CODE GEASS

□後
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皇帝の実子であるルルーシュと幸せに暮らしている僕だけど、ただ一つ残念なのはこの事実を誰にも誇示できない事だ。

知れば今現在、かつての僕と同じ思いをしている人間がどれだけ希望を持つ事ができるだろう。それはとても素晴らしい事だと思う。…けれどできないものは仕様がない。それに、今これだけ幸せなのにこれ以上高望みをすれば罰が当たってしまう気がする。僕は今のこの生活を壊したくない。王族と庶民、それも異国民が何の隔たりもなく仲良く暮らすなど普通なら天地がひっくり返っても有り得ない状況なのだから。

馬鹿げた考えを戒めなければ。

僕はこの生活を守るためならかつての野望をそうやって簡単に切り捨てる事ができた。それ程に大切だった。

自分自身の事でさえそうなのだ、まして他人が僕らにどうこうしてこようものなら許す事などできるわけがない。




***




夜中、ルルーシュが寝静まったのを確認した僕はそっと一階へ向かう。

階段下の物置部屋の床に地下へと続く階段が隠されている。ここの事をルルーシュは知らない。燭台の蝋燭に火を灯し、静かに降りていけば鎖に繋がれた男がなぁ、許してくれないか、と悪びれもなく呟いた。

お貴族様の素晴らしい趣味により拷問部屋などという便利な部屋が地下にあったもので入り用の際は有り難く使わせてもらっている。

「黙れ。貴様自分が何をしたかわかっているのか」

僕は冷たく見下ろす。

「ま、まだ何もしてねぇだろう!」
「不法侵入」

「ふ、不法侵入って…。庭にすら入ってなかったぞ!」

この男は昼間庭をいじっている時に見つけた。…正確には、遠くの方で草木に隠れてこちらを伺う男―――の気配を庭で感じて即ひっとらえたのだ。

男は何の訓練もされてない一般人らしく一応逃げようとはしたが簡単に捕まり、こうして地下に繋がれたのだ。

「この山全体が私有地だ」
「………。」

「だいたい、お前はあそこに隠れて何をしていた?僕たちの様子を伺って何をするつもりだった?ルルーシュに、何を?」

問い詰めると、男は大袈裟に震え上がって早口で喋り始めた。

「お俺はただ飲み屋でたまたま会った男に金を渡されて黒髪のガキを攫って来いって命令されただけだ!助けてくれたら二度とここへは来ない!な、俺もさ、生活が苦しくてつい乗っちまったけど本当はこんな事するような人間じゃないんだよ!」
「僕にとってお前の事情は関係ない。お前は不法侵入しただけでなくルルーシュを攫おうとまでしていた人間、それが全てだ。…まぁ、詳しい事情は知らないようだから楽に逝かせてやろう」

「ちょちょ、ちょっと待ってくれ、お前俺をどうするつもりだ!?」
「勿論罪人には然るべき処罰を下す。最期に何か言い残す事はあるか?」

「えっ、あ」




ルルーシュに害を及ぼそうとする者は害の大小関係なく極刑、この王国の一番基本的な法律だ。

まったく、そんな簡単な事も知らないで足を踏み入れるなんて。




屋敷から遠く離れた森の中に男を埋める。これで何人目だろう。一応国家機密を守っているのだから見張りの人たちももう少し頑張ってほしいものだ。…まぁ、真実を知らされてはいないのだろうけど。

もしかすると、僕が知らないだけで外からこちら側に来る際に簡単に通れるような通行手形のような何かがあるのだろうか。または合い言葉とか。

まぁ、そういったものを作る立場の人たちからの刺客なのだから有り得ない話ではない。

実はここに埋まっている男たちの中から事情を知っていそうな奴を殺す前にこっぴどく締め上げ、いくつか聞き出した情報がある。

ルルーシュの事が最近城のある一部の人間に漏れたらしく、万が一ルルーシュが反乱を起こしては困るという貴族が心配の種を摘むべく刺客を送ってくるようになった。逆もまた然り、ルルーシュを担ぎ上げて反乱を起こそうという貴族からの刺客もやってきた。

前皇帝が数年前に亡くなり今はルルーシュの双子の兄、ゼロが皇帝なのだが、それはそれは酷い暴君らしく国の未来を案じた貴族が密かにルルーシュとゼロを入れ替える作戦を思いついたらしかった。




知ったことか、そんなこと。




国がどうなろうが知ったことか。勝手にルルーシュを捨てておいて今更何だそれは、許されると思っているのか。

殺すためにしろ利用するためにしろ、どのみちルルーシュを不幸にするためにやってきた人間たちなので僕は何の躊躇いもなく殺した。特に、ルルーシュを殺しに来た奴は拷問部屋の特徴を活かす形でうんと時間をかけて殺した。




***




夕食の準備をする横で、小さな椅子に座って苺に甘い練乳をたっぷりかけたものをご満悦で頬張るルルーシュを幸せな気持ちで眺めていた時だった。

蹄の音が聞こえて来たので外を見やると馬車がこちらにやってくるのが見えた。

僕はとりあえずルルーシュを二階にある自分の部屋に避難させ静かにしているんだよ、と言ってドアに鍵をかけると急いで階段を駆け下り、馬車を出迎えた。いつも定期的にやってくる使いの人でない事は馬車の豪華なデザインで一目瞭然だった。

とうとう真っ正面から来る気になったか。

僕は気持ちを引き締めた。

「おお、元気そうだな」

馬車が止まり、中から出てきたのは15年前僕をここへ連れてきた先上官だった。あの時よりもだいぶ出世したらしく身なりがゴテゴテと無駄に豪華になっていた。もしかすると爵位を手にしたのかもしれない。…15年前の、あの夜の事で。

まぁ、そんな事今更僕には何の関係もない事だった。他国での話だ。

「お久しぶりです」

僕は彼を家に招き入れお茶を出した。彼は家の手入れがよく行き届いている事やお茶の味などを誉めた。当たり障りのない会話。彼も15年前自分がした事で多少僕に対して罪悪感を抱いているのだろう、以前のような横暴な態度はなく、楽しくもないだろうにずっと笑顔を貼り付けていて、いちいち僕の反応を伺っているような様子だった。どうやら僕との心の距離感を計っているようだ。昔はあんなに僕を虐げていたというのに、笑ってしまう。

「それで、今日は一体どのようなご用件で?」

まどろっこしい会話を、失礼とは思ったが切らせてもらう。こちらとしてはさっさとお引き取り願いたかった。

「…あの―――…赤ん坊は」

言いにくそうに口を開く。

「ルルーシュ様ですか?」

こちらも笑顔を貼り付けて返した。

「ルルーシュ…とは君が?」
「ええ、呼ぶ時に困るので」

ルルーシュは名前すら付けて貰えずに捨てられたのだ。目の前の、かつての上官は居心地悪そうにもぞ、と座り直した。

「ルルーシュ様はお元気なのか」
「………それが、あまり」

僕はまっさきに嘘を吐いた。

ルルーシュは確かに病的なまでに真っ白な肌をしていたが健康そのものだ。

「幼い頃よりかなり病弱で、あまり長く起きていられません。ベッドから身を起こすだけでも僕が手を貸さないとなかなか起き上がる事ができず…。今もお部屋で休んでおられます。」
「…何と…、」

目を見開き、いかにも当てが外れたといったように額に手を当てる。

血が繋がった王族同士の結婚が当たり前の中、生まれた子どもが病弱なのは珍しい事ではなかったので簡単に騙された。

「ゼロ様はあんなにお元気でいらっしゃるというのに…!!」

成る程、目の前の男はルルーシュをゼロと取り替えようとしている人間だったか。

―――何て勝手な。

「何故早く言ってくれなかった。すぐ医者を手配させたのに…」
「ルルーシュ様の事は、お医者様でどうにかなるものではないでしょう。それに、人が作り出した薬などよりもここの澄んだ自然の空気こそが一番の薬だと考えました」

もっともらしい事を言ってやれば俯いて黙り込んだ。ルルーシュをここから連れていけないようにさりげなく釘も刺してやる。さぁ、どうする。

昔は恨みもしたが今となっては感謝すらしているのだ、できれば殺したくはないのだが。

「…ところで」
「はい?」

だいぶ経ってから彼は口を開いた。

「最近、誰かここを訪ねて来なかったか」




――――――きた。




「ああ、はい、二週間前いつもの使いの方が食料と本を届けに来て下さいました」
「それ以外には?」

ついさっきまでと違い、目の前の彼は射抜くような目つきでこちらを見ている。僕が嘘を吐かないか見ている。だが、生憎僕もこのシチュエーションは脳内で飽きる程シュミレートしたので完璧に演技できる。

「誰も来ていませんが…。何故ですか?」
「実は、こちらから使いの者を何人かここへ寄越したのだが誰も帰って来なんだ。何か知らないか」

「申し訳ありません、僕もルルーシュ様のお世話と屋敷の手入れだけで手一杯でして、滅多にこの近辺から出ないので…。見かければ声をかけたと思うのですが…」

実際は誰か見かければ声をかける前にひっとらえて地下行きだが。

「この山はそんなに道が複雑なんですか?僕は一度夜にあなたからの話を聞きながら通っただけなのでわかりかねるのですが…」

勿論嘘だ。

僕は早い段階で赤ん坊のルルーシュを背負いながら山中を歩き回り、今じゃ美味しい木の実がある場所や獣が出没する危険な場所も全て把握している。

ちなみにいつも刺客を埋める場所は獣が出没する場所だ。よく掘り返されていて死体も骨ごとなくなっている。

「いや…まぁ…そんなに複雑ではない、と思うのだが」

彼は馬車に揺られるだけで道の事は御者任せなのだろう、曖昧に応えた。

「もし遭難しているのだとしたら早く捜索隊を出された方がよろしいのでは」

心底心配しているように振る舞いながらそう提案すると、彼はいや、と言って再び俯いた。

「おそらくこちらで手違いがあったのだろう…。用件は今回伝える事ができたし―――いや、もう良いのだ…つまらぬ事を聞いた」

良かった、どうやら彼を殺さずに済んだようだ。僕は安堵しながらも『行方不明になった』人たちを心配する素振りを、元上官が帰るまで続けた。

「はは、あはははは!」

馬車を見送って家に入り、階段を登りながら思わず声を上げて笑ってしまった。

あんなにうまくいくとは思わなかった。いや、うまくいかなければ困るのだが。

これで少し刺客は減るだろうか。あの元上官が完全に僕を信じたならそうなるだろう。むしろ気を回して医者を寄越さなければ良いのだが。

ルルーシュの部屋の鍵を開けて部屋へ入ると、ルルーシュは本を読みながら寝てしまったらしくベッドでスヤスヤと寝息を立てていた。ただそれだけの事がたまらなく愛おしく、思わずルルーシュの柔らかな頬にそっと唇を寄せる。

「ん…スザク…?」

長い睫が震え、やがて美しいアメジストが僕を捉える。そっと触れたつもりだったが起こしてしまった。

「おはようルルーシュ。ごめんね、閉じこめて」

頭を緩く横に振りながらルルーシュは寝てたから、と言って目の前の僕の首にしがみついた。僕は当たり前のようにルルーシュを抱き返し頭を優しく撫でてやる。

「…スザク…」
「どうしたの?あ、お腹すいたかい?すぐに用意するね」

「違う…あの、お願いがあるんだ」
「お願い?」

ルルーシュからこんな風におねだりはとても珍しい。新しいぬいぐるみでも欲しくなったのかな。

撫でる手を止めず思わず微笑む。

「今夜、一緒に寝てほしいんだ…」

もうお兄さんだから一人で寝られるね、そう言って別々に寝るようにしたのは何年か前。

一般常識としてそう思ったのもあるが夜はルルーシュには知られたくない仕事をする時間なのでその方が動きやすいというのもあった。

「突然どうしたんだい?」
「夜に、時々目が覚めると…誰かの苦しそうな声が聞こえてきて…」

ああ、しまった。多分刺客を拷問してる時のだ。聞かれてしまったか。

「きっとオバケだね。見つかるとルルーシュもオバケにされてしまうからベッドの中に隠れているんだよ。ここは安全だからね」
「わ、わかった。でもスザク…」

「ふふ、大丈夫、今夜は一緒に寝てあげるよ」



ルルーシュは僕の承諾を聞くと嬉しそうに強くしがみついてきた。

「ありがとうスザク!」

ああ、ああ、可愛いな。愛しい愛しい僕のルルーシュ。

君には汚い現実など知らず、ずぅっと綺麗な世界の中心で微笑んでいて欲しい。 それが似合う。

君の世界を守るためなら僕は何だってするし何にだってなる

僕の人生は君のためにある




愛してるよルルーシュ




僕は永遠に君を愛し続ける




君だけを僕は愛し続ける




おわり

+++

(*^p^*)えごいすとー!!

パロが初スザルルてww

てゆかスザルルって難しい…

11.07.19
 

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