CODE GEASS

□後
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僕がルルーシュを飼い始めて1ヶ月、爛れた私生活の終わりは突然やってきた。

皇帝が突然ルルーシュを返すように言ってきたのだ。どうするのか聞けばルルーシュの明晰な頭脳を利用しない手はないとの事だった。…つまり、記憶を操作してこちら側の仲間にするという事だ。

僕はふと、ルルーシュに『生きろ』とギアスをかけられた時の事を思い出した。

ルルーシュは、ゼロは、僕を戦力に加えたがっていた。あの時僕に『仲間になれ』とギアスをかけていればちゃんと助かった上こんな事にもならなかったろうに。…僕なんかよりずっと頭が良いルルーシュの事だ、手っ取り早くギアスを使って仲間にしておげば後に僕と衝突する事もなく危険も回避できる事はわかりきっていたはずだろう。…でも何故そうしなかったのか。

理由を考えようとして僕の中のどこかがそれを即座に拒んだ。




拘束されてなお暴れるルルーシュを押さえつけ皇帝の前に再び引きずり出す。

別に、ルルーシュを罰し続ける生活に未練などなかった。

処刑となれば話は別だが(ルルーシュを殺すのは僕だ)ルルーシュに罰を受け続けさせられるなら。新たな辱めを与えてやれるなら。

イヤイヤをする頭を押さえつけ固定し、無理矢理ルルーシュの右目をこじ開けさせればルルーシュはやめろと悲鳴を上げた。




***




次の日、ルルーシュは漆黒のマントを纏いラウンズの一人となっていた。皇帝の皮肉だろうか、ナンバーは0(ゼロ)だ。

ルルーシュは他のラウンズたちの前で、僕に毎日虐げられ震えていた姿が嘘であったかのように堂々とした態度で自己紹介をした。

自分が皇族である事、けれどそんな事は関係なく接して欲しいという事、非力ではあるが何とかブリタニアと父親の為に力を尽くしたいという事。

ルルーシュの中ではマリアンヌ様やナナリーと過ごした記憶は改ざんされ、皇帝が用意した偽の弟とずっと二人暮らしをしていた事になっている。…もちろん、日本に来た事も、なかった事になっている。

シナリオはこうだ、庶民出身のマリアンヌ様を良く思わないどこかの皇族が刺客を送りマリアンヌ様を殺害、その後警備隊に取り押さえられる。その時マリアンヌ様の側にいたナナリーも巻き添えになり、目が見えず歩けない体になってしまう。その日ルルーシュはロロと仲良く寝室で寝ていた事になっている。そして、マリアンヌ様の血を引くルルーシュとロロの身を案じた皇帝は二人を隠まうべくアッシュフォード家に預け、しばらくの間身分を隠し庶民の生活をさせていた―――…と。

僕はルルーシュとはただのクラスメイト、という設定になった。

ルルーシュは僕と視線が合うと愛想笑いを浮かべた。愛想笑いとはいえ久しぶりにルルーシュが笑うところを見た。

「すまない、驚いたか?」
「………え?」

僕は一瞬何の事を言われているのかわからなかったがすぐに今の設定を思い出してこちらも愛想笑いを返した。

「あ、うん、そうだね。びっくりしたよ。ルルーシュが皇族だったなんて」

皇帝が定めたのなら従い、合わせなければ。

ルルーシュは僕の意見に苦笑いすると、改めて今まで通りに接してくれと言った。

「俺は戦闘というよりも作戦指揮の方で頑張ろうと思う」
「うん、ルルーシュは頭良いし、きっとそっちの方が合ってると思う」

これからよろしく、と言ったルルーシュは握手は求めず、そのままマントを翻した。

「………?」

何故かその背に、僕は違和感を感じた。




それからルルーシュはラウンズにすっかり馴染んでいった。

ラウンズとしての働きも決して親の七光りとは言わせない程立派にこなしていたし、とても勤勉で人当たりも良く部下からも仲間からも慕われた。

流石はかつてカリスマと呼ばれた存在。その記憶はなくてもルルーシュは人を動かすのがずば抜けてうまかった。

ただ、一つ気になる事があった。

ルルーシュは僕にだけ妙によそよそしくラウンズの仲間たちと親しくなればなる程それが浮き彫りになっていった。

最初に感じた違和感はこれだった。

別に仲が悪いわけではなく顔を合わせれば挨拶くらい交わしたりする。…だが、それだけだった。お愛想程度の世間話すらしない。仕事関係の話すら。

別に仲良くしたい訳じゃない。もう、僕の友だちだったルルーシュはとっくにいなくなってしまっているのだから。

ただ、記憶がないはずなのに何故僕にだけ。…ルルーシュは人種差別をするような人間ではないし。…いや、そもそもクラスメイトとして普通に接していたのだ、今更―――…

「兄さん!」

任務を終えた帰り、王宮内を、ルルーシュから数歩遅れて歩いていたら偽の弟―――…ロロが進行方向から満面の笑みでルルーシュに駆け寄ってきて

「わっ、こら、危ないだろうロロ、」

思い切り抱きついた。

ロロはルルーシュと同じくギアスを持っている。もっとも、ルルーシュにギアスの記憶はないから今は持っていないも同然だが。…ロロはルルーシュの監視役としてあてがわれた。もし何かルルーシュがおかしな動きをしたらすぐ知らせるようにと。何のギアスかまでは知らないが幼い頃からその能力を使って暗殺の任務をこなしていたらしい。

「だって兄さんたらいつもより帰りが遅いんだもの。心配しちゃったんだよ」
「少し遅くなるとメールで送ったろう?」

「それでも、心配だったんだ。僕には兄さんしかいないんだから」
「…ロロ…」

ルルーシュはかつてはナナリーに向けていた、慈愛に満ちた瞳でロロを見つめその頭を撫でた。ロロは嬉しそうに目を細めルルーシュの左腕に絡み付いた。

「ね、早く帰ろう、僕お腹すいたよ」
「わざわざ待っていてくれたのか、ありがとうロロ」

「えへへ」

………イライラする。

僕は新しいルルーシュに対し胸の中で、常に霧がかったようなモヤモヤとした感情を抱いていたが、今はまるで毒ガスでも渦巻いているような感じだ。気分が悪い。

自分が昔から憎悪し、敵対していた者に跪き良いように使われ、自分よりも誰よりも一番大切にしていた者を奪われ知らぬ間に偽物をつかまされる。

本当のルルーシュが知ったら憤死してしまいそうな程の屈辱を味わわされていると、今までルルーシュが他人に対してしてきたように、ルルーシュ自身の強固な意志も今は更に大きな力でもって無理矢理ねじ曲げられていると、そう思う事で復讐心を納得させていた。僕は常にルルーシュに罰を受け続けさせているんだと。

…けれど、今まで殺し合ってきた敵側の人間と親しくなっていくルルーシュを見ると、あんなに大事にしていたナナリーをコロリと忘れ、出会ったばかりの得体の知れない少年を溺愛するルルーシュを見ると、




………僕を、無関心そうに視界から外すルルーシュを見ると、ああ、どうしようもなくイライラする。




君の復讐心はこんなものだったのか、ブリタニアを壊すと僕に誓いをたてたじゃないか、ナナリーをあんなに愛していたじゃないか、こんな事で忘れてしまうのか、こんな事で、こんな事で、本当に忘れてしまうのか、君が僕にした事を、僕が君にした事を、仲良くした事も、戦った事も、裏切った事も、憎み合った事も!




君にとってそんな程度の事だったのか、今までの事は、




ルルーシュがロロと曲がり角を曲がって視界からその姿が消えると僕はふと我に返った。何を考えているのだろう僕は。これで良いはずだ、これで良いはずなのに何をイラついてるんだ僕は。

矛盾した気持ちをどうにか落ち着かせようと試みる。…本当に僕は何を考えていたのだろう。以前のルルーシュに執着でもしているというのか?

…まさか。




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