Serial-novel
□HappyなX'mas…?A
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港にある西洋料理店の二階の部屋から、土方はそっと廊下に滑り出た。
あれから、土方が待てども額兵隊の星恂太郎は当然、栗を持って来なかった。
そしてそれが誤報だと気付いた時には榎本との約束の刻限が過ぎていた。
遅れながらも街中の待ち合わせ場所に向かおうとした土方だったが、
異国に精通する者が多いこの政府。どこから話が出たのか見当があり過ぎるが、
結局は捕まった土方と一足先に街中に居た榎本も招集して栗ならぬ、クリスマスパーティーがおっ始まった。
宴も中盤に差し掛かり酒が程好く回って賑やかに盛り上がった室内では、誰かが中座しても誰も何も気にする様子はない。
大鳥が歌を始めたところで、耳慣れない異国の歌と陽気な笑い声が、扉越しに追いかけてくる。
その時、どこからか冷たい風が吹き込んできて、廊下に置かれた洋灯の火が揺れた。隣の部屋の扉が少し開いている。
暗い室内を覗き込むと、外の露台に続く窓が開いているようだった。部屋の中を通り抜け、土方は窓から露台に出た。
12月も下旬。多少の風でも肌を刺すほど凍てついている。その空気が宴に火照った体には丁度良かった。
そこに人影が一つ、手摺に凭れていた。土方はその隣に並んで手摺を掴んだ。
眼下に広がる闇の中に、星屑を散らしたよう明かりが無数に瞬いている。
「……綺麗だな」
思わず呟いた。
「うん」
手摺に凭れていた榎本が言った。
「高台だからね。昼間なら港と街が一望出来るよ」
今は町も港も闇夜の中に塗り籠められ、散らばる光の粒だけが、家々や船のありかを告げている。
「一度は2人で来たかったんだよね。今日は余計なのまで付いてるけどさ」
隣の部屋を指差して、榎本は苦笑した。盛大な笑い声が外にまで漏れてくる。
土方は黙って榎本の肩に手を乗せた。
「怒ってんのか?」
ぽつりと言う。
「ん?」
榎本が土方の方へ振り向く
「約束に遅れたこと。捕まっちまったし」
「ああ、それね。もう怒ってない」
榎本は笑う。
「ちょっと拗ねてるだけ」
「やっぱ機嫌悪ィじゃねぇか」
言うなり、榎本を抱きすくめた。
「ちょ、こんな所で……」
榎本が慌てる。
「見えやしねぇって」
暗闇の中、土方の動きが大胆になる。
「バカ……」
咎める榎本の声が弱々しくなった。
「なあ、もうこのまま帰っちまおうぜ。アイツらほっといてよ」
耳元で土方が囁く。
榎本は土方に縋り付いたまま小さく頷いた。
その刹那、頬に冷たいものが落ちてくる。
「あ、雪」
空を見上げて榎本が呟く。
土方もつられて見上げれば、そこから音もなく雪が舞い始めていた。
「そーさーい。ひじかたさーん。どこですかあー?」
廊下の方から二人を捜す声が近付き。榎本は弾かれたように土方の腕から逃れ出た。
「あーいたいたー」
かなり上機嫌な声で、星が露台に顔を出した。
宴会の席だから赤い隊服は脱いでいる。
「荒井さんと島田殿が大福早食い競走してますよー。2人がお2人にも見届けてほしいって張り切っちゃってー」
露台の2人は思わず顔を見合わせ。
そして、どちらかともなく噴き出した。
隣室から「郁さんガンバレー!」と叫ぶ大鳥の声が、
雪降る蝦夷の聖夜に溶けていった。
終 11'1225
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最後、2人にとってのサンタさんになれなかった星恂でした(笑)←額兵隊はサンタさんじゃない