CODE GEASS

□二人の王国前
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※二人の王国という歌(ニコニコのスザルルMAD)から妄想したパロ
 映画『仮面の男』の設定をちょいちょいいただいてますが基本適当設定なので詳しい方、突っ込まないでプリーズ




深い深い森の中、ポツンと建てられた屋敷に僕たちは住んでいる。周りに住人はいない。森のある山は丸ごと私有地だからだ。

ここへ来たのは僕がまだ15の時だった。まだ赤ん坊だった彼をしかめっ面で抱え、馬車に揺られて来た。

僕は幼い頃にブリタニア皇帝の騎士になるべく軍に入った。日々体を鍛え精進し、いずれは国内最強の騎士、ナイトオブワンになるのだと幼い頃から決めていた。

僕は異国民で昔から度々それを理由に虐げられる事があったし、僕と同じ人種の人たちもそうだった。ただ、人種が違うというだけで生まれた時からこの国において劣等の立場だというレッテルを貼られる。…悔しかったし、おかしいと思った。

証明したかった。自分の考えは間違っていないと、同じ人種の人たちや自分を虐げてきた奴らに、たとえ人種が違っても実力さえあれば皇帝から認めてもらえるのだと。…いや、認めさせる事ができるのだと。

僕はひたすら手柄をあげるべく戦場では進んで前線に出た。普段の努力の賜物か運が良いのか僕は大した怪我も死ぬ事もなく順調に功績をあげていった。この頃の僕は敵国から鬼神とまで呼ばれていた。そんな僕の功績に比例して今まで僕を虐げてきた奴らも段々とちょっかいをかけてこなくなってきた。僕の計画は順調だった。

それなのに、僕はある夜見張りの途中、理由も聞かされず突然訳も分からないままに慌ただしくやってきた上官に暖かなものがくるまった何かを抱かされ、強制的に森へ連行されたのだ。王妃様が皇子様をお産みになられた日だった。

国全体がお祝いムードで、それは勿論城内も同じ、誰も彼も少しお酒が入って浮かれていたせいか、怪しげな包みを持ってそそくさと城を出て行く僕らを誰も気にとめなかった。

あらかじめ用意してあったらしい馬車に押し込まれて包みの中身を聞かされた。『ソレ』は間違いなくこの国の次期王になられるはずのお方―――…の、片割れであると。

信じられない気持ちで包みを開く、赤ん坊が寝息をたてている。

馬車が動き出す。

王妃様はその日双子の皇子様をお産みになった。しかし王位継承争いを案じた皇帝は弟君の方を内密に"いなかった事にする"と決めたらしかった。

しかし流石に我が子を殺す事はできなかったらしく、本来ある立場からその身を遠ざけ、真実を闇に葬る事により解決としたらしかった。…この事実を知る者は僕を含め限られた人間しかいない。事によっては戦争や反乱の種になりかねない最高国家機密。僕は緊張した。

そしてその後僕は皇帝直々の命で新たな役職に就く事を聞かされた。…王国から捨てられた、この生まれたばかりの小さな皇子様の世話役だ。………何故、僕なのか。何故、大勢いる人間の中から何の脈略もなく突然僕が選ばれたのか。そんな質問は勿論しなかった。愚問だからだ。ピンポイントで選ばれた事は火を見るより明らかだった。




…要はこの皇子様と同じ、厄介払いだ。




異国民に功績をあげられるのが面白くない誰か(あるいは事実を知る者全員)がそうし向けたのだろう。

世話役など男の自分ではなく、赤ん坊を取り上げた時に立ち会った産婆や侍女にやらせれば秘密を知る者をわざわざ増やすリスクもなかったろうに。

ただいるだけで厄介者扱いの異国民の僕ならばある日突然姿を消しても誰も気にしないと、むしろ喜ぶだろうと、そういう事だ。思わず笑ってしまった。

皇帝の命令に背ける訳がないし、背けたとしても僕はどうしようもない秘密を知ってしまった身だ、あっさりと消されてしまうだろう。自分の意志とは関係なく僕の人生は決まってしまった。

そう、赤ん坊を抱かされた時点で僕の夢は消えていたのだ。…いや、この赤ん坊が誕生した瞬間から。

毎日毎日、夢だけを支えに生きてきたというのに、強く思い描いていた夢は、野望は、本当に些細な事で儚く霧散した。…あまりにも呆気なく…

差別や理不尽には慣れていたがこれは流石にあんまりだった。




どこかの貴族がお忍び用に建てた別荘が僕と皇子様の住処であり、鳥籠であり、そして棺桶になる場所だった。

大袈裟な表現ではない。実際この屋敷の建つ山から外へ出る事は禁止されたし、山の入り口には見張りがいて入る事も出る事も決して簡単にできなくなった。僕が秘密を漏らさないように、または僕が、僕たちを捨てた王国を恨みこの皇子様を掲げて同士を集め反乱を起こす事を恐れての事だろう。

お貴族様が建てただけあってなかなかに立派な建物だ。きっと僕みたいな薄給が無謀にも自力で建てようなどとすれば一生かかってしまうか一生かかっても無理だろう。そう思えば少しは自分の立場が救われる気がした。

ただ、あくまでも内密にとの事で皇子様の世話役、及び使用人は僕一人だけに任されると聞かされた時は開いた口が塞がらなかった。いくら厄介者とはいえいかにしても雑すぎやしないだろうか。自分はともかく赤ん坊は仮にもこの国の皇子様だ。まかり間違って二人で仲良く死ねと言われた気分だ。だって僕は今までひたすら武に汗を流し続けてきただけの無知な15歳で、家事や、ましてや子育てなどした事がないし知識もない。自信があるのは生まれ持った、人より少し秀でた体力と鍛え上げたこの肉体くらいで。

大変な名誉だなと肩を叩いた上官に、ならばお前が代われと睨み付けてやりたくなった。

不満はいくらでもあったが、とりあえずは明日を生き抜くためにこれからどうするか考えなくてはならない。

最低限の荷物と食料を馬車から下ろし、月に一度使いを寄越すと言いおいて上官を乗せた馬車は元来た道を戻って行った。

さて、どうしたものか。

右手に屋敷の鍵を握り込んだまま抱えた赤ん坊を見下ろした。

何も知らず気持ち良さげに寝息をたてる赤ん坊が白い月明かりに照らされていた。…まるで祝福されているかのように。




***




あれから15年後のある昼時、僕はあの夜馬車を見送った場所で月に一度やってくる王国の使者から食材を受け取っていた。

「あとベーコンとジャムと…それから前回頼まれていた本です」

親しげに話しかけてくる彼は僕と同じ人種の人間で、もう長い事お世話になっている人だ。もちろん彼は僕がどうしてここに住んでいるのか本当の理由を知らない。屋敷に住むどこかの貴族の、ただの使用人だと思っている。

「いつもありがとう、それと…また次回、本を頼んでもいいかな」
「ええ、構いませんよ。料理の本と…なるべく生々しくない童話ですね」

「現実味のない夢のあるやつを頼むね」
「わかりました」

よっぽど可愛らしい方が読まれるのですねとクスクス笑う使者に僕も笑ってそうなんですと頷く。

気持ちの良い青空の下、見慣れた馬車を見送る。人間、どんな状況下でもどうにかなるものだ。15年前ここでどうしていいかわからず途方に暮れていたのが懐かしい。

「スザクー!」

名前を呼ばれて振り返る。サラサラの黒髪を揺らし、どんな宝石もかなわないアメジストの美しい瞳を細め、陶器のように真っ白な肌をほんのり桜色に染めながら今の僕の全てが走り寄ってきた。

「ルルーシュ、ダメじゃないか。出てきて良いのは馬車が完全に見えなくなってからって教えたろ?」

諌めながらも僕はしがみついてきたその身を抱き止め髪を梳いた。

「でも、あの人の目を直接見なければ石にはならないのだろう?」

唇を尖らせいじけたように言うルルーシュに、でもね、と付け加える。

「ルルーシュのような綺麗な子どもは見つかると石にされないでどこか遠くの暗くて冷たい場所に連れて行かれて最後には食べられてしまうんだよ。」

腕の中の体がビク、と震えるのがわかった。

「そうなのか」
「そうだよ。だから、絶対に他の人に見られてはいけないよ」

わかった、と頷くルルーシュに自然と口角が上がる。なんと素直な事か。

「さぁ、そろそろ食事にしようか」

言って、僕は食材の入った木箱を屋敷に運び込み、食事の準備を始める。

料理の腕はここへ来てかなり上がった。

…というより、覚えた、といった方が正しいか。料理なんて今までロクにした事がなかったから最初に作った料理なんてそれはそれは酷いものだった。

他の生活能力の方も同様だ。以前は苦手だった掃除や洗濯、僕が来るまでここの使用人だった誰かがしていたらしい裏庭の畑仕事。庭の手入れ。その辺は使用人の部屋で見つけた本を読んで参考にした。一生懸命頑張った。きっと自分のためだけなら頑張れなかった。…頑張らなかった。

全ては、美しい美しい主君のおかげだ。

僕はできたてのチキンスープを目の前の席で啜るルルーシュをチラリと見やる。

ルルーシュは美しい。

僕はこんなに美しい人間を見た事がない。

「美味しいかい、ルルーシュ」
「スザクが作るものはみんな美味しいよ」

ルルーシュは今食べている肉が普段自ら餌をやり、愛でている鳥だという事を知らない。

森には妖精が住まい、真夜中に寝静まった頃、小人が屋敷内に現れ可愛らしいイタズラをして回り、新しい命は全てキャベツ畑で産まれそれをコウノトリが運ぶものだと本気で信じている。

妖精の粉を体に振りかければ空を飛べるのだと教えてやればルルーシュは目を輝かせ詳しい話をせがんだ。

ルルーシュの美しさは容姿だけではない。正に純真無垢。疑う事を知らない、汚い事を知らない、綺麗な綺麗な僕のルルーシュ。ここまでの美しさは俗世にいれば叶わなかったろう。そう、この閉鎖的な世界だからこそ叶った奇跡のような美しさなのだ。

僕の今の生きがいはルルーシュだ。もうここへ来る前の野望などはほぼどうでもよくなっていた。むしろ今ではこの状況に感謝すらしている。だってこんなにも美しい存在に出会えたのだから。

美しいアメジストが僕ただ一人を映し、何の疑いもなく求める事こそが今の僕の人生で一番重要な事だった。

生まれたというだけで僕の夢を奪った、恨むべき存在のはずのルルーシュを、僕は心から愛している。

四苦八苦しながら育てたルルーシュは何の疑いもなく綺麗なだけの世界を信じ、僕を信じ、愛し、縋ってくる。あの、僕を差別し、ちり紙のように捨てた皇帝の子どもだとは到底思えない。ルルーシュが僕に向ける笑顔は天使のように愛らしく、どうして恨む事などできようか。




ルルーシュからの思いは快感だった。




幼い頃からの変わらず純粋なルルーシュの好意を独占している事もあるがルルーシュは皇帝の実の息子、つまり皇子なのだ。最近思う。僕の夢は知らぬ間に叶っていたのだと。僕はこの国の皇子から存在を認めてもらえているのだから。

ルルーシュ本人は知らない事だとはいえ僕はこの事を考える度こっそりと誇らしくなった。

ルルーシュが汚れ一つない美しい世界で健やかに笑って生きている事は僕の喜びでもある。現実は汚らしい事が多すぎて、そしてルルーシュには似合わない。知ってほしくない。ルルーシュが汚らしい現実を知ればルルーシュまで汚れてしまう気がした。だから僕は御伽噺しかルルーシュに教えてこなかった。御伽噺こそが真実である、と。

ここへ来た当初では考えられない事だったが、今僕は素晴らしく充実した日々を過ごしている。ルルーシュに相応しい美しい世界を創り、そこで愛しいルルーシュと共に生きる。…これ以上なく幸せだ。

領土はこの山だけとかなり小さいけれどここはルルーシュの小さな王国で、僕はルルーシュを守る騎士。そう考えると僕らを閉じ込める為に立つ山の入り口の見張りは僕らを守る為の見張りだとも思えてくるから面白い。毎日見張り、ご苦労様だ。




嗚呼、僕の夢は叶っていた。




それも世界一美しい主の元で。僕は何て幸せ者なのだろう。

ルルーシュが生まれた日、僕の夢は叶っていた。これ以上ない程の幸福。やはりあの日の月は祝福していたのだ。ルルーシュと、そして僕を。




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