□クリスマスの狂気
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※兄さんへ拷問する日




部屋のカーテンに日の光がぼんやりと透ける。

「…もう、朝かぁ」

アルが満足そうに、でも少し残念そうに呟いたのが聞こえてホッと息を吐く。

朝が来たのだ。

終わった、のだ。

これでやっと、解放される。

俺は昨夜から、暴れないようにと後ろ手にロープで拘束されてベッドに繋がれていた。

口は騒がないようにとタオルを巻かれている。

それでも往生際悪く暴れたから、縛られてる場所が痛い。…早く、取ってくれ。喉も渇いた。…疲れた。

「おはよう、兄さん」

アルがいつもより一層優しく微笑みかけて、俺の頬をスルリと撫でる。

上機嫌、だ。

昨夜から今にかけて俺に狂気をぶちまけ続けたからだ。

いつからだったろう、クリスマス限定で発狂するようになったのは。

俺は毎年何とか逃げだそうとするがいつも結局とっつかまり、無理矢理『事』に及ばれる。

手を縛り上げられ、口を塞がれた俺はまともに叫ぶ事もできずただただ耐える事しかできなかった。…今年も、逃げられなかった。

「兄さんどうだった?僕の愛は」

愛…?

アレが…かよ。縛り付けて無理矢理及んだアレが?

「………ああ、ああ、ごめん。タオル取るね」

俺が何も言わないのを見て、しばらく待っていたアルだったが、俺が『喋れない』ようにしたのが自分だったと気付いてタオルを取った。タオルは口を塞いで後頭部辺りで堅く縛られていた。

「はぁ…っ」

久しぶりに新鮮な空気を口から取り入れられた。


「こっちも取るよ」

アルはそう言ってベッドに縛り付けておいた手も解放した。

「ああ…兄さん…痕が」

言われてヒリヒリする手首を見れば、ロープの痕が赤く浮き上がり、ところどころ痛々しく擦り切れていた。

「…もう…暴れるからだよ…」

アルは諌めるように、憐れむように呟いて、あらかじめサイドテーブルに用意してあった塗り薬を手に取った。

小さくて平たい瓶の蓋をキュルキュル、と捻って開けて、中のクリーム状の薬を指ですくって俺の痛々しい手首へ塗り込む。

「痛…っ。」


痛みに顔をしかめると、逆にアルは微笑んだ。

「しばらくは手首を隠さないとね…」

何嬉しそうにしてんだか。

俺はジロ、とアルを睨みつける。

「ところでさ…」

…でもアルはそれをスルーして、俺のデコにチュッと音を立てて軽くキスした。

少しは気付いてくれよ俺の気持ち…

「どうだった?僕の愛は?」

喋れるようになったところでまたこの質問か。

俺は狂気に耐えながら、今年こそガツンと言ってやると決めていた。

「…なん、か…」
「え?」

声が掠れてうまく喋れない。

でも俺はめげずに、今度は腹に力を入れて声を出した。

期待に笑みが浮かぶアルに、ガツンと言ってやる為に。

「お前なんか―――…っ…」









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