戦国BASARA
□beautiful world
1ページ/2ページ
※珍しくデキてる設定
※現代
「今、何つった?」
「…某と、別れて欲しいと申しました」
無表情に言い放った幸村の言葉に、政宗の頭の中は一瞬真っ白になった。
「何、の冗談だ?」
「冗談ではござらぬ」
一週間前、いつものデートの帰り際だった。
その日は朝から、妙に幸村の元気がない事に政宗は気付いていた。
何か悩み事か。とは思ったが、幸村が自分から話し出すまでは待とうと、敢えていつも通りでいた。しかし、まさか別れ話を持ちかけられるとは思わなかった。
「突然で、申し訳ござらぬ。」
どこか非現実を思わせる状況だった。これは悪い夢か。ああそうかもしれない、さっき映画館で寝ていてまだ起きていないのだ。政宗は笑った。
「他に惚れた奴でもできたってのかよ」
「………はい」
幸村は政宗の目をまっすぐに見ていたので、避けようと思えば余裕で避けられたはずだった。
「っ、」
乾いた音が、薄暗い道端に短く響いた。
幸村の唇に血が滲む。
「テメェ…!」
左頬を襲った衝撃のままに、幸村はうつむいた。
「今まで、ありがとうございました」
そう言って軽く頭を下げ、くるりと背中を向けた幸村の肩を、
「オイ待てよ!!」
政宗は力任せに掴んで振り向かせた。
「何勝手に自己完結させてやがる!?話はまだ終わってねぇだろが!!」
「離して下され!」
すると、その手を振り払い逃げようとしたので力任せに両肩を掴み直した。
「幸村!!」
焦燥に駆られ、政宗は幸村に顔を寄せるが唇が少し掠ったところで突き飛ばされ、決してか弱くない幸村渾身の力により政宗は無様にも尻餅をつく羽目になった。
「止めて下され!」
「…幸村っ、」
「もう、こうして会う事もありませぬ。学校で見かけても、関わらないで下され」
さようならと言ってから幸村は今度こそ政宗に背を向けて走り出した。
尻餅をついたまま呆然としていた政宗は、何故こうなったのか、今はやたら鈍い思考を巡らせた。
次の日、学校にて政宗は幸村の言葉を無視して会いに行ったが生憎幸村は休みであった。ならばとそのまますぐに家に押しかけるも居留守を使われ、昨日から無視され続けてはいるが懲りずに電話をかけてみる。家の中から着信音がしたのでいるのは丸分かりなのだがそれでも居留守を使われた。
メールで、出てくるまで帰らないと送るとやがて玄関のドアの向こうから声が聞こえてきた。
「…迷惑でござる。お帰り下され」
きっぱりとした声にくじけそうになるも政宗は諦めなかった。
「ふざけんなよ幸村。いきなりあんな一方的な話されて納得できるわけねぇだろが」
「申し訳ないと思ってはいます。ですが、納得していただきたく」
「できねぇな。…つか、開けろ、ドア」
「できませぬ」
「幸村」
「帰って、下され」
「俺を馬鹿にすんのもいい加減にしろよ!?開けろ!!」
「帰って下され!!」
あくまでも開けない気だというならば、このドアぶち壊してやろうか。
そう考えた時、
「おやめ下さい政宗様。近所迷惑です」
まさかの、お目付役が背後に現れた。
「小十朗…!?何でお前がこんなとこにいやがる」
社会人である小十朗は政宗が学校に行っている間だけはお目付役の任から外れ、普通に会社にいるはずである。
「学校から連絡がありました。許可もなく帰ってしまわれたと。もしやと思い来てみれば…。何をしておられます政宗様。」
Shit!
畜生余計な事しやがって!
「さぁ、学校に戻られませ」
その日は仕方なく諦めた政宗だが、次の日幸村が学校に登校してくると話をするべくしつこくつきまとった。
幸村も最初こそは「もう話す事などありませぬ」と応えたが次第にあからさまに顔を歪ませ、何を話しかけても無視するようになり、やがては政宗が来る前にワンテンポ行動を早めて姿を消すようになった。
coolじゃない、
自覚はあった。だが、初めて本気で惚れた幸村相手にcoolになどなれるはずもなく。
政宗は我ながらストーカーめいていると思いつつも毎日幸村を追い回し、自分が捨てられる原因となった男、あるいは女の影も探した。
***
そうしてその日、政宗が引き合わされたのはフワッとした、いかにもお嬢様育ちといったどこかの企業の令嬢だった。
幸村から一方的な別れを告げられた一週間後の事で、突然父親から不自然に食事に誘われおかしいとは思っていたが、違和感の答えは連れてこられた先に待っていたわけだ。
真っ白な肌は日焼けなんて一切していないようで健康的とはあまり言えないが、美しい。ストレートの黒髪はフワフワと言うよりサラサラ。決して不細工でない面は緊張してるのか少し強張っている。(元より隠そうとしていない為に政宗の機嫌が伝わっているのかもしれないが)
箸より重い物を持った事がないと言われても納得できそうな程細い腕。時代錯誤な喋り方もしない。
胸に詰まっている脂肪も多い方だし、普通の男なら上玉だと喜ぶのだろう。
…全くつまらない女だ。
俺の求める要素がひとっつもありゃしない。
政宗の感想だ。
だが、ここ最近晴れなかった胸の内が段々とスッキリしていく。
幸村をすっぱりと忘れ、目の前にいるご令嬢と今日これよりお付き合いを始め、やがては結婚する事を決意したからでは勿論ない。
普通に見合いをすると聞いていればここに自分はいなかっただろう。だが、今自分はここにいる。
それは何故か?
やけに良すぎる段取りに、綿密な計画性を感じた事が政宗の頭をクリアにした。
政宗の決意は、ただでさえ若く衝動的な部分に更に大きな刺激を与え、まだ名乗りもしない内から席を立つくらいには充分過ぎる程の理由となる。
政宗、と父親の諌めるような声がし、次に政宗様、と小十朗の声がしたがそんな声など今の政宗には何の影響も与えられない。
「Ha!俺とした事がまんまとしてやられたわけかよ」
そうして父親と小十朗を交互に見て、政宗は笑った。
「道理でおかしいと思っら、こういう事だったわけだな、ok」
政宗はその場を文字通り飛び出した。
*