戦国BASARA

□2
1ページ/1ページ






■お兄ちゃん、説教するの巻




幸村は俺を叱る時、時々軽く脅し文句を使ったりする。例えば

『そのような事をされていては良き大人になれませぬぞ!』

とまぁ、よく大人が子どもに使うヤツだが幸村が俺にちゃんと言う事を聞かせたい時、いつもより強く叱る時…というのか。使う脅し文句がある。それが今から言われるヤツだ。




「政宗殿!いい加減に起きませぬと政宗殿をまー君と呼びまするぞ!!」




まー君。

俺は出会い頭幸村にそう呼ばれて思い切りガン飛ばした記憶がある。

中学生から見た小学生なんて可愛らしいものだったんだろう。それにあの時は更に悪い事に、背も結構差があった。

幸村は俺が"まー君"と呼ばれるのを嫌がると覚えていて、こうして脅し文句に使っているのだ。

だが幸村、あんたは甘い。俺がまー君などというガキクサい呼び名を嫌がったのは本当にガキの頃の話だ。

今はむしろ………。呼ばれてみたい。

幸村にまー君。まー君と呼ぶ幸村が可愛いしバカップルのようで良い。そして俺は幸村をゆきたんと呼ぶのだ。…ああ、良いなやっぱ。バカップルのようで良い。寝起きの頭は平和な図を描く。

だが、幸村を困らせたくはないのでその脅し文句が出ると俺は幸村の要求を受け入れ宿題をやったり夜更かしをやめたりしていた。




…だが。




「…もう少し…あと一時間…」
「寝ぼけるのも大概になされよ!政宗殿のご友人はもう既に待ち合わせの時刻より過ぎていると申されたのですぞ!」

「放っておけよ…勝手に言ってるだけだ…」
「政宗殿!」

今回ばかりは言う事を聞いてやるつもりはなかった。

そもそも、何故今回"まー君"が出たのかと言うと、休みの日に堂々と朝寝坊をして―………いや、それは別に良いのだ。いつもの事だし休みの日は幸村も俺の寝坊を咎めたりしない。そうではなく、先程その、まったり朝寝坊をしている最中に家の方にかかってきた電話を幸村がとってしまった事に原因があった。

相手は中学に入ってから連んでる野郎で長宗我部元親と言う奴だ。

長宗我部は俺とは逆の左目に眼帯をしている。俺がその事について触れないせいかこっちの理由を聞いてこないしあっちの理由も言わなかった。そういうところが連んでいて心地よかった。

だが、いかんせん奴は時々うざったくなる時がある。

例えば今みたいな時だ。

昨日からしつこく出かけようと誘われていたのだが俺は最初にきっぱり断って後は無視した。

帰ってからもメールやら電話やらでやかましかったので携帯の電源を落としておいたらついに家電にかけてきやがった。

そんなこんなで幸村が朝っぱらから珍しくknockもなしに俺の部屋に入ってきたと思ったら起きろ起きろと騒いでるわけだ。

ったく長宗我部の野郎…。幸村にまで手間かけさせやがって…

「なりませぬぞ政宗殿!ご友人ならば大切にせぬと!」
「俺は昨日確かにちゃんと断ったぜ。…あっちが勝手に約束した気になってるだけだろ」

「なれどあちらは待ち合わせ場所で今も…」
「良いんだって放っときゃー…」

言い捨てて頭から布団を被ると、幸村がううう、と唸った。そして。

「まー君ッッ!!」

布団を勢い良く剥ぎ取りながら幸村が叫んだ。

「だとしても!携帯の電源を切って無視などなりませぬ!!せめてもう一度話をされよ!!連絡がつかぬとたいそう困っておられましたぞ!!」

途端、寒気が全身を襲う。

「さぁっ!!まー君!!!」

机の上に放っておいた俺の携帯を引っ掴み、電源を入れた幸村がベッドの上で寒さに丸まる俺にそれを突き出した。

「………。」

俺は手を伸ばし、突き出された携帯をスルーして幸村の手首を掴む。

「…ゆきむらぁ…」

そして思い切り引いた。

「ぬおおおお!?」

予想外だったらしい幸村は簡単に俺の上に倒れ込んで来る。俺は足も使ってすかさず幸村をガッチリ抱え込んだ。

「まー君!突然何をされるか!ふざけてないで早く電話を!!」
「………」

目の前にある幸村のフワフワした髪に鼻を埋めて思い切り息を吸えば、大好きな幸村のにおいで満たされる。…嗚呼、幸村…I love you…!

「ゆきたん」
「は?」

「幸村が俺をまー君と呼ぶなら俺も幸村をゆきたんと呼ぶ…」
「ゆっ、ゆきたん?」

「Yes、ゆきたん…」
「ゆきたん…」

幸村は突然付けられたあだ名に戸惑っているようで不思議そうにゆきたんと繰り返す。

「さぁ呼びなまー君と。そしたら幸村はゆきたんだ。」
「ぬぅ…しかし何やらゆきたんは軟弱な感じがするでござる」

「まー君だってそうだろ」
「そ、それは政宗殿が聞き分けないから…」

「俺がまー君なら幸村はゆきたんな。Ok、決まりだ」
「待たれよ!何故そうなるのでござる!それにゆきたんはならぬっ!!」

ジタバタと暴れる幸村を腕や足で締め付ける。

「ゆきたんゆきたんゆきたん」
「ゆきたんは駄目でござる―――!!」

嫌がる幸村が可愛くてつい苛めたくなってしまう。好きな子程苛めたくなるってあれ、本当だよな。

「むううう!なれば政宗殿をいついかなる時でもまー君と呼んでしまいまするぞ!!まー君まー君まー君!!」

幸村なりの仕返しのつもりらしい。…くっそ、こいつマジcute。何なんだ畜生、俺を萌え殺す気か?

「ならこっちだって幸村の知り合いがいる前で呼んじまうからな、ゆきた〜んって」
「なっ、何と?!むううう!まー君は意地悪でござるぅうう!!」

「ゆきたんゆきたんゆきたん」
「まー君まー君まー君!!」

「ゆきたんゆきたんゆきたん」
「まー君まー君まー君!!」

「ゆきたんゆきたんゆきたん」
「まー君まー君まー君!!」




………朝っぱらから何だこの状況。幸せ過ぎる




「Ahー…やっぱ休みの日はこうやってあんたとゆっくり過ごすに限る」

不意にしみじみと呟けば幸村が暴れるのをピタリとやめた。多分俺の言葉が嬉しかったんだろう。

「…し、しかし友人関係を疎かにされるのは…」

さっきまでの勢いを引っ込めて、静かに改めて諭そうとしだす幸村を、腕の力を抜いて開放してやればこちらを見つめる真面目な目とかち合った。

まぁ、わかっちゃいたが幸村は絶対に引かないつもりだ。兄として俺の友人関係を真剣に心配しているのだろう。

仕方がない。あんまり幸村には言いたくなかったが理由を話してやるか。

「なぁ、幸村は俺に今日、童貞を卒業してほしいか?」
「…は?」

真剣だった幸村の顔が俺の一言で一瞬にして間抜け面になった。

「だから俺、そのしつこい奴から女にいかがわしい事しに行こうって誘われてたんだが」
「…い…いかがわしい…こと?」

「決まってんだろ、セックs」
「ぬぁああああああああああ!!!!!!!」

聞いてくるからハッキリ言ってやってるのに幸村は最後まで聞かず悲鳴に近い大声で俺の言葉を遮った。

「はっ、はっ、はっ、破廉恥でござる!破廉恥でござるぞ政宗殿!!そのようなっ!!なりませぬっ!!政宗殿はまだ中学生でござるっ!!早すぎるでござるっ!!断じてなりませぬっ!!断じてっ!!!」

顔を真っ赤にした幸村が懸命に俺に訴えてくる。一目見ただけでパニックになっているのがまるわかりの取り乱し様だ。

実は幸村はこの手の話が異常に苦手なのだ。高校生にもなって少し心配になる程のpureぶりだがまぁ俺にとっては実に好都合だ。

「Hey、少し落ち着けよ幸村」
「某は落ち着いておりまするっ!!」

「思いっきり興奮してるだろうが」
「落ち着いておりまするっ!!」

「………。」

見開かれた幸村の目が興奮のあまり血走っている。

ひとまず落ち着かせる…のは難しいらしい。…ので、幸村が俺を心配する必要はないという事を簡単に伝えてやる。

「だから断ったって言ってるだろ。俺だって知らねー女といきなりそういうのは勘弁だ」
「へっ!?」

「最初から言ってるじゃねぇか、断ったのにしつけーから無視してるって」
「…そういえば…そうでござるな…」

すると強張っていた幸村の体の力が抜けた。

「落ち着いたか?」
「………落ち着きました」

落ち着きを取り戻した幸村は深呼吸すると、そっと俺の頭を撫でた。

「そのような事情があったとは知らず頭ごなしに叱りつけて申し訳ありませんでした。政宗殿は良い子でござる」
「だろ?もっと撫でろ」

言って俺が上半身だけ起こすと、幸村ももぞもぞと体勢を直し、俺の足の間で正座をした。

「良い子でござる良い子でござる」

そうして俺に言われるがまま頭を撫で始める。俺はその幸村にしがみついて胸に顔を埋めた。

「Ah〜…もっとだ…」
「政宗殿は良い子でござる」

幸村に甘える瞬間は俺の至福だ。こりゃダメだ…今日は1日このままでいるしかねぇ…

幸村からは決して見えない角度で思い切り顔の筋肉を緩めきっていると、さっき幸村が電源を入れた俺の携帯が勢い良く振動した。

ディスプレイには長宗我部の文字。

「…政宗殿」
「無視だ、無視」

長宗我部ごときにこの幸せを邪魔されてたまるか。幸村も事情を知った事だし無視を許すだろう。…そう思ったのだが。

「いえ、某、政宗殿のご友人に一言物申し上げたく」
「…頭は撫でてろよ」

「承知」

幸村は俺にしがみつかれたままベッドの上に落ちていた携帯を右手で拾い上げ、通話ボタンを押しながら耳にあてた。左手は俺の頭を撫でたままだ。

「もしもし。政宗殿のご友人殿でございますな。某は政宗の兄で幸村と申す者にござる」

先程はどうも、と挨拶する幸村の声はいつもより静かで、そして低く固い。本気で怒っている。

俺は思わずニヤニヤした。

幸村は今俺の為に怒っている。それだけでも幸せな気分なのだが俺の事を殿抜きで呼ぶのを聞くのはかなりrareな事だった。しっかり聞いて耳に残そう。そして更に美味しい事に、同時に俺が幸村に甘えているというこの状況。こんなにhappyなsituationを味わえたのだから長宗我部には感謝しなければならない。その長宗我部はこれからじっくり説教されるのだが。

俺の為にできるだけ長く説教されてくれよ長宗我部。そうすりゃしつこくつきまとってきた件については許してやる。

「良いですか長宗我部殿。そのような破廉恥な事にうちの政宗をまた巻き込むような事があれば某、あまり望みませぬが兄として弟の友人付き合いに口を出さずにはおれませぬ」




…ぶっちゃけ、さっきは大袈裟に言っちまったが長宗我部は俺を合コンに誘っただけだった。ま、幸村にしてみりゃ同じようなもんだろ。

どのみちオカンムリ状態の幸村に訂正を入れるつもりなんかねぇが。




「今後はうちの政宗を破廉恥な事に巻き込む事はご遠慮願いたく」

俺は幸村のこの怒りの中に少しでも嫉妬心が含まれていれば良いと思った。




***




次の日学校へ行くと、あれから合コンを失敗したらしい長宗我部が挨拶もそこそこにげんなりした顔で

「おめぇの兄ちゃん超怖ぇ」

と言ってきた。




おわり

+++

(*^p^*)ちょっとお兄ちゃんがDQNぽくなってしまいましたかな

でも政宗様は大喜びですね




11.12.15
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ