ロマンスの神様

□年末年始
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「もうすぐ来年だね、兄さん」
「だな。」

エルリック家では現在、家族全員がキッチンに集まっている。
そしてホーエンハイム、エド、アルはトリシャが作っている年越し蕎麦を、いつもの席に座って待っていた。

「今年はいろいろあったよね」
「あぁ」

「いろいろ、あったよね」
「…あぁ」

「い・ろ・い・ろvあったよねぇv」
「…含みを込めんな馬鹿」

「えへへっv」
「…何を言わせたいんだか」

エドは隣の、やけに上機嫌なアルに溜め息を吐く。

「何だ何だ、二人とも。何があったんだい?」

するとそんな仲良さげな息子たちに、先ほどまでぼんやりと新聞に目を通していたホーエンハイムが絡んだ。

「別に」

エドはあっさりスッパリ答えた。




時計の針は後数分で『来年』を知らせようとしている。

アルは時計をチラチラと気にしながら、突然ガタリと席を立ち、窓の方へと歩いて行った。

「どした?蕎麦もうすぐできるぞ」
「うん、ちょっと」

エドが声で追いかけるが、アルはスタスタと窓辺に歩いて行き、やがてカーテンの中に消えた。

「に、兄さん来て!」

そして、窓の外を眺めながらエドを呼んだ。

「何だよ…カウントダウン、もう一分切ったんだぜ」
「いいから来てみて!」

エドは渋渋席を立ち、窓辺まで行ってアルと同じくカーテンの中に入る。

「うわさむっ。…何が見えんだよ」

カーテンの中にはニンマリと微笑むアルがいるだけだった。
外を見ても特に変わった処もないし、どこか見ろと促されるわけでもなく。

『カウントダウーン!10…9…』

そうこうしている内に、テレビの中ではカウントダウンが始まった。

「おいア…」

焦れたエドがただ笑っているだけのアルを呼ぼうとすると、しかしそれは突然押しつけられた唇によって塞がれる。

『2…1…ッ』


「明けましておめでとうv兄さん…vV」




それは来年最後で今年初の、キスだった。





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