戦国BASARA

□異変 前
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昨日はとても良い日だった。

伊達政宗に無駄に絡まれる事なく、部活でも円滑にグラウンドを使用する事ができ、その上お館様に誉められた!!

嗚呼、有り難き幸せ…!!お館様にお誉め頂くなどこの幸村、恐悦至極にござるぅう…!!

まだ誉められた余韻が心に残っている。知らず、口元が緩む。佐助に先程いい加減顔を引き締めろと注意されたが昨日から絶えず嬉しさが込み上げてしょうがないのだ。何せお館様にああしてお誉め頂くのはかなり久しかった。

だが、確かに気を引き締め直し、今日も今日とて己に厳しく修練せねばなるまい!!そして来週の土曜日に予定されている他校との練習試合に備えなければ!!

「うぅうおおおおお――――――!!!みぃ―――なぁ―――ぎぃ―――るぅ―――ぅうううああああああ!!!!」

お館様に勝利を捧げられなければ意味がない!勿論狙うは完全勝利!そして…そしてまた、お館様に…お館様にお誉め頂くのだ…ッッ!!

その瞬間を想像し思わずウットリしていると、少し先に長い黒髪を見つけた。


「お市殿!!」

思わず呼び止めると、今にも倒れてしまうのではと心配になる程儚げな様子でお市殿がこちらを振り返った。

「真田さん…」

横に並び挨拶すると、やはり儚げに返事が返ってくる。気のせいか昨日よりも更に顔色が優れないような気がする。

こうも儚げなのは、やはり覇王学園に行ってしまわれた浅井殿の事を想うておられるからなのだろう。

この間も寂しいと言っていた目の前の儚げな人に、俺はやはり笑って欲しいと思った。

だから、もう一度聞いてみた。

「お市殿…この間の事にござるが…お考え下さいましたか」

するとお市殿は益々表情を曇らせてうつむいてしまう。

「でも私…長政様が…」

いつでも浅井殿を一番に想い、気を遣う健気なお市殿。しかし、こうもずっと沈んでおるようではこちらも見ていられない。俺も、ついこの間まで同じような状態だったので他人事とは思えなかった。


どうにかして少しでも元気を出してもらいたい。だから、どうしてもこの間の件を受けて欲しかった。これが俺にできる精一杯だと思うから。

「大丈夫です、お市殿。もしもの時は某がこの命をかけてお市殿をお守り致しまする」
「真田さん…」

「某がおります、お市殿。ですから、」

何故か辺りが急に騒がしくなる。どうしたのだろうと思ったが、うつむくお市殿がどう反応するか見張っていなければと、視線を外さなかった。

「………わかったわ」

お市殿が顔を上げた。そうして、もう一度頭を下げた。

「どうかよろしくお願いします、真田さん」
「…承知いたした!」

やった!承諾していただけた!!

嗚呼、昨日から良い事続きだ。やはり駄目かと思ったがついにお市殿の首を縦に振らせる事ができた。

これで、きっとお市殿を笑顔にする事ができるだろう。

ほっとして、そこでようやくやたら騒がしい辺りを見回すと、何故か俺とお市殿の周りに人だかりができていた。

「な、何事にござる?」
「…行きましょう」


俺はお市殿が人に潰されてしまわれないよう庇いながら人混みを掻き分け、どういうわけか騒がしい廊下を後にした。




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