ロマンスの神様
□アルの一日
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アルが家を出たのは宿題を一旦キリのいいところまで終えて、昼食をとった後だった。
玄関から一歩外に出た途端、ムワッとした熱気が肌に纏わりついて来る。
「………あっつ…」
アルは雲一つない空を見上げて、強烈な光に思わず目を細めた。
こんな暑い日は確かに兄と同じくクーラーの効いた部屋で坦々と宿題をこなしていたい気分だったが、いかんせん、今日という買い物日和を逃す手はなかった。
実は今日は、隣りの家の自分そっくりな恋敵が家族揃って留守にしているのだ。
つまり、今日なら自分一人で買い物をしていてもその間に恋敵に家に入り込まれて抜け駆けされるような心配がないのだ。(しかし家を出る前、アルはエドに何度も『誰か来ても居留守を使うんだよ。絶対家に入れちゃいけないよ』としつこく諭していた)
アルはエドを想いながら、自分の買い物を手早く済ますべく歩き出した。
***
夏休みということもあって、近所の商店街はいつもより賑わっていた。
アルはデートしていたり友だちと遊びに行く途中だったりする人たちとすれ違いながら、沢山ある様々な服屋をどんどん通り過ぎて行った。
そして普段からあまり人通りのない…そして、夏休みにも関わらずやっぱり人通りのない細道に入って行った。
細道は薄暗く、少し不気味で、心なしか今日と言う暑さがここだけは和らいでいる気がした。
アルが馴れた足取りで右へ曲がり、左へ曲がり、それから真っ直ぐどんどん歩いて行くと、突き当たりに一軒の怪しげな店が見えて来た。
アルは店を見つけると、暑さにしかめていた顔を少しだけ和らげて足を急がせた。
そしてそのままの勢いでガラス張りの扉を押して、素早く体を店内に滑り込ませる。
途端、アルはまるでそこが天国であるかのような錯覚を覚えた。
「うわぁ…涼しい…!」
文明の力、万歳である。
「いらっしゃぁ〜せぇ〜。」
アルがドアの前でしばらく突っ立ったまま幸せをかみ締めていると、奥の方からやる気のなさそうな、面倒臭そうな声が聞こえて来た。
*