□脅迫
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「そう、でもね、それでも今まで楽しかったよ『エドワード』、さん?」
「やめろっ!!」

兄さんの震えがひどくなった。しがみつく力も本気すぎて痛い。ほらね、いよいよ本格的に取り乱して来た。

僕に依存し過ぎてる兄さんが、僕からこんな事言われて冷静でいられるはずないもんねぇ。

「何がエドワードさんだ!勝手にそんな呼び方するなっ!!」
「知らない」

ほら、こうやって突き放されたら痛いでしょ?

僕だって痛いんだよ。少しはわかった?

「俺の事…世界中でお前ただ一人にしか呼べない特別な呼び方があるだろ…?ほら…」
「知らない」

必死に縋る兄さんを更に冷たく突き放してみる。

「なぁ…っ。」
「知らない。僕あなたの弟じゃないもの。ただのアルフォンス・エルリックだもん」

「〜〜〜…ぅっ。」




…ついに兄さんが泣き出した。




流石に『弟じゃない』は言い過ぎたかな。


兄さんが泣くなんて本当に珍しい事だから不覚にも驚いた。

「泣いてるんだ、兄さん」
「………………」

泣き落とし…か。まぁ計算ではないんだろうけど。そんな器用な事兄さんができるわけないからね。マジ泣きかぁ…嬉しいな…

「悲しいの?」
「………………」

「慰めてあげたいけど、僕にはそんな資格ないからなぁ。…ウィンリイにでも慰めてもらないなよ。僕が出て行った後に」
「…ア…ル…」

相変わらず僕はドアノブに手をかけたまま、ただ突っ立ってる。抱きしめてあげたい気持ちは山々だけど、できない。してやらないよ、………まだ、ね。

「離してよ、もういいだろ」
「冷…てぇよ…アル…俺の事…好きなんだろ…?だったら…」


『弟』を繋ぎ止めたくてしかたない兄さん。よっぽど必死なんだね。普段だったらこんな事絶対言わないもんね。なかった事にしたい僕の気持ちまで引っ張ってきて。

「好きだよ。そして僕なりに慰めようとしたらまた拒絶するんだ」
「…」

「僕はもう拒絶されたくない」

だけどあなたが今しがみついてるのは『男』なんだよ。

僕はあなたをただの兄として見られないケダモノだ。

目的の為なら手段を選ばない。汚くて狡くて、残酷なイキモノだ。

兄想いの、しっかり屋でやさしい弟じゃない。

いい加減わかるよね。

僕はこれ以上普通の弟のフリをしてあなたの側にいられない。



















「………ら…っ」

しばらく黙り込んでいた兄さんが突然、何かを呟いた。

「え?」
「…わかっ…た…から…」

か細くなっていた声をさらに細くさせて

「何がわかったの?」

僕の口角が思わず上がった。

でも声は相変わらず抑揚のない、無表情を演じる。

「ぁ…だから…」

兄さんはと言うとまるで、突然どしゃ降りにでも遭ってしまった時のようだ。

体も声も凍えきっているように震えてる。


「お前がしたいようにしていいから…っだから離れるなんて言わないでくれよ…!!」

いや…違うな。状況的に言うなら、雨の日に捨てられそうな犬か猫みたいだ。

泣いて震えて、捨てないでってすがりつく




『イイコにするから何でもするから』




なーんてね。ははは、

「したいようにって…。兄さん自分で何言ってるかわかってるの?」
「わかってる…。それにお前を繋ぎ止める手段がそれしかないなら…もう…俺はこうするしかないじゃないか…」

馬鹿だね、兄さん

「ふぅん…そうなんだ」

まんまと僕の罠にかかって。

「これで…行かないで…くれるんだろ…」
「いいよ」

僕はここでようやくドアノブから手を離した。

よっぽどこの手が捻られるのを恐れていたらしい兄さんの、しがみつく腕が緩くなった。




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