戦国BASARA

□生まれ変わったら
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※鳥になった政宗様






俺は今度生まれ変わったら鳥になりたい、なんて密かに思っていた。地位にも誰にも縛られず自由に、誰の為でもない、俺の為に生きたいと。

そうしてある朝目覚めると俺は鳥になっていた。どうした事かと思ったがとりあえず羽を広げて羽ばたいてみたら簡単に体が浮いた。楽しくなって思わず外へ飛び出してみた。

空は最高だった。眼下に広がる小さな世界は人間だった頃の己の存在をすら小さく思わせた。あんな小さな世界で、小さな俺たちは毎日いろんなものを抱え苦しみ、もがきながら必死で生きているのかとどこか他人事のように思う。人間よりもはるかに小さなこの鳥という生き物はそうやってずっと人間たちを見下ろし生きてきたのかもしれない。

そこまで思って俺は次に、甲斐へ向かう事にした。

勿論敵情視察なんて事をしにじゃない。いつ元に戻れるかもわからないこんな身になってまでする事でもないし、第一coolじゃない。…単純に真田幸村に会いたかったからだ。真田幸村の元で何をしたいとかそういった目的はない。ただ、会いたかった。こんな機会でもなければなかなか会える相手ではないのだ。




甲斐へは驚く程あっという間に着いた。鳥になって飛んでいければ、なんて表現があるが成る程これは良い。空は何の障害もないし目的地まで一直線にただただ飛ばせば良いだけだ。滑空の間は羽を動かす手間もない。…そういえば忍が大きな鳥のようなものを移動手段に使っているのを見た事があるが、ここまで便利だったとは。

真田幸村は簡単に見つかった。上空からはあの目立つ紅い戦着が更に目立って見える。鍛錬の休憩中なのかいつもの二槍の槍を傍らに置いて屋敷の縁側に足を延ばして座っていた。

『真田幸村!』

その紅に向かって叫びながら奴の肩へ降り立つと、驚いたような瞳が俺を捉えた。久しぶりに会うってのに随分と間抜けた面だな。…まぁ、無理もないか。

『遠路はるばるあんたに会いに来てやったんだ、せいぜいもてなしてくれよ』
「おぉっ?な、何でござるっ…?」

今俺は鳥の姿なのだから何を言ってみたところで真田幸村にはピーチクパーチク言ってるようにしか聞こえないんだろう。

「むむ。何やら伝えたい事があるらしいがさっぱりわからぬ…」

困ったような真田幸村の、俺のすぐ目の前にある柔らかな耳朶を甘噛みしてやると、らしくもなく小さな悲鳴を上げて奴はそれから無邪気に笑った。

「くすぐったいではないか」

人差し指で頭を撫でてくるのでその指に擦り寄る。俺も相当らしくない事をしている自覚はあったが、そうさせるのは真田幸村の穏やかな笑顔だった。明らかに今のこの俺を見て可愛らしいと思っている。普段は勿論そんな表情を向けられた事がなく、もっと見てみたいと思ったのだ。

戦場で会えば武将、甲斐の虎若子として暑苦しく雄々しく向かってくる真田幸村。戦場以外で会えば一武人である真田幸村は立場を弁え、奥州筆頭を相手に畏まりはしてもこんな砕けた表情はしてくれない。

俺と真田幸村は生涯の好敵手と認め合った仲だが、それぞれの立場がそういった事に邪魔をする。真田幸村を認めている俺としては普段からもっと、戦場で会った時のように遠慮なく接して欲しいし、できればもっと歩み寄った関係になりたいというか。例えるなら武田信玄と上杉謙信のような対等な立場であり、親友のような仲に。

だが真田幸村にとって俺は好敵手でもあり、しかし大前提としてあいつの大好きなお館様の敵であるのだろう。あいつがいつか武田を背負うようにでもなれば、少しは心境も変わるのだろうか。

「ん、お前目を怪我をしておるのか」

ふいに真田幸村が言って、そういえば気付かなかったが鳥になっても俺の独眼は変わってなかったらしい。これは元からだ、と言ってみても真田幸村に言葉が届く筈もなく。心配そうに親指でそっと頭の右側を撫でられる。

「痛かったであろう」

同情など冗談じゃなかったが真田幸村に今されるそれは嫌じゃなかった。それどころか、どこかくすぐったい気持ちになる。

「…独眼か…。まるで、伊達殿のようだ」

そう言う真田幸村は優しく笑っていて、その笑顔と、俺を思い出した事実にもう一度耳朶を甘噛みしてやりたくなり実行すればやめよ、と言いながらくすぐったそうにまた笑った。

「旦那」

その時だった。

庭に音もなく忍が現れる。真田幸村の部下、猿飛だ。内心舌打ちをする。

「おお、佐助!」

嬉しそうな真田幸村にも。

ただの主従関係にしてはこいつらは仲が良すぎるといつも思う。俺と小十朗のような主従関係とは違い、親友、兄弟、家族、愛情のような言葉が連想される。武田信玄へ対するのとはまた違う、恐らくは真田幸村が唯一素になれる、一番心を許している相手。きっと俺には一生かかっても手に入れる事ができないポジションにいる男。

その男、猿飛は俺を見るなり眉を寄せる。

「どうしたのその子」
「どうした、というか…。俺に何か用事があって来たようなのだが鳥語が理解できぬ故困っておったところだ。お前は確か鳥語が理解できたな。こやつが何を言いたいのか教えてくれ」

「………。まぁ、いいですけどね。でもさ、その前に旦那、その子本当に鳥?なーんか変だよ…」
「何を言う、どこからどう見たって鳥以外には見えぬであろう」

流石は猿飛だ。真田幸村のようにはいかないらしい。

「まぁ、そりゃあそうなんだけどさー…。」

近寄ってきてじいっと疑わし気に俺を見つめてくる。

『ジロジロ見てんじゃねぇよ』

思わず呟くと猿飛はヒクリと顔を引きつらせた。

「愛らしいであろう、よくわからぬが俺に懐いておるのだ。」

何を言っているのかわからない真田幸村には俺はピィと愛らしく鳴いたようにしか見えないのだろう。ニコニコと機嫌良さ気に人差し指で俺を撫でる。

「目に怪我をしておるようだしもしかすると自力で餌がとれず腹が減っているのかもしれぬ。佐助、鳥は何を食べる」
「………………。そーだなぁ」

猿飛はニッコリ笑って(目は笑ってない)おもむろに地面を掘り出した。…まさか。

「鳥っつったらやっぱり蚯蚓じゃない?」




***




「………という夢を見た」

おおまかなあらすじを話し終えた俺が杯を口元へ運ぶと、横に座っていた真田幸村ははぁ、と関心深そうにジッとこちらを見た。

「此度はもしやそれで…?」
「ああ、あんたに会いたくなった」

今俺は甲斐にいる。何の連絡もなくいきなり押しかけたのだ。小十朗にも黙って来てしまったので後で説教は確実だろう。

真田幸村もこの急な押しかけには流石に驚いていたが、今は串団子と酒を挟み縁側に並んで腰掛けている。頭上にはお誂え向きとばかりに満月が浮かぶ。我ながらタイミング良く押しかけたものだ。

「斯様な理由で奥州を単身飛び出してしまわれるとは…。政宗殿はまっこと大胆な事をなさいますなぁ」

政宗殿、という響きにじんわりと心が温まるのを感じる。真田幸村は俺の事を心境や状況により独眼竜であったり伊達殿であったりフルネームであったりといろいろ呼び分けているが、今の政宗殿という響きが一番好きだ。恐らくは真田幸村の中で一番俺に気を抜いている時であり親愛を込めた呼び方だろうから。

「鳥は好きか?」
「あまり意識した事はござりませぬが、昼間に団子を食べながら聞く鳥の囀りはなかなかに心が和みまする」

「…団子付きか」
「そ、某の好物にござりますれば…」

少し気まずそうに笑った真田幸村はまた一つ団子を皿から取り上げる。二人分にしてはやたら高く盛られていた団子がだいぶ減っていたが、それは真田幸村ただ一人の手によるものだ。

「夢の中のあんたは愛らしい、なんて言ってくれたんだがな。こんな風に俺が鳴くと―――…」

むに。

口笛を吹くべく唇を尖らせると突然ムニッとしたモノがあてがわれ、阻止される。

「失礼致しました、しかしながら夜分に口笛を吹くとその者に災いが降りかかると聞き…」

多少粘着質な団子はぺと、と音を立てて離れていった。

「………。それって蛇が寄って来るって話だろ」
「そ、そうでありましたか…」

いや…そんな事はどうでもいい。

謝罪も蛇の言い伝えもどうでもいい。それよりも。そんな事よりもちょっと待て。

「………………。」

今、何でもない風を装いながら俺の意識は真田幸村が持つ団子に集中している。

他に口笛ごとき止める手段などいくらでもあるだろうに、どうしてこいつはこうも天然な行動に出るのか。口より体が先に動くタイプだからかそうか成る程なうんうん、ってそんな事はいい。違う、それよりも今は団子だ。俺の唇が触れた団子。真田幸村、お前は一体それをどうするつもりなのだ。

「政宗殿は物知りですな」

だからそんな事はどうでもいい。どうするんだ真田幸村、それをどうする。俺に寄越すか。置いて別のを食うか。それともそれを…

「あ」

と、思わず柄にもなく間抜けな声を上げてしまった。

「む?」

に対して真田幸村もまた、団子を頬張りながら俺に負けず間抜けな声を上げる。…ついでに言うと顔も間が抜けている。

「いかがされましたか?」

急いで口の中のモノを噛み飲み込んだ真田幸村が口から離した、一つ分減った串団子。思わず目をやってしまう。

「この…団子が、何か?」

我ながら女々しい事を考えていると思う。こんな事、こいつには絶対に知られたくない。…だが、幸いこいつは鈍い。超ド級の鈍さだ。ハッキリ言わない限り気付く心配はないだろうから、適当に誤魔化せば大丈夫だろう。

「…もしやこの団子…食べたかったのですか?申し訳ござらぬ…」

…やっぱりな。

「そういえばこの団子…あまりの美味さにて、ついつい某ばかり食べてしまっておりましたな。政宗殿も遠慮なくお召し上がり下され。佐助の団子はどれも絶品にござります故」

申し訳なさそうに団子の皿を差し出してくる真田幸村の、しかし俺はその反対の手ににある食いかけの団子を奪った。

「政宗殿?」
「俺はこっちでいい」

きょとんとする真田幸村の顔をまっすぐ見つめながら団子を口に入れる。真田幸村がさっきまでくわえていた、団子を。

「そ、そんなにその団子が…」

そしてやはり見当違いな事を呟きしょんぼりと謝罪する真田幸村は、それでも新しい団子を頬張った。

あの忍が作ったらしい団子は真田幸村が絶賛する通り確かにうまいが主の好みに合わせてそうしているのか、俺が随分昔に食った団子よりかなり甘い気がした。

…だが、それより何より。

俺の気分の方が甘い気がする。ヤバい、胸焼けするかもしれない。桃色の気分とでもいうのか、とにかく甘ったるい。口元が緩みそうなのを必死で引き結ぶ。

こんな気分になるならやはり俺は、生まれ変わったら鳥になりたい。




だから今はこのまま、人間でいい。




「なぁ真田幸村、今度奥州名産の菓子を食いに来いよ。あんた、きっと気に入るぜ」

…ところでこの団子の串は記念に持ち帰る事にする。




おわり

+++

(・∀・)団子の串は間接チュー記念!

夢の中だけでなくリアルでもユッキーとイチャつけて良かったねな政宗様

何か乙女チックになってモータ

11.07.19
 

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