戦国BASARA

□7
1ページ/1ページ






■お兄ちゃん、遊園地に行くの巻




佐助はその日の夕方、クラスメイトの女子とカフェで待ち合わせをしていた。

安くて美味くて雰囲気の良い店とあれば若者には当然人気で、佐助もお気に入りの店であった。

したことは一度もないがカフェラテがおかわり自由なのも人気の理由の一つだ。今日は長話になりそうなので試しに一度くらいしてみようかと思っている。




…それなりに可愛い女子であり、性格も行動力も見込みがある。そして何よりその女子が抱く恋心を知っていたので少しは期待していた。

果たしてカフェに着いた佐助が見てしまったのは、いつからそこにいたのか、店の片隅にてかなりの量を消費したと思えるスイーツの残骸―――…と空のコーヒーカップ。

女子は佐助を見るなり

「遅い…!!」

と低く唸った。

あんまりな雰囲気に一瞬呆気にとられた佐助であったが、時間に関して言えば自分に落ち度はないと我に返った。

「いやいや、今待ち合わせ時刻の10分前なんですけど」
「あたしは5時間前からいるんだよ」

…5時間前?

佐助は思わず顔をひきつらせた。

「いや、知らないけど何、5時間前って」

女子のテーブル、向かい合わせに座る。女子は不機嫌丸出しに店員を呼びつけ、一体何杯目のおかわりなのか―――…カフェラテをおかわりした。

店員は迷惑がるというよりむしろ気遣わし気に頷いた(何かあったのだろうと察しているようだった)。

佐助は5時間、ドス黒いオーラを放つ女子に店の隅を陣取られ、スイーツを山ほど貪られ、鬼のような顔でカフェラテをおかわりされ続けた店員の心情を察した。

…せめて自分は。そう考えた佐助はカフェラテをやめて抹茶ラテを注文する。抹茶ラテはおかわりできないのだ。

「………ええっと。…で?」

恐る恐る切り出すと、女子はギロリと佐助を睨み付けた。

「さいあくだったよ」

そうでしょうね

言いたいところだったがやめた。

不機嫌の理由に関しては無関係である自分にまでとばっちりが来るのを避けたのだ。

「何があったの?」

理由は何となくわかっていた。いや、わかりきっている。

正直、不機嫌丸出しな女子を見た瞬間にああ、やっぱりと思ったのだから。

少しは期待していたのだがやはり駄目であったかと。

だが目の前の被害者を作り出してしまった原因は別として、キッカケは間違いなく自分が作ったわけであるので、佐助は女子の愚痴を延々聞く覚悟はした。今日は夜中まで帰れないかもしれない。

「お待たせ致しました」

その時、佐助の前に抹茶ラテが置かれ、女子の空のカップに新しいカフェラテが注がれた。




***




このままでは、幼なじみが道を踏み外したまま戻れなくなってしまう。

佐助は常々危惧していた。激しく。

だが幸村と学校で昼食を食べていた時、それは頂点に達した。

幸村が何気なく政宗の体調を心配していた。最近政宗が二度も鼻血を出したと。

嫌な予感がして、どういった状況で出たのか聞いてみて、これはもう幸村が食われるのも時間の問題だと確信したのである。

これはマズい。マズすぎる。

きっと目の前のこの、生まれっぱなしで純粋な子どもは、いずれあの弟により登ってはいけない大人の階段を強制的に登らされてしまうに違いない。

早く弟離れさせねば。そして、登っても良い大人の階段を登らせないと。いろいろと段階を踏ませたい気持ちはあるがこの際構っていられない。

そうして佐助は早速とばかりに幸村を休日に呼び出し、待ち合わせ場所に女子を送り込んだのだ。

この女子はしっかり者で積極性もある。子どもっぽくて奥手な幸村にはぴったりだと思った。




…思ったのに。




「聞いてないよ。瘤付きなんて」

不機嫌極まりない女子からの鋭い視線に、佐助はうーん、と苦笑いした。

「ごめーん、ちゃんと弟の目を盗んでこーっそり来るように言っといたんだけどぉ。最初っから着いて来ちゃってた?」
「最初っから背後にいたよ。背後にね」

…背後って。成る程ね、後をつけてきたのか。

「んであたしと真田が話をしてる最中も真田の背後からあたしにガン垂れてきやがって、猿飛の代わりにあたしと遊園地行こうって誘ったら急に間に割り込んで来て俺も行くとかほざきやがった」

真田超困ってたよ。

忌々しそうに吐き出す。

「何なのあれ。まさかあれが真田がよく言ってる"完璧すぎる弟"とかじゃないよね。違う方の弟だよね。」
「残念ながらあれが旦那の言う"完璧すぎる弟"です。そんで弟は一人だけです。」

「真田の目は節穴すぎる」
「知ってる」

佐助は抹茶ラテを一口含んだ。

「確かに面は良かったよ。面だけはな。中身さいあくだぞあれ。」
「まー君は旦那に近付く奴はみんな敵だと思ってるからねー。俺にもそうだよ」

「ハァ!?男相手にも!?ブラコンにも程があんだろ気色悪い!!」
「ブラコン…ね」

実は既にブラコンどころの話じゃなくなってるんですけどね。

…とは思っても口には出さない。ただでさえ面倒臭い状況なのにこれ以上悪化させるのは御免だ。

「あの弟がガッチリガードしやがるから全然真田に近付けないし!!自分はちゃっかり手ぇ繋ぎやがってよおおお…!」
「…それでいたたまれなくなって先に帰って来ちゃったの?」

「帰るわあんなもん!!真田も真田だよ!!嫌な顔ひとつせずされるがまま弟とイチャイチャイチャイチャしやがって!!ちったぁ他人の目を気にしろよ!!」
「いや旦那は悪くないよ。旦那天然だから弟からのスキンシップとかかなり過剰でも普通だと思ってるからね。悪いのはわかっててやってる弟だから」

幸村の事だけはさりげなくフォローしておく。

すると、目の前の女子が何とも言えない顔でこちらを見つめてきた。

「………猿飛。あんたも大概真田を可愛がってると思ってたけどさ…。まさかあんたも真田を」
「ちょ。やめてよ違うし。俺のは兄心みたいなもんだよ。じゃなきゃ一緒に遊園地行ってやってなんて言ってないでしょ」

「まぁ、それもそうか」
「俺はただ、旦那に幸せになってほしいだけなのー」

「それであたしか」
「そろそろ弟馬鹿を卒業して女の子に興味持ってもらいたかったのになぁ〜」

「スイマセンネオヤクニタテズニ」
「まー君を甘く見過ぎたか…。休日はいつも寝坊するって言ってたのにな」

幸村が気付かないのを良い事に、短い間しか一緒にいなかったにも関わらず女子はあの弟から散々嫌がらせされたようだ。

佐助はこの後女子の愚痴を3時間程聞かされる羽目になった。





***




佐助が女子の愚痴に付き合っている最中、幸村と政宗はカフェオレおかわり自由を歌う店を通り過ぎ、帰路を歩いていた。

二人の手はしっかりとお互いの手を握り合っている。

「そういえばあそこの店はカフェオレがおかわり自由らしいですな」
「自由っつったってせいぜい一杯おかわりすんのが限界だろ。んな何回も恥ずかしくてできねーよ」

「そういうものでござろうか」

散々遊園地で遊んだ割に二人の足取りは軽い。楽しかったのだ。




昨日佐助から突然、たまには遊ぼうと誘われ、幸村は久しぶりであるしと二つ返事でOKした。

だが、弟が知れば絶対に外出を許してはもらえないだろう…。佐助も同意見だった。

例えば自分と政宗と佐助。三人で遊びに行ければ一番良いのだが、それは実現不可能に思える。政宗が佐助と仲良く遊ぶなんて、到底無理な事に思えた。

そこで幸村は仕方なく政宗に無断で遊びに行こうと決めたのだった。本当に久しぶりであったし、一日くらい大目に見て下されと心の中で手を合わせ、『少し出かけてきます』という置き手紙だけ置いて出る事にする。

休みの日は弁当を作る必要がない為に大概は寝坊する弟を起こさないよう、こっそりと家を抜け出した幸村だったがそこで誤算が生じた。

まず、待ち合わせ場所にいたのが顔見知り程度の女子であった事、そして何故かその女子に佐助は来ないから代わりに自分と遊園地に行こうと誘われ困惑していると、そこではたまた何故か弟が突然現れた事。

政宗ははっきり言ってドが付くヤキモチ妬きだ。時々手が着けられなくなる程に。

それを知っているからこそ黙って出てきたというのに。

この場合どうなってしまうのだろう。

相手は会った事もない女子である。佐助に対する態度よりは悪くならない事を激しく祈った。

悪戯を親に見つかった子どもの如く冷や汗をかく幸村をよそに、しかしどういうわけか政宗は上機嫌で『俺も行く』と言ったのだ。




政宗は終始ご機嫌だった。




女子は急に用事ができたとかで遊園地に着く前に帰ってしまったが、幸村は政宗と一日中遊園地で遊び回った。今は心地良い疲労感で満たされている。

良かった、弟の機嫌が悪くならなくて。それに一日中、自分も楽しかった。佐助と遊べなかったのは残念だったがまた今度にすれば良い。とにかく今日は良い一日だった。

やがて二人は玄関のドアを仲良く開けて家に入ると、わざとなかなか手を放さずふざける政宗にしばらく二人で笑い合って、それから一旦着替える為にお互いの部屋に引っ込んだ。




「はぁー」

政宗は僅かに笑いながら上着をハンガーにかけた。幸せの余韻である。

今日は政宗にとってもとても良い一日だった。憎い佐助にも一ミリくらいなら感謝してやっても良い。…いや、やっぱりミクロン単位で。

「ったく、小癪な真似しやがって」

幸村が昨日から何か隠し事をしていたのはわかりきっていた。幸村に隠し事など無理な話なのだ。ソワソワと終始落ち着かないし、何より目を合わせようとしない。

明日は休みであるしゆっくり問い詰めても良いだろうとしばらく泳がせてみたら、これだったわけだ。

佐助が幸村と見知らぬ女をくっつけようとしていたようなのはすぐにわかった。こそこそと出かけていった幸村の後をつけて行った先、女子との会話を聞いてみれば不自然極まりない状況だったのだから。

激しく腹がたったがこれは逆にチャンスかもしれない。政宗は思い直し、笑顔を貼り付けたのだ。

そうして政宗は無事女子に幸村との仲良し振りを見せ付け、女子を追い返し、更に幸村と遊園地でデートまでできたわけだ。

「渡さねぇよ、幸村は俺のだ」

すっかり家着に着替えた政宗は幸村の部屋に向かう。

幸村の携帯から佐助宛てに一ミクロン分の感謝のメールを送らねばなるまい。

そうだ、二人で一緒に撮ったラブラブ写メも付けてやろう。





こうしてまだまだ佐助が女子の愚痴を聞いている最中、送られてきたメールを、後にすれば良いのに送り主の名が幸村だった事からうっかりその場で開いてしまい、更に最悪な事に女子に覗き込まれもう少しで終わりそうだった愚痴がまた長引いたのであった。




おわり

+++

佐助大失敗の巻。

まー君の一人勝ちです。

今日鳴滝も某お店にてカフェオレいっぱい飲んで来ました♪おいしかった♪





13.01.19
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ