xxxHOLIC
□事故
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※どたばたギャグ。
時計の針が真夜中を指す頃、静まり返った百目鬼の家で、突然歓喜の声が上がった。
「いえーい!あたしの勝ちー!」
その声は、正確には客間から上がった。
家中が真っ暗な中、その客間だけは明かりが点き、三人の人間と一匹の黒くて丸い生き物が畳の上に、少し間を開けて輪になるように座っている。
傍らには何種類もの酒瓶、中には空の酒瓶、何か食べ物が乗っていたらしい大量の皿。そして、和柄のイラストが描かれた小さなカードが散らばっている。所謂花札という物だ。
「それじゃあ早速ぅ」
たった今勝利を叫んだ人物は容姿こそ妖艶な雰囲気を纏う女性だったが、今はニコニコと上機嫌で、幼い子どものような笑みを浮かべている。
その女性、壱原侑子は傍らに置いてあった猪口をグイと口元へやって目の前にいる二人と一匹を眺めた。
「罰ゲームだけどぉ〜」
罰ゲーム。その単語にええっ、と素早く声があがる。
「罰ゲームって…そんなの聞いてないっすよ!!」
声を上げたのは二人の内の一人で、まだ学生服を纏う少年だった。驚きの感情を、体全体を使ってかなりオーバーリアクションを取った為にしていた眼鏡が少しズレる。
「四月一日、勝負の世界はいつもデッドオアアライブなのよ。リスクなくして勝負ができると思わないで頂戴」
四月一日、と呼ばれた少年。四月一日君尋は素早く「意味わかんねーし!」と元気良くツッコミを入れて横で表情一つ変えずに酒を呑む、自分と同じ学生服を着ている少年を肘で小突いた。
「おい百目鬼!お前も何か言ってやれ!このままだと侑子さんにどんな無理難題を押し付けられるかっ!!」
百目鬼、と呼ばれた少年、百目鬼静は猪口に口を付けたまま、さして興味も無さそうに三白眼をチロリと四月一日に向ける。
「罰ゲーム、あるってんならしょうがねぇだろ」
サラリと言われ、四月一日はこれまたオーバーにショックを体現すると、今度は百目鬼に「鉄面皮!」、「三白眼!」など罵声を浴びせ始めた。…ようするに八つ当たりである。浴びせられている百目鬼の方は全く気にする様子もなく受け流しているが。
「さて、そろそろ罰ゲームを発表するわよー♪」
間延びした侑子の楽しげで呑気な声に、四月一日の罵声がピタリと止まり、緊張の面持ちで侑子に視線を移す。
「わよー♪わよー♪」
侑子の隣で黒くて丸い、けれども耳だけがウサギのように長く伸びている生き物が侑子の真似をしながらピョコピョコ跳ねた。それはさながら黒いゴムボールのようだ。
「じゃあモコナ、私にお酒注いでくれる?」
その黒い生き物に侑子はツイと猪口を差し出す。
「了解!」
モコナ、と呼ばれた生き物は自分の体程もある徳利(といってもそれはモコナにとってであり、徳利自体は普通のサイズだ)をヨイショヨイショとバランスを取りつつ抱えると、そろそろと猪口に酒を注ぐ。
「はい、ありがと」
侑子はその猪口を口元に運びつつニコリと笑った。
「…。」
その様子をポカンと見つめていたのは四月一日である。バイト先でいつも何かと無茶苦茶な我が儘を言う雇い主、侑子が罰ゲームだとわざわざ言うくらいなので、もっと何か凄い事をやらされると思っていたのだ。
拍子抜けしたのと同時にホッと安堵する。
これくらいならお安い御用、と自分も傍らにあった徳利を持った。
「ああ、四月一日と百目鬼君には違う事をしてもらうわよ」
が、その直後にさっぱりとした侑子の言葉が四月一日の動きを止めた。そして束の間の安堵に涙を流しながら手を振る。
やっぱり世の中そう甘くなかった、もう終わりだ、と畳にうなだれる。まるでこの世の終わりを悟ったかのように。隣の三白眼がジッとその様子を見つめていたのにも気付かない。
「大袈裟ねぇ、人を何だと思ってるのよ」
そんな四月一日のリアクションに侑子はちっとも気分を害した様子もなかったが、一応形だけ頬をプク、と膨らませてスネているような顔を作った。
「簡単な罰ゲームよ」
それからチラ、と百目鬼を見やってニヤリと笑う。
その笑みに気付いて百目鬼が四月一日から侑子に視線を移すと、隣の四月一日もそろそろ腹を括ったのかゆっくりと顔を上げた。
侑子は満面の笑みを浮かべて四月一日と百目鬼を交互に指差す。
「明日一日、四月一日と百目鬼君は仲良く下の名前で呼び合いなさい♪」
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