□Trick or Treat!
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現実世界で旅を続ける俺たちは現在、ロンドン、コッツウォルズ地方のとある村にいる。


調べ物の関係で少しの間ここに滞在する事になったんだが、ここの村人たちは流れ者の俺たちに対してとても良くしてくれる。農業が盛んで食べ物が豊富なせいか、村全体が温和だ。
一週間前ふらりとやってきた俺たちが世界中を旅している事、その目的こそオブラートに包んででしか喋らなかったものの、とりあえず宿に困っている事を話してみると、村人の一人が快く、家中の掃除という条件に、もうだいぶ使われていない一軒家を貸してくれた。

長い間主不在のその家は、成る程、最初は簡単すぎると思ったが…条件に出してくるのが頷ける程に掃除のしがいがあった。
蜘蛛の巣はあちこち張りたい放題だったし、変な虫とか鼠とかいたし…埃は…あんな厚み、今まで見た事なかった…。ありがとう貴重な体験させてくれて。おかげで次の日は体中筋肉痛に襲われて、その上よくわかんないボツができたよ。…痒…。

まぁ、そんな訳で筋肉痛に襲われながらも後はたっぷり調べ物するぞ!!とか気合入ってたところに、しかし村人の一人から明日行われる、『ハロウィン』なる祭りに参加しないかと誘われた。

ハロウィンが何なのか聞いてみたところ、どうやら収穫祭の事らしい。祭りの内容はというと、その日の夜、村の子どもたち仮装した姿で家々を回り、『Trick or Treat』…お菓子くれなきゃイタズラするぞ!と玄関口で叫んでお菓子を貰い回るのだそうだ。

あと、ハロウィンの夜はお化けやら悪魔が出てきて悪さをするので、魔よけ用にと変な顔に刳り貫かれたカボチャのランタンを貰った。窓辺や玄関に置いとくといいらしい。俺は苦笑いでそれを受け取ったんだが、アルの方は何だか大はしゃぎだった。

…かなりお世話になってる訳だし断る訳にもいかないから、俺たちはハロウィンに参加する事にした。…あ、だけどもちろん仮装して子どもたちと家々を回るわけじゃないからな!お菓子を配る側の人間として参加って事だからな!?…アルはちょっとやりたそうだったけど…。俺はそんなガキっぽい事は絶対にお断りだぜ。はん。




***




「明日、楽しみだねぇ」

暖かそうな湯気が立ち上るお茶を飲みながら、のほほんと呟いたアルを俺は賞賛の眼差しで見つめていた。

「つかさ、マジで美味いんだけどこのクッキー…」
「そぉ?…ふふ、ありがとう…v兄さんにそう言ってもらえるなら沢山作った甲斐があったよv」

俺は目の前に置かれた二人分のクッキーを次々に口に放り込みながら今真剣に思った事を素直に口にしてみる。

「お前、普通にパティシエになれるんじゃねぇ?」

真剣な顔をしてそんな事を言う俺がおかしいのか、アルは声をあげて笑い出した。


「あははははっ!兄さんたらクッキーの一枚や二枚で大袈裟すぎだよ!!」
「何だよ!俺はマジだぞ!」

む。とむくれた俺にくすっと笑って、アルは俺の両手を握った。

「…まぁ…パティシエ自体は興味あるかも。兄さん専用って意味でだけどv」
「は?」

「あまぁいチョコレートみたいな兄さんを僕の手でとろとろに溶かしてみたいって事…v」
「!!!」

アルはそう言って握る手の力を強めた。

「だから…ね?兄さん…」

…そして近付いてくる笑顔。目が、目が何かエロいぞこの野郎!

「な、何が“だから”なんだよ…」

俺は直ちに危険を察知して後ずさろうとする。…が、手を更にギュウッとかなり強く握られ、逃げようにも逃げられなくなった。

「いてっ!こ、こらアル!痛い!!離せ!!」
「材料が逃げちゃ、流石の凄腕パティシエも困っちゃうよ」

「!!!」

ななな何が凄腕パティシエだ!自分で言うな自分で!!ほ、ほんとだけど…

「さっv美味しく美味しくしてあげるからv」

青くなる俺とじりじり間合いを詰めてくるアルに。

「く…!!!ばっ、馬鹿野郎!!!」

そう叫んだ俺は、窮鼠猫を噛む。

捕まえた!!とばかりに飛び掛ってきたアルに

「せいやぁああああ!!!」
「うわぁあっ!?」

巴投げをかましてやった。









ズドン。

アルの背中が床を叩いた。




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