戦国BASARA
□日曜日限定
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※学バサ
※『異変』とちょっと繋がってます
※幸村、初めての高級ホテルにドッキドキ///
※政宗もドッキドキ///
※元親もドッキドキ|||;
※元就はウッキウキ!?
その日政宗が昼休みを屋上で過ごすべくやってくると、既にそこには先客がいた。
「…よぅ、竜の兄さん」
政宗と同じく眼帯を、ただし政宗とは逆の目にしている長宗我部元親である。
「あんたも昼寝か?」
「いや、あんたにちょいと話があってな」
元親はフェンスに背中で寄りかかり、複雑そうな表情で笑った。
「何だよ?改まって」
いつもと違う様子に、少し構えながら側へ寄って腰を下ろす。しかし元親は気まずそうにこちらを見はするものの、口を開けては閉じると言う作業を繰り返しなかなか喋ろうとしない。
「Hey、用が無いなら寝るぞ」
「あー、あー、わかった、今言う」
もともとあまり気が長い性分ではない政宗が苛として睨むと、片手をブンブン振りながら元親がようやっと声を出した。
「真田の事…なんだけどよ」
真田、と聞こえた途端、政宗の目の色が変わる。
「真田幸村が何だ」
が、それに気付いた元親はますます気まずそうに顔を強ばらせた。
「…エエトよ、最近、どうよ真田とは」
「………相変わらず、暑っ苦しくて煩ぇと思うがそれが何だ」
以前同じような会話をしたような気もするが、以前は今より大分軽い空気の中交わされた会話だったと思う。政宗は眉を寄せた。
「あんた…真田に最近、ちょっと変化があったとか…思わないか」
「どういう意味だ」
「だからよ…。その…いや、ああ!やっぱ俺の勘違ぇかもしれねぇな」
「だから何なんだよ!!ハッキリ言え!!」
煮え切らない元親に政宗がついに声を荒げる。幸村の事となるとただでさえ余裕がなくなるというのに、そんな態度でいつまでも勿体ぶられては堪らない。
「…これはあくまでも俺が見たまんまだからな。」
「早く言え、何だ」
元親はグッ、と一度表情に力を入れ、意を決したように喋りだした。
「…最近、部活が終わった後、真田を見かける」
「Ah?」
「音楽堂で、いつも毛利と会ってる」
「…は、毛利って…あの毛利元就か?何で幸村が…?」
元親は毎日音楽堂の側の駐輪場で仲間と騒いでいる為、音楽堂の中の様子が目に入るらしい。
「毎日仲良さげでよ、どういう経緯かは知らねえがとにかく毛利にもついにダチができて良かったって、思ってたんだが」
「?」
「昨日…たまたま、なんだがよ…便所行った時に、廊下であいつらが話してる声が聞こえちまって」
別に盗み聞きしたわけじゃねぇぞ、と念を押す元親を無視して政宗は視線で続きを促す。
「………何かよ…ホ、ホテル、行くって、」
「………………Ha?」
政宗は多分自分の耳が聞き違えたのだと思った。ホテル。ホテル。ああ、確実に聞き違いだろう。幸村がホテル。幸村とホテル。合わない。やっぱり聞き違いだ。
「毛利が、真田に、今度の休みに、ホテル行くぞって言って、真田が、承知したって、嬉しそうにしてて…」
ホ テ ル
やはりハッキリと聞こえる。ホテル、と。聞き違いではなかったらしい。
それで、何だ。ホテルが何だ。今、幸村が毛利にホテルに行こうと誘われて、承知したとか言わなかったか。
政宗は自分の体が石化するのを感じた。ただ、頭の中だけが何かの間違いだと、元親からの少ない情報から事実を否定するような要素を狂ったように探している。
「つ…付き合って、る、とか…ない、よな?あいつら…」
「馬鹿、言ってんじゃねぇ」
思わずそう口走っていたが政宗はかなり打ちのめされていた。
「で、でもよォ、高校生にもなった男二人が休日にわざわざホテルって、何しに行くんだ?」
「知るか!!」
ただでさえ知らなかったのだ。毎日自分の近くで部活動を行っている幸村が、その部活の後で、自分が預かり知らぬ所で元就と仲良くしている事など。その上昨日、二人の間でそんな会話が交わされていたなどと。
「どうするよ、竜の兄さん」
何でそんな事を俺に言うのだと、(かなり今更であり無駄過ぎる努力だが)自分が幸村に対し無関心だと装う事も忘れていた。
「…どうするも、こうするも…」
わなわなと震える腕を、拳を強く握り締める事で叱咤する。
幸村が元就と付き合っているかもしれない。
急激に何かに当たり散らしたくなった政宗だが、最近似たような事があったのを思い出しほんの少し冷静になる。
そう、ついこの間似たような事があって盛大な勘違いをし、完全に頭に血が上った政宗は今までの己の人生の中で一、二位を争う醜態を晒してしまったばかりだ。
そうしてどさくさに紛れて幸村に思わずしてしまった事をも思い出し、僅かに頬に赤みが刺す。
(coolになれ、coolになれ、)
政宗は深呼吸して、心配そうにこちらの様子を伺う元親に笑いかけた。
「きっと何かの間違いだろ、だいたい、真田幸村が誰と付き合おうが俺にゃ関係のない事だ」
***
そうして政宗は日曜日の朝から幸村の家の近く、物陰から玄関の様子を見張っていた。
いつもは休日でも行われるサッカー部の練習が日曜日に休みなのは調査済みである。というのも、昨日は他校と練習試合があったのだ。(勿論勝った)つまり本日は疲れた体を休める為の休みなのである。
政宗はかれこれ二時間も前からその場に張り付いている訳だが、苦には感じなかった。何故なら、まず二時間前、ここへ来たばかりの時だが、寝間着姿の幸村が自分の部屋のカーテンと窓を開ける姿を見かけたからだ。その上空に向かって伸びをし、欠伸をするという場面まで目撃した。
次にどこで売っているのか紅地に黄色で六問銭が背中に描かれたTシャツとジャージ、いつもの鉢巻姿でランニングに出る幸村を見た。日課のトレーニングなのだろう。今はもう帰ってきていて、家にいる。朝食でもとっているところだろうか。
ただ突っ立っているだけで普段見られない幸村の姿を見る事ができたのだ。期待していなかっただけにとんでもなくラッキーな事に思えた。
ストーカーの気持ちがわかる気がする…玄関の見張りを続けながらそう思っていると、不意に肩を叩かれた。
邪魔すんじゃねぇと睨みをきかせながら振り返ると、
「あんたいつからここにいるんだ?よく通報されなかったな…」
そこには呆れた様子の元親が立っていた。
「な、何であんたがここに!」
「…ま、こんな事になってんじゃねぇかと思ってよ」
「別に俺はここにいた訳じゃねぇ!たまたま通りかかっただけだ」
「言い訳するならもっとマシな言い訳しな。つか、今のあんたの姿めちゃくちゃ怪しいぜ?どっからどう見ても不審人物だ」
「うるせぇ!てめぇこそこんなとこに何しに来た!!」
「…あんたに情報やったのは俺だからな。一応責任感じてるわけよ」
「責任?」
「真田と毛利の真相を確かめようと思ってな」
***
普段の、きっちり着こなした学ラン姿もcuteだと思っている政宗だったが、今幸村が着ているわりかしユルっとした服装も良いじゃねぇかこの野郎。などと脳内で転げ回りつつ、隣に元親がいるのもお構いなしに携帯で幸村を後ろからこっそりと写メる。
可愛い。
猛烈に。
…元親が到着してから三十分後、家から出てきた幸村の私服姿の事である。
「…おい…竜の兄さんよ、マジでストーカーだぜそれ」
「Ah!?」
「いや、何でも」
冷静なツッコミに対して苛と返した政宗に肩をすくめた元親は、つくづくコイツ何で告らないんだろうと不思議に思った。
「おい、毛利だ」
しばらく眼帯コンビ二人で幸村の背中を着け回していると(その間政宗は何枚もシャッターを切った)やがて、休日でもカッチリ気味の服を着た(ただし、何故か袖が異常に広がっている)元就が幸村の進行方向からスタスタと歩いてくるのが見えた。
「毛利殿〜〜〜!!おはようございます!!」
幸村は子犬よろしく嬉しそうに元就に駆け寄り、元就はといえば表情も変えず「真田か」とアッサリした反応を返す。
「おいおいマジか…。俺、毛利があんな楽しそうな顔してんの初めて見たぜ…」
アッサリしたいつも通りの反応、に(一般的には)見えるが元親にしてみると違うらしい。
レアな場面を見て驚く元親が興奮気味に隣を振り返ると
「だ…大丈夫か?」
大丈夫ではなさそうな政宗が顔面を蒼白にし、壁に身を隠すようにへばりついて血走った左目だけを覗かせ、ブツブツと何か呟いている。
「随分と楽しそうだなァ幸村ァ、あんな奴と会えたのがそんなに嬉しいか?奴の何処が気に入ったんだ、俺はもう要らねえのか?」
コワ………………。
正直今の政宗には関わりたくないと思った元親だったが、このままというわけにもいかない。何の為にわざわざ休日に出てきたのかわからなくなってしまう。
「女々しいぜ竜の兄さん。まさかお前ェ、この上真田と手ェ繋いで踊りたいとか言い出さないだろうな」
「ha〜●ャン様」
「●ャン様じゃねぇ!ったく、しっかりしねェか!気持ちはわかるが今は真相を確かめるのが先決だろが!」
「わかってる。俺か毛利、どっちの方が好きか幸村の気持ちを確かめねぇとな」
「………。いや、まぁ、うん。」
何かを諦めた元親はもう良いや、と前方に視線を戻す。
視界に政宗の背中が映り込み、みるみる小さくなっていく。
「…はァっ!?」
政宗は全力疾走していた。
「確かめるったって直球すぎんだろ…!」
真田の事となるとマジで余裕ねぇなあいつ!
元親も慌てて政宗の後を追う。わやわやになってしまったら自分がフォローしてやらねば、という決意と共に。
「よォ真田ァ、奇遇じゃねぇか」
ゼイハァと息を切らせながら追いついた元親の前には息一つ乱さずcoolを装った、だが実際はかなりheat upした政宗が幸村と元就の前に立ちはだかっていた。
「ま、政宗殿!?何故貴殿が斯様な場所に…」
幸村の言う斯様な、とは『ホテル日輪』と書かれた大きな白い建物の前の事だった。
十階建てのホテル日輪は、一階部分の窓際がレストランとなっており、こちらはホテルに宿泊している客じゃなくとも利用できるようになっている。
そこは全てガラス張りになっており、中の様子が全て見える。
その、ガラスに映るムッスリとした元就の横顔が更にしかめられた。
「邪魔だ、退け」
政宗は元就を無視した。
元親が冷や汗をかいた。
「で、あんたはこんなとこで何してるんだ?」
「某は今から毛利殿とこのホテルに…。もしや政宗殿も?」
毛利殿とこのホテルに…
毛利殿とこのホテルに…
毛利殿とこのホテルに…
いつもやたらに煩い幸村にしては至って普通の音量で発音された言葉は、しかし政宗の脳内でガンガンと響き渡った。
「政宗殿?」
質問してきたのはそちらだろうに、突然うつむいて黙ってしまった政宗を気遣うように幸村が伺い見ると、突然政宗が幸村の両肩に掴みかかってきた。
「何で毛利なんだ」
「え?」
「何で俺でなく毛利なんだ」
「そ、そんな事を言われましても…その、雑誌などで評判が良いこのホテルに前々から二人で来ようと約束を…」
「前々からぁ?前々からっていつだ、」
「ま、政宗殿は先程から何をそんなにお怒りなのか」
「別に怒ってねェ!」
「お怒りではないか!」
元親は修羅場の始まりそうな政宗たちを気遣うやら射殺さんばかりに睨みつけてくる元就を宥めるやらで忙しかったが、やがて逃げ場を探すようにレストランを見やり、ハッとした。そして、
「俺らもここに用事があって来たんだ、まぁ、とにかく入ろうぜ!な!?」
オロオロする幸村から政宗を引き剥がした。
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