□お店屋さんごっこ
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【お店屋さんごっこ〜ウィンリイちゃんの場合〜】




お昼ご飯を食べ終わったエドワード君とアルフォンス君は約束通りウィンリイちゃんの家へとやって来ました。

二人の手にはそれぞれ自分がやりたいお店屋さんの材料が抱えられています。

「兄ちゃん、あれ見て!」

ウィンリイちゃんの家の庭先には見慣れない小さな木製の丸テーブル置いてありました。そしてそのテーブルの上に『開店準備中』と書かれた紙がセロハンテープで貼り付けてあります。

「…準備中だって、兄ちゃん」
「…ちょっと早く来すぎちまったかな」

無理もありません。エドワード君とアルフォンス君は家に帰った後飲み込むようにお昼ご飯を胃袋にかっ込んだ後、猛スピードで自分のやるお店屋さんの準備を整えてここへやって来たのですから。

二人は仕方なく自分たちのお店の開店準備をして待つことにしました。









【一時間後】









「おっせぇーーーっっ!!!」

エドワード君は空に向かって吠えていました。

「まぁまぁ、きっといっぱい作ってるんだよ」

アルフォンス君はそんなお兄ちゃんを宥めるのに一生懸命です。

…というのもここへ辿り着いてから一時間。ウィンリイちゃんとクッキーは一向に姿を現す気配がないのです。とっくに自分たちのお店の開店準備を終えた二人は、草むらに寝転がってシリトリなんかをやってました。…しかしいい加減、シリトリをやり続けるのにも限界がやって来ました。…それは勿論、単語が出尽くしたということではなくて、退屈を埋められなくなってきた、と言うことで。

「ちょっと見に行ってみようぜ」
「うん」

二人はウィンリイちゃんが今どうしているか、確かめてみることにしました。




*** 




「………うっ。」

玄関のドアを開けると、まず二人は顔を顰めました。その理由は、異臭です。思わず咽てしまいそうな異臭。それに加え、キッチンから立ち上る黒い煙。

「………」
「………」

二人は思わず不安げに顔を見合わせながら、恐る恐るキッチンの方へ向かいました。

「うわーんうわーん」

そこではウィンリイちゃんが生地をこねながら一人で号泣していました。

「ウィ、ウィンリイ泣いてるよ兄ちゃん」
「でも生地はこねるんだな…。」

「…って、そんなことに感心してる場合?早く行ってあげよう?」
「しゃーねーな…。つか、おじさんとおばさんとばっちゃんはどうしたんだ?大人は全員いないのか?」

二人は泣いているウィンリイちゃんを慰めてあげようと、一歩足を進めて―――…そのまま歩みを止めました。

「うぅ…う…こ…こ………こんちくしょ―――っっ!!!!!」

泣きながら生地をコネコネしていたウィンリイちゃんが突然、その生地を引っつかんだかと思うと、ビターーーン!!と壁に向かって投げつけたからです。生地は壁で平べったく潰れました。

「お母さんやばっちゃんと焼く時はいつもうまく行くのに!!」

それから壁に向かってズンズン歩いて行ったかと思うと、

「人が丹精こめて焼いてやってるのに何度も何度も真っ黒焦げになりやがって!!!」

そう叫んで壁に貼り付くクッキーの生地を引っぺがし、

「何壁に貼り付いてんのよ愚図!!あんたにはここがお似合いよっっ!!!!」

先程まで生地をこねていたシンクの上に再びビターーーン!!!と叩き付けました。

「あんたなんかこうやってあたしにずっとこねられてればいいのよっっ!!!おらおらおらおら!!!」

ウィンリイちゃんの手の中で、クッキー生地はグネグネと形を変え、時折千切れたり飛び散ったりしました。




*** 




「おや、お前たちこんなところで何してるんだい?」

あれから更に三十分後。

自宅の玄関先で孫の幼馴染兄弟が膝を抱えてカタカタと震えているのを、出張診察から帰って来たピナコばっちゃん、それからウィンリイのお父さん、お母さんが発見しました。

「何かあったのかい?」
「「…いつものウィンリイじゃない…」」




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