ロマンスの神様
□再会は突然に
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学校から家まで帰る道すがら、エドたちはふらりと、おいしそうなにおいが漂うファーストフード店の自動ドアをくぐった。
店内はエドたち同様に、小腹をすかせたさまざまな学校の学生たちでごった返している。
「あぁー、何食おっかな…」
レジへと続く行列の最後尾に並びながら、エドとアルフォンスはこれから何を食べようか、想いを巡らせた。
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「あー食った食った♪」
数十分後、照り焼きバーガーにより小腹を満たしたエドは、満足そうにコーラを啜った。
すると、向かい側で口元をナプキンで拭っていたアルフォンスがこちらに向かってトントン、と口元を指で叩くジェスチャーをしてくる。
「エドワードさん。口にマヨネーズ付いてますよ」
「あぁ、わり」
指摘されたエドは何の気なしにペロリと唇を、舌で舐めた。
「…っ!!」
その仕草に、アルフォンスは僅かながらに目を見開き、頬を紅潮させた。
心拍数も、上がる。
「とれた?」
アルフォンスの些細な様子の変化になどまったく気付かないエドは、小首を傾けて聞いてくる。
「あ…はいとれました…。……えっとあのー、あの、そ、そういえば昔エドワードさん、マヨネーズを思いっきり僕にぶっかけたことありましたよね?頭から…」
それにアルフォンスは少なからずほっとして、そして自分の気持ちを誤魔化すように、ふと思いついた話題でこの空気を流そうとしてみる。
「あぁ、そういえば何をどうやったか覚えてねぇけど、お前に思くそかかった時あったよな。お前超泣いてさぁ」
「あの時、わざとイジメたんじゃないんですか?」
「ちっげーよ!俺はそんな意地悪な性格じゃないだろ?!」
「あっれー、自覚ないんですかぁー?」
「お前なー…」
「あはは、すいません、勿論冗談ですからね!」
「意地が悪いのはお前の方じゃねえか…」
冗談を言い合いながら、エドとアルフォンスはしばらく和気あいあいと昔話に花を咲かせていた。…しかし、
「あとさー、お前よくおねしょしてさ…」
このエドの言葉に、アルフォンスの笑顔が少しだけ薄らいだ。
「え?…それは僕じゃないと思うんですけど…僕こっちに来たの6歳の時だったし…6歳以降、おねしょした記憶もないですし…」
するとエドは少しだけ頭を傾げ、アルフォンスがおねしょをしていた時の事をよく思い出してみた。
「あれ?お前じゃなかったっけ。おかしいなぁ。…お前が怒られてるビジョンが浮かぶんだけどな〜…」
「それエドワードさんの弟じゃないんですか?ほら、僕と顔がそっくりで、名前も一緒って言う…」
ふと、アルフォンスが思い出したように言うと、エドはあぁ、と納得したように目を見開いた。
「そーかも。顔とかあんま覚えてないけど…確かお前に似てたんだよな。めちゃくちゃ。お前と初めて会ったとき、弟が帰ってきたって、俺マジで思ったもん」
実は、エドには一歳年下の弟がいる。しかし、エドが5歳の時両親が離婚し、その弟は父方に引き取られ今は遠くのどこかで暮らしている。
アルフォンスはエドの両親の離婚後に、エドの家の隣に引っ越してきたのだった。
「覚えてないって…写真とかは?」
「全部なくなってた。何もかもぜーんぶ。…しかも連絡先とか教えてくれないから電話も手紙も一切できなかった」
アルフォンスは、エドの家庭の事情を知っていたし、エドに自分そっくりな弟がいることも知っていたが、エドから教えられた事以外、あえて他人の家の事情に首を突っ込むような真似はすまいと、今までその事について自分からは全く質問などしていなかった。
なので、今初めて聞くエドの詳しい兄弟事情に少しだけ胸が痛くなる。
「そんな…それは…寂しかった…でしょ」
眉をハの字にして心中を察してくるアルフォンスに、しかしエドはニカッと笑って見せた。
「でもいつもお前が傍にいてくれてたから全然平気だったけどな!!」
一気に盛り下がった空気を一掃するかのようなそのエドの笑顔は、アルフォンスの心をほんわか暖かくした。
「僕も…エドワードさんの傍にいられて…昔も今も幸せです」
「はは、お前真面目な顔して何言ってんだよ恥ずかしい奴だな…」
二人の周りを、和やかな空気が包んでいた。
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