□世界で一番大好きだ!*
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そしてそう、これは数日前の事。
アルがもうすぐクリスマスだね、なんて朝飯の時にニコニコしながら言ってきたのだ。

「そうだな。」

俺もニッコリ笑い返した。
するとアルは更にこう続けてきた。

「僕、もう休みとったから。」

アルは当たり前のように言って、ジャムをたっぷり塗りたくったトーストを俺によこした。

「さすがアル…。こういう事に関しては行動早いな」

そのトーストを頬張りながら無関心そうに俺がそう言うと、アルは急に真剣な顔つきになって顔を近づけてきた。

「兄さんも!!早めに休みとっておいてよね!?」
「ふ…ふぁい…」




バイトの開始時間が違うせいで、俺たちは最近あまりコミュニケーションがとれていない。
朝はアルがバタバタしているし、アルが夕方帰ってくると今度は俺がバタバタしている。

朝から夕方までバイトのアルと夕方から大体早朝までがバイトの俺。
滅多に休みも入らないし、入ったとしても疲れていてほとんど寝て一日を過ごしてしまう。
更に悪い事に、全くと言って良いほど見事に二人の休みは重ならないのだ。文字通りすれ違ってばかりの日々。

…となると当然恋人同士の営みもオアズケ状態で。




俺はともかく、アルは相当滅入っているようで、この間なんか朝早く俺がバイトで疲れてくたくたになって帰ってきた時、ドアを開けた途端いきなり玄関先で押し倒された。

あの時はあまりにも疲れていたしアルの顔が何かものすごく怖かった(野獣と化していた)から、すぐにアルの★★★を蹴り上げて寝室に逃げ込んで、その後急いで鍵を閉めたっけ。

それからも何回かそんなような事があったけど『疲れてるから』と言ってかわし続けているのだ。









「絶対だよ!?絶対休みとっといてよね!?」

脅迫に似たアルからのお願いに俺はトーストを頬張ったままこくこくと頷いた。




そしてその夜。俺はバイト先に向かって、いつも通り仕事をこなし、休みの希望届けを……出し忘れた。
朝帰ってきてアルに『お休みとれた?』と聞かれてその事を思い出した。

「もう、早く届けを出さないと休みとれなくなっちゃうよ!!」
「わりーわりー、今日出す」

そしてその日もついつい出し忘れ……。

「兄さん今日こそ忘れないでよ?!」
「わかったっわかった」

しかしまたまた出し忘れ………。

「ねえ兄さん。兄さんが忘れても大丈夫なように僕がその顔に書いといてあげようか?」
「ま、待て!今日こそ絶対出すから!!ちょ、まっ!!それ油性!!油性だって!!ギブギブ!!」




アルからの威圧が殺気を帯びてきた頃、俺はようやく休みの希望届けを提出した。

…………のだが。

「あぁ!?クリスマスに休みをとりたい!?………………だぁあめに決まってんだろ!!」

店長に速攻で断られてしまった。

「な、何で!?」
「お前なぁ、そういうことはもっと早めに言っといてくれないと困るよ。…おとといまでならまだ何とかなったんだがなあ、クリスマスはもうお前以外みーんな休みとっちまったからな。どうしても休みたけりゃ他のやつに直接代わってくれるように頼むんだな。」

「そ…そんな…マジかよ…」




まあ、一応ダメもとで全員に聞いてみた。




バイト仲間一人目

「ナンシー!頼む!!代わってくれ!!」
「嫌に決まってんでしよ!?」

バイト仲間二人目

「ケント!!頼む!!」
「馬ぁ鹿、ダメに決まってんだろ?クリスマスだぜ?」

バイト仲間三人目

「ソフィア…お前今日可愛いな。……………………頼む。代わって」
「あんたのお世辞がもうちょっとうまくなったらね」

最後のバイト仲間…四人目

「デニス…代わって、くんね?」
「んん〜…。一回ヤらせてくれたら考えてもいいよ。エドってセクシーなお尻してるなってずっと思ってたんだよね〜。」




……と、いうわけで全滅だった。




帰り道、やけに足が重かった…。

アパートのドアがいつもの倍開けにくかった。





寝室に行ったらアルはまだ寝ていた。俺はほっとして自分のベッドに入った。

(明日だ…明日、言おう……)

なんて、嫌な事を先延ばしにしてみたけど、嫌な事は先延ばしにしたっていつかはやらなくてはいけない。アルに面と向かって『ダメだった』と言わなければならないのだ。









そして現在、その『嫌な事』を体験しているわけだが。




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