ロマンスの神様

□雪
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手から伝わる温もりは

あの頃から少しも変わってはいなかった。









エドが規則正しい寝息をたて始めた頃。

眠らずにその時を待っていたアルはそっとその目を開ける。

「…昔はよくこうやって手を繋いでくれてたよね…兄さんは覚えて…ない、か」

アルの独り言は暗く静かなこの部屋によく響いた。


闇に目が慣れてきたアルは上半身を起こし、うっすらと見えるエドの寝顔を覗き込む。

「…兄さん」

と、小さな声で呼んでみるが。

「…」

当然のようにエドの反応はなかった。




「兄さん。」

先程より少しだけ声を大きくしてみたがやはり反応はない。

「…好きだよ…兄さん。あの頃からずっと。好きで好きでたまらない。」



ふわ。



アルはエドの唇に自分のそれを重ねた。

「こんなしょーもない弟にしたのは兄さんなんだよ。自覚は…ない、んだろうね」

返ってくるのは寝息ばかりだったがそれでも構わずアルは語り続けた。

「兄さんはね、ずっと前から僕だけのものなんだよ。昔はね、自分からそう言ってくれてたんだよ。兄さん…」

「…」

「その事を兄さんが自分で思い出してくれるまで僕はずっと待ってるから…だからはやく思い出して…それまでいっぱいいっぱい弟がワガママ言って兄さんを困らせてあげるからさ…」




アルは時々、胸の中に溜めきれなくなったエドに対する想いを夜な夜なこうする事で発散させていた。

意識のないエドに、一方的に想いを語る事で。


「僕はどこまでワガママになればいいのかな。泣いてだだこねたら昔を思い出してくれる?…兄さん…」


そしてアルはカーテンの隙間からわずかに見える白い『想い』に気づき、目を細めた。






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