xxxHOLIC

□事故
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次の日の朝、四月一日はいつものように、自分と百目鬼の分の昼食を重箱に詰めて、風呂敷に包んだ。

それから侑子とモコナと自分の分の朝ご飯をこさえて茶の間の丸テーブルに運ぶ。夕べは夜遅かった事もあり、百目鬼の家の近くにある侑子の店に泊まったのだ。

「…四月一日」

丸テーブルに朝食を並べていると、寝起きのせいかいつもよりテンションの低い侑子が、丸テーブルにもたれかかりながら突然四月一日をジッと見つめた。…その眼差しはどこか意味深で、目の前にいる四月一日本人以外の“何か”を見つめているようにも見える。

「今日、頑張ったら女の子からいっぱいモテるかもしれないわよ」

え?と頭を傾げるも、次の瞬間、侑子の意識は目の前に並べられた朝ご飯にいってしまったらしく、両の手を合わせいただきますをしたので、四月一日は何となく詳しい事情を聞きそびれてしまった。

それにあまり積極的に聞きたくない気もあったのだ。…主に、『頑張る』事について。




朝食後、四月一日は片付けまでキチンとしてから店を出た。


左手にはさして重くない鞄、右手には少し重い重箱。四月一日はそんなに食べる方ではないが、百目鬼がこれでもかと言うくらい大食いなのだ。

百目鬼に弁当を作るのは、以前、あやかし関連の事で自分のせいで怪我を負ってしまった百目鬼に対するお詫びのようなもので始まったのだが、怪我が治ってそれからも、いろいろと迷惑をかけたり助けてもらったりで何となく継続してしまっている。

というのは、あやかしに好かれやすい四月一日に付き合って、あやかしを寄せ付けず、尚且つ祓う力を持つ百目鬼が何かと行動を共にするようになったからだ。

今ではもう、百目鬼の分まで作るのが習慣じみてきていて、四月一日は何となく自分自身にガックリしてしまう。

とはいえ、料理が好きな四月一日は自分が作った物をいっそ清々しい程に毎日平らげ、更に次の日のおかずのリクエストまでちゃっかりしてくる相手がいる、という事に関しては悪い気はしていない。


自分の作った物を、口には出さないが美味しいと感じてもらえて、そして明日もまた食べたいと思ってもらえるのは、今までずっと一人でいた四月一日にとってはとても嬉しい事なのだ。例え相手が宿敵・百目鬼静であったとしても。

四月一日は百目鬼と初めて目が合った瞬間から喧嘩を売らずにはいられなかった。理由はわからないがどうしようもなく腹が立ったのだ。平和主義者であり、人見知りなども全くしない四月一日には初めての体験であっただろう。

侑子曰わく、四月一日に付き纏いたいあやかしが百目鬼と仲が悪くなるよう仕向けているらしいが、四月一日は聞く耳持たず、毎日百目鬼を罵る事を忘れない。百目鬼の方は何を言われても平然としているが。

その、百目鬼の家の近くまで来て、四月一日は足を止めた。通学路の途中にあるので通りかかるのは仕方がないし、最近は百目鬼に重たい重箱を持たせる為に一緒に登校だってするようになった。しかし今日に限っては何があっても朝、百目鬼にバッタリ会いたくなかった。だから今日はいつもよりかなり早く店を出たのだ。


そっと門の辺りの様子を伺う。

百目鬼の家はかなり大きな寺なので、門もやたらと大きい。

門の影に隠れていやしないか、今まさに家を出るところだったら、などと警戒しながらひたすらそこに人影がない事を祈る。…どうかどうか、バッタリ会いませんように。まだ家で呑気に飯でも食っていますように。

そうして四月一日のその願いはあっさりと却下される。

「うげっ!」

門の前を通り過ぎようとしたその時、ちょうど奥の方から歩いてくる百目鬼静その人とチラッと目が合ってしまった。

四月一日はまるでその存在に気が付かなかったように、競歩よろしく素早い動きで門を通り過ぎた。

いつもならこの右手にあるやたら重たい重箱を、その原因である百目鬼に少しでもはやく押しつけているところだが今日はいかんせん、関わりたくないのだ。

「おい」

しかしそう思っているのは四月一日だけらしい。百目鬼は自分を無視した四月一日を無視で返す気はないらしくこれまた素早い動きで追いかけてきた。

その百目鬼に対して四月一日もなかなか頑固だった。話しかけられてもまだ気付かぬ振りをして、しかし先程よりもペースを上げて歩く。




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