棚の前へ

「ま、此処には優秀な逸材が多いし。そのお陰で私は楽なんだけどさ」

俺に見向きもせず戸棚の奥から総裁秘蔵の一升瓶を取り出し。早速、中身をグラスに注いでいる。
そう。この御方はその数多の優秀な逸材のトップであると同時にトップの呑兵衛だ。
その秘蔵酒も、実は港にいる専属のバイヤーを通して海外から入手している代物。副総裁はご存知のようで何も言わないのは副総裁も荷担しているからだろう。

「まだ昼前ですよ」

いや、昼前と言うか俄然、職業時間ですから。
これまでも何度こんな光景を目撃した事か。それでも一応、諭すのは怠らない。

「見た目じゃ分からないからバレないよ。本来こんなグラスで飲むのは不本意だけど、遠くから見れば水と一緒でしょ。君もどう?」

「いや…俺は総裁ほど強くないので、酔ってしまうと仕事が」

「じゃあ今度、一緒に飲みに行こうか」

「はい!有り難うございます」

「いつもの御礼だよ」

総裁は上機嫌にグラスを扇ぐ。
その労いに格好付けて御自分が酒にありつきたいのは言うまでもないだろうが、
総裁と呑めるなんて、ちょっとした秘書と言う立場の特権だ。
出来れば二人で…なんて言うのは贅沢だろうか

「そうだ。今日辺りはどうかな?行動ってのは決めたら即早い方が良い」

「はい、俺は構いません」

…此は、ひょっとして、ひょっとしたりするのだろうか。
邪魔者…いやいやいや、他の幹部の方々が居ない相席は始めだ。
俄然オレのやる気が出て来たぞ!
気合いを引き締め直し。
ソファーで酒と本を手に寛ぎ始めた総裁の横で俺は机に向かい万年筆を取ると、
扉がノックされた


開けてビックリ。
立って居るのは土方奉行並が御一人だ。
いや何も驚く事は無いだろうが…やはり、その名声と有り余る存在感と漂う雰囲気とか─…。
俺より背も高くて、嫌みな程に整った御顔付きをしていらっしゃる所為か…。
とにかく、同じ男からしても何処を取っても完璧と言う他は無く。いつ遭遇しようが臆さないと言うほうが無理だ。
思わず引きつった顔になってしまったが会釈をする

「ど、どうぞ。総裁は中に…」

「あぁ」

軽くポンと肩を叩かれ。自棄に落ち着いた声を掛けられただけなのに、
さほど話した事も無く、況してや新選組の連中と違い滅多に間近に御目見えしないから、変に体が強張った

「何か用?」

何食わぬ顔でソファーから出迎える総裁。
その長椅子の影に一升瓶を隠したらしい。


…─アレ…?
いま一瞬だけ奉行並の口が妖艶に歪んだのが見えた気がする…のは、
気のせいだよ…な?

俺が様子を伺っている間に、奉行並はソファーに近付くや否や総裁の隣に腰を降ろした。

「またアンタは、昼間っから酒か」

「まだふた口しか飲んでないよ」

「そう言う問題じゃねぇし。後ろに隠したの見えてンぞ」

「目敏いなー」

あの奉行並に対等に渡り合えるのだからやはり総裁は凄い。平然とそんな軽口まで言っている

「せっかくの休憩時間なのに…何しに来たの?」

頬をふっくらとさせながら総裁が睨む。
その眼は精一杯に尖らせても悪くないし、大福のように膨らむ頬は触れば気持ち良さそうだ。
あ、いやいや、触りたいなど恐れ多いけど─……



「アンタを抱きに来た」

「え゙……?」

ガタンっ!!

思わず椅子から転げ落ちるところだった

「大塚くん、どうかしたのか?」

「スミマセン。ペンを床に落として─…」

俺を見る奉行並。
何だコレ…金縛りにあったかのように動けない。
更に急にいろんな汗が身体中から吹き出して来た

「ごめん、聞き逃したんだけど。もう一回言って…?」

「アンタを抱きに来たって言ったンだ。終わったから酒呑んでンだろ?」

石化する総裁のその膨れた頬を事もあろうか、指先でつつく奉行並はこの際だから見て見ないフリだ。
勿論、お二人の関係を知らぬ者は居ない。
それでも動揺せずに居られようか。
常日頃から奉行並は凄い人だと思っている。なんたってあの新選組の鬼の副長。
そりゃ常に堂々として、どこか他を寄せ付けない雰囲気と面持ちには圧巻する。
するけど、何を堂々としていらっしゃるのだろうか…




俺、逃げよう。

早く総裁室から跡形も無く消えて無くなりたい。
もう飲み会はいいや。
あ、いっけね☆早く松平副総裁にコレ渡して来ないといけないんだ。

「では総裁、オレ副総裁に所用があるので失礼します」

「おぅ、気が利くな」

「ヤ!ちょ、見捨て無いで!!」

「わっ!総裁っっ…」

早々に扉に手を掛けると、背後に泣きながら総裁が飛び付いて来たから部屋から出られないっ!!
無理無理無理無理無理。
誰もその人に敵う奴なんてココに居ないからっ!!


「榎本さん、俺の目の前で他の男に縋るったァいい度胸だな。今日はソイツに犯ってもらうか?」

なに言ってンのこの人!!
ちょっ─…誰かその鬼畜を黙らせてくれえぇ!!!!

何故だろう、急激に目尻が熱くなってきたと思ったら、総裁も顔面蒼白で涙目だ

「どうして急にそんな話しになるのっ…っっ!?」

俺の背中に引っ付いていた総裁が、ぶるっと一つ身震いして、腰が抜けたよう急にヘナヘナとその場に座り込み始める

「総裁?!どうされましたっ?」

「っ、なにコレ…力入んな─…」

「え?」

肩を支えて顔を覗くと、
呼吸は忙しなく熱がありそうな程に顔は真っ赤だ

「やっぱ輸入モンは聞いた通り、効き目が早いな」

「…─まさか、酒に一服…何か、盛った…?」

「心配無ぇ、松平が仕入れた異国の媚薬だ」

えぇええぇえええ!!??
び、びび媚薬って─…

「昼間から総裁が酒の匂いさせちゃ示しが付かねぇだろ?此に懲りたら、少しは反省しろよ」

俺から既に力無い総裁を引き剥がし、顎に手を掛ける奉行並。
宥めるような声色でも、満足気に弧を描く口元に切れ長の三白眼だけは、笑っていない。

まったく誰だよこの人を母なんて言った添役はッ?!
時と場合に寄っては、オレの頑固親父なんて比じゃなくやっぱり恐ろしいわっっ!!鬼だよ!!これぞ正に鬼だっっ!!
その薬に一役加担しているらしい副総裁も相変わらず怖いし。
俺は御二人が我が軍の味方で良かったと心の底から思った。我々の総裁をいつもこんなにも気に掛け思い遣り、時にこうして制していてくれるのだから…


「榎本さん、気分はどうだ?」

直ぐ横にある紙が無造作に散らばった俺の机に腰掛けた奉行並は、足元で座り込む総裁を有意義そうに見下ろす。

「はぁ─…熱い、カラダ…痺れて…助けて」

うわっ…、目尻をトロンと下げた総裁は徐にフラッと立ち上がり。
奉行並の首へ細い腕を回すといきなり口へ噛み付いた。驚きも動じもせず、ただ、それに平然と応える奉行並。
総裁は、背の高い奉行並の位置に合わせ背伸びをしながらシャツを握り込み皺を作っている

「っふぁ…は、ンン…や、まだ、もっと─…」

クチャクチャと水音が自棄に耳に響いて、見ているのも偲び無いが、どうにも目が離せない。
首が反り返るほどの角度で、眉を頼り無く崩しながらも総裁は自らせがむように角度を交えては口付けを続け。
おもいっきり目の前で繰り広げられるそんな光景に、無意識に、乾いた俺の喉がゴクリと動く。

「熱くて痺れてるだけかよ。前も腫らして、痛そうだな」

「ぁああっ…!」

奉行並の手が太股の内側を撫で上げた瞬間、悲鳴と共に総裁の躯が奉行並の胸板へ崩れる。
媚薬の効果は見て取れる程だ。誰もが目を見張らせる総裁の明晰な頭脳は確実に薬で犯され正常では無い。
きっと総裁は、この現場に俺が居る事すらも、もう分かっていないのかもしれない

以前、総裁より何倍も体格の大きい諸国の外交官を相手に、その知識で堂々と渡り合い。遂に押し黙らせてしまった時、本当に誇らしく思えた。
その時、流暢な英語を意図も簡単に話していた唇は、今は水分を含み赤々しく。其処から啜り泣くような、か細い声しか聞こえない。
薬の所為とは言え、郭の女のように安っぽい声を出し。あられもない顔を見せながら男を誘うなんて…
あああコレが世に言うギャップか!?ギャップ萌ってやつですかァアアァア!!

目を疑いたくなる程の驚きや、少なからず感じる嫉妬や歯痒さも全て通り越し。俺はただ漠然とした


「んぅ…変なの…カラダのなか…ドクドクして─…どうにかして、ッ、」

「どうにかって?」

「奥、おく…も、ぐちゃぐちゃして」

今までキチンと襟が綺麗に整えられ皺一つ無かった腕章の光る軍服を総裁は無理矢理に脱ぎ払ってゆく。
ベストとシャツの前を外し肩に掛かった服を外そうとした時、不意にその手を奉行並が掴んだ

「やぁ…熱いから、脱ぎた…」

「そう焦るなって。薬、思ったより効き過ぎたか」

冷静に苦笑を浮かべ、喉を鳴らしながら総裁と向かい合うよう膝に抱え。露になった首筋に舌を這わせる

「アぁ、ん、焦ら、はぁ…」

「バカ、腰動かすな。釦で身体に傷付くだろ」

そう言うと奉行並は、総裁の躯が未着していた御自分のチョッキを片手で開いていく。
媚薬を呑ませようなんて、やっぱり鬼の副長と言うからとんでもない思考の持ち主だと思ったけど、そんな些細な気遣いまでしているんだ。
なんて冷静に頭の片隅で少し安心してしまった俺…。
いやいや、こんな色男なんだから。只単に手慣れているだけなのかもしれないが



「…─オイ」

「っえ。は、ぁ─…」

突然、奉行並の刃物のような眼が俺を見据える。
内震える総裁を抱き止めたまま、白い肌をした肩口の緩い曲線を真っ赤な舌で静かに準りながら…


「テメェも交ざるか…?」

「なっ─……」

「コイツに惚れてンだろうが。抱かせてやっても良いゼ」

余りにも唐突で、そんな事を平然と言う眼は相変わらず恐ろしい程に酷く鋭く、端麗で。
声は、まるで地獄の底から這い上がってくるような低音だ。俺は返す言葉を見失い無言で見た。

「今なら多分、正気に戻っても記憶飛ばしてッから朧気にしか覚えちゃいねぇよ…。お前のモノ食わせて、好きなだけコイツの中でぶち撒けちまえば良い─…」

「ひぃんっ、…ぁう」

奉行並の手が総裁の双丘へ向かい、布越しに中心を爪先で突く。
まるで何かの呪文のように続けざまの卑猥な言葉や、総裁の声から何とか難を逃れるべく首を縦に振う。
そして…

「止めて下さいっ!」

自分でも少し驚くほど大きな声が出た。

「そ、それ以上は止めて、下さい…。確かに俺は総裁を誰よりもお慕いしてますが、…どうかしてる…」

こんな事を奉行並に申すなんて、今すぐに殴れるか、新選組に斬られるか…
とまで思ったが吐き捨てずにはいられない。
俺はただ総裁は本当に凄い人だと思うし、尊敬している。そんな人に信頼されているのだから、それだけで十分だ。
奉行並が言う惚れていると言うのも、もちろん否定は出来無いが。
こんな事に巻き込まれては、俺のその想いまで汚されそうで堪らなく怖い


「そうか、『汚す』ね…。悪ィな、とんだ汚れで」

俺の憶測とは裏腹に、冗談のよう軽く笑って流され。
顔を上げて奉行並の顔を見れば、何が可笑しいのか、クツクツと眉を崩して、
本当に笑っている…?
こんな笑い方をするような人でもあるんだ…

「お前、仕事は?」

「……」

無意識に先程の紙を握り締めている手が強張った。
もう副総裁に渡すだけだ。
総裁を片手で抱える奉行並から徐に手を伸ばされ、それを見せた

「お、何語だよコレ…、すまねぇが俺は横文字は苦手なんだ。今必要なのはコレだけか?」

「副総裁に仰せ付かってます」

「終わってるなら早く渡しに行けよ」

「はい…し、失礼します」

頭を下げた上から、もう一度だけ声が掛かった


「さっきの、誰よりもコイツを慕ってるってのは訂正しろ。なにも君だけじゃあねぇだろうさ…」


そんなの…こんな事を平気でやる人に言われて信じられるか…
なんて内心だけで愚痴ってから、俺は逃げるよう長官室を後にしたのだった。





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