戦国BASARA

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■お兄ちゃん、ちょっとだけ籠城するの巻




「長宗我部。何も聞かずに巨乳モノの何か、貸せ」

政宗がそう言うと元親はかなり驚いた様子ではあったが、すぐさま快く、巨乳な女の子たちがウッフンしている雑誌を貸してくれた。

ちなみに政宗が元親に要求したのは学校で、すぐさまソレが出てきたのも学校で、つまり学校で行われたやり取りだった。

こんなモノをいつも持ち歩いてるのかと呆れはしたが、こんな場所でこんなモノを借りた政宗には突っ込む事はできなかった。




学校が終わり家に着くと、政宗は鞄から件のモノを取り出し、ベッドに寝転がってページをパラパラと捲ってみる。

男として、女のウッフンを見て楽しくない事はなかったが到底目的を果たせそうもない事がすぐにわかると借り物であるはずのソレを少し離れた机の上に乱暴に放り投げた。

「…あー、くそ」

女の体に興味がないわけではない。だが、己と同じ男の体に興味があるわけでもない。むしろ、嫌悪感すら抱く。

………だが、たった一人に対してだけ例外があった。

何故なら政宗の興味の対象はいつだってそのただ一人であり、その一人はたまたま男であった。だがそれを意識した事はない。

政宗にとってその一人は掛け替えのない唯一であり、性別など関係なかった。

そう、性別は、関係がないし、男の体に興味なども全くないが、掛け替えのない唯一を性的に意識もしていた。

政宗の性に関する唯一の例外である。

その人物は、政宗の価値観の中で例外ばかりだった。

つまり、通常は『無い』事が『有り』になる、特別な存在だった。

「幸村…」

ごろりと仰向けに寝転んだ政宗は唯一の特別の名を呼び、昨夜の失態を思い出していた。




***




「あっ、わ、悪い」

政宗は目の前に突然現れた肌色に思わずそう口走っていた。

まだ風呂に入っているだろうと踏んで脱衣場にある洗濯機に自分のシャツを放り込みに行って出くわした、兄、幸村の素っ裸を見てしまった事に対してである。

滅多にない弟からの謝罪に幸村は体を隠す事もなく、目を丸くして首を傾げた。

「構いませぬ。兄弟同士でありましょう」

そうは言っても幸村に絶賛ベタ惚れ中でありお年頃でもある政宗はたかだか兄弟同士と簡単に片付ける事などできはしない。

目の前に惚れた相手の素っ裸があるのだ。意識しないわけがない。

すぐに目をそらし、本来の目的である洗濯機へ向かい、シャツを放り込み立ち去る…事ができなかった。見惚れるあまり目をそらすタイミングを逃した政宗は幸村の肌に視線が釘付けになってしまっていた。

そう、政宗は中学二年生である。まだまだ余裕がなかったのだ。

「政宗殿?」

その様子に、ボーッとしているのかと思った幸村が伺うように話しかけると、政宗がようやくハッとして幸村と視線を合わせた。

「あ、いや、やっぱり鍛えてると違うな、体」

幸村は幼い頃から剣道を始め、中学では剣道部に所属していたが、高校に入ってからは早く家に帰る為(というか政宗の為)に帰宅部に所属していた。…だがそれでも、基本的に体を動かすのが好きな幸村はトレーニングだけは欠かさず行っているのだ。

「そうでござるか?」

幸村は政宗の気持ちも知らず、ニコリ嬉しそうに笑うと、とんでもない事を提案してきた。

「触ってみますか?」




触ってみますか?

触ってみますか?

触ってみますか?




政宗の頭にエコーがかかる。

「は…っ、えっ?」

柄にもなく狼狽えた政宗に幸村は続けた。

「触ってみたいのでござろう?」

政宗の視線に幸村はその欲求に気付いたらしい。…正確さには欠けていたが。政宗の『触りたい』は純粋に鍛え上げられた 肉体に対する賞賛だけではないのだから。

「い、良いのかよ」

躊躇いがちに政宗が聞けばいかにもおかしそうに幸村が笑った。

「別に減るものでもなし、兄の鍛錬の成果、とくとご覧あれ」

幸村に他意はない。

だが、幸村に絶賛ベタ惚れ中の政宗にしてみるとおかしなフィルターがかかり、まるで、普段から破廉恥を嫌う幸村が今や破廉恥して下さいと誘っているように思えてならなかった。

頭の隅で「んなわきゃねぇだろうが」と冷静な自分が突っ込んだが無視をする。

ゴクリと唾を飲み込んで、目の前にある、普通よりも盛り上がった胸に手を這わせようとしてできなかった。

「まっ、政宗殿!?大丈夫でござるか!?」

突然幸村がこちらを見て狼狽え出したからだ。

どうしたのかと聞く前に、脱衣場に置いてあったティッシュ数枚により素早く鼻と口を押さえられてしまう。

「ああ、風呂の熱気でござろうか…。」

政宗は嫌な予感に眉を寄せた。考えたくはないが自分は今鼻血を出しているのではないか。

予想は兄の手元にあるティッシュが赤色に染まっている様を見て当たりだと知る

政宗は思わず呟いた

「… Oh my god …」




***




失態だった。大いなる。

裸の幸村相手に興奮するなという方が無理な話ではあるのだが、よりにもよって鼻血など格好悪すぎる。

…というか漫画か。ベタな。せめて何故触るまで待てなかった俺の鼻。せめてあと一分保てば。(だが最後まで幸村に拭ってもらうという甘えはしっかりと堪能した)

ああ畜生、情けねェ。

頭の中では毎日、幸村に凄い事をしているというのに。




二度と同じ過ちを繰り返さない




こうなったら脳内の幸村をもっと頻繁に…などと考えていた時だった。

「政宗殿、コンビニでアイスを買ってきましたが食べまするか」

ノックをしたはいいが返事を待たずに幸村が部屋に入ってきた。

別にそれ自体は構わないのだが脳内にて幸村の服を引っ剥がしにかかっていた政宗は突然の本人登場に内心少し焦る。

「うおっ、ゆ、幸村か」

普段からあまりブレない政宗の、少し動揺した様子にまた体調でも悪くなっていたのかと心配になった幸村はベッドに近付いて、そして政宗の数歩手前で足を止め、固まった。

「ま…まさ、政宗殿…」
「幸村…?」

突然固まった幸村に少し負い目のある政宗はどぎまぎしたが心の中を覗かれるなどありえないだろと自身を励まし落ち着かせ、上半身を起こす。

幸村は、机の上を見ていた。

あ、やべ。

そう思った時には遅く、幸村の絶叫を止める事はできなかった。

「ははははは破廉恥ぃいいいいっ!!!!!」

幸村は出会った時から変わらず、初で無垢であった。

顔を真っ赤にして机の上の、雑誌からウッフンしている巨乳なお姉さんから目を逸らす。

「な、なん、何でござるか政宗殿!!これは!!!」
「何ってエロぼ」

「うわあああああああ!!!!」

そんな、真っ赤な顔をした幸村が可愛くてつい慎みのない言い方をしてしまったのだがつり上がった幸村の目を見てああ、やべぇ。と政宗は改めて思った。

「政宗殿は中学生なのですぞ!!」

混乱しながらもお説教モードに入ろうとしている幸村の様子にいち早く気付いた政宗は、何とか回避を試みる事にする。

「中学生なら普通だろ。むしろ興味ねぇ方が不健全だ」
「んなっ!」

思わぬ返しに幸村が怯む。幸村はこの手の話題には疎い。

政宗は内心舌なめずりをした。

普段は幸村が露骨に嫌そうな顔をして逃げてしまうのでこの手の話はしない。するとすれば政宗が何となくそんな気分になってちょっぴり幸村をからかいたい時、本当にちょっぴり下品な事を言って真っ赤な顔をした幸村に叱られたりする。(政宗としては実に満足である)

だが、今、政宗と幸村は『そういった』ものの象徴の一つである雑誌を挟んで睨み合っている。

説教をする気らしい幸村は今、兄として逃げられない状況であり政宗としてはさして興味のない内容の雑誌を読むよりもよほど興奮できる状況だった。

逃げられない幸村と、『そういった』事についてじっくり話し合えるこの状況は。

早くも逃げたそうな顔をする幸村に内心の興奮を悟られないよう平静を装うと、政宗は笑わないように努めて神妙な面持ちを作り上げた。

「幸村だってこういうの見たことないわけじゃないだろ?」
「そっ、そのような破廉恥な雑誌など…っ!某は、ありませぬっ!」

「嘘だろ?」

幸村はなるべく雑誌と政宗の顔を見ないようにしているらしく、不自然な方向に目線が泳ぐ。

「じゃあ、どうしてんだよヌく時」
「ぬ、ぬく?」

政宗は幸村が逃げ出さない内にと完全に起き上がってその腕をやんわりと掴んだ。

ピクリと幸村の体が跳ねる。

「オナニーだよ、オナニー。自慰行為する時って事」
「んなぁあああっ!!!?」

あんまりな政宗の物言いに幸村の顔は瞬間的に茹で蛸のようになった。

「な、何、何を言ってっ?!」

政宗の手の中、つまり幸村の腕が逃れようとするも、政宗は力を入れてそれを阻止する。

「なぁ、あんたはいつも誰を想ってシテる?」
「だ…誰ってっ、」

「知りたい。幸村がどういうのをおかずにしてんのか」
「お…っ」

「教えてくれよ」

政宗が真剣な顔をして問えば、幸村は心底困り果てたという顔で、視線だけでも逃げようと忙しなく辺りを見回している。

「教えてくれも何もっ、某は…し、しておりませぬっ、そのような」
「嘘吐くなよ。高校にもなってしてねぇわけねぇだろ」




堪らない。




政宗は最早隠しようもなく興奮していた。

好きな子を苛めたくなる衝動とでも言うのだろうか。

大好きで大好きで堪らない幸村を苛めて困らせてやりたい気持ちは常にあったが、普段は嫌われない程度にセーブしている政宗である。

だがこの、今の状況はその今までで一番幸村を困らせ追い詰めていると思う。しかも本人が一番嫌がる話題であり政宗の一番大好物である破廉恥なもので。

幸村の目が、いつもより潤んでいる。政宗とは別の興奮による生理的な涙のようだ。

嗚呼、可愛い。

もっと、もっと見たい。

もっと幸村を困らせて、泣かせてみたい。

自分に対して何の疑いも抱かぬ真ん丸で純粋なその瞳から羞恥による涙がこぼれ落ちる様を見てみたい。

余りの興奮に呼吸が荒くなり、頬も熱くなっている自覚が政宗にはあった。幸村は今一体どんな風に自分を見ている事か。

だが今のこの、おいしすぎる状況を終わりにする気にはなれない。

それに、前から気になっていた事でもあったのだ。

幸村がいない時に幸村の部屋を徹底調査してみたが破廉恥なものは一つも見つからないし、幸村が自慰に耽っていたという形跡も全くないのだ。…ちなみに調査方法は普通にストーカーの域に達している。

「教えてくれよ、弟としてお兄ちゃんがどんな性生活送ってんのか気になるんだよ」

『お兄ちゃん』は最終兵器だった。幸村にとって一番弱い言葉である。

この最終兵器で幸村が落ちなかった事はない。




さぁ、どうする幸村―――…




「そっ、某、は」

真っ赤な顔の幸村が、痛みを物凄く我慢しているような様子でプルプルと震えながら声を小さく絞り出した。

来るか、幸村の性的カミングアウトが―――…!

政宗は期待に胸を膨らませる。




「そのような破廉恥ッッ決してしておらぬぁあッッ!!!!」




幸村が叫ぶのと血が床に垂れたのはほぼ同時だった。

「まま政宗殿!?」



そうして政宗は、再び幸村にティッシュにより鼻と口を塞がれたのだった。




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