戦国BASARA
□オマケ
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※異変オマケ
※佐助のターン
真田幸村という人はわかり易い。
「ねぇ旦那、何か俺様に聞きたい事とかあるんじゃない?」
言い出し難い事などがあるといつもこうなのだ。
昨日、伊達政宗とぶつかり合って帰って来てから時々何か言いたそうに俺を見て、その度に俯く…をずっと繰り返しているのでそろそろ聞いてあげる事にする。
「…じ、実は、そなたに折り入って相談したい事がある」
内容はもうわかってた。
見てたから。
うん、影から。
でも俺自身、旦那から相談されたらものすんごーく複雑な心境になる内容なので心の準備をしたかった。んで、ようやくできたのが今というわけだ。
「いいよ何?」
昨日、図らずも部活をサボってしまった旦那はいつもなら一年生がやる部活後の片付けを自ら引き受けた。一人でやるのはさすがに大変だろうから手伝おうとしたんだけど、キッパリ断られたので俺は側で暇を持て余す振りをして―…心の準備をする事に集中しながら突っ立っていた。
「こ、これはあの、とある友人から相談された事で決して俺の事ではないのだが!」
真田幸村という人はわかり易い。本当にとても。
「フーン、旦那のオトモダチ。成る程?」
でも俺は優しいから気付かない振りをしてあげる。
「ええと、ただ、相談されながら、俺には考えてもわからなかった故そなたにも俺から相談してみる事にした」
「ウンウン、オトモダチの事デスネはいはい。…んで、何?」
内容が内容だけに架空の誰かさんのせいにしてもまだ言い出し難いらしい。仕方ないけどらしくない旦那に思わず苦笑いしてしまう。
旦那は体育倉庫にサッカーボールをすっかりしまい込んでからようやくボソボソと喋り出した。
「…友…というか、毎日のように競い合う事により互いを高め合うような仲…というような相手がこちらにたいそう腹を立てていてな。どうやら理由は知り合いの恋仲の応援をしていた事らしく…」
「ふんふん」
「それから…あ…その、言い争っている内にと、突然、せ、せせ、せ、せ」
「せ?」
接吻て言うんだろうな。
「せ、接…吻を、され、何故したのか問うたら、そういう事だ、と言われたらしいのだがそういう事とはどういう事なのかわからぬのだ」
あああああ接吻!ほらね言ったでしょ接吻って!今時言うかキスを接吻!いや違うそんな事はどうでもいいんだよそれより心の準備はしてたのに何かもう何とも言えない気分だよほんとに嗚呼!
まだまだ色気より食い気の可愛い子どもだと思ってた旦那が自分の恋バナ相談持ちかけて来る日がついにきちゃったよ…
あああああ。何かこう、呑みたい。多分酒が呑みたい気分。片倉の旦那を巻き込んで自分の子どもたちの成長について語り合いたい愚痴りたい。(でも片倉の旦那は親バカだから息子がいかに素晴らしいかをひたすら語りそうだ)
いやいや、今はそれよりも旦那の相談に乗ってあげないと。
「そういう事って言われただけ?」
「ああ。だがそういう事がどういう事なのか皆目見当がつかぬ」
「あのヘタレ野郎…」
えー嘘ぉ。…俺あの時旦那はてっきり告白されたと思ってた。かなり遠目で見たし声までは拾えなかったからなぁ。…してなかったのかよあの人
伊達政宗ぇ…旦那とそういう事になりたいなら順番があるからって言っておいたのに…。その上いきなりキスしといて理由をうやむやにするとは。ただでさえ旦那は超が付く鈍感でハッキリ言わなきゃわからない事くらい知ってるくせに。
説教してやる…片倉の旦那にもご協力願って二人で説教してやる…!
「佐助?」
「ん?ううん、何でもないよ何でも!」
「して、そういう事とはどういう事なのだろう」
「ん――――――…」
ここはうまく言わなければならない。伊達政宗の気持ちを俺から旦那に伝える気などさらさらないのだから。
「あー、えーと、まぁ、ほら。もう少し仲良くしたいなーみたいな意味かな?」
「な、なっ、仲良くしたい!?」
予想外すぎる意見だったらしく旦那はオーバー過ぎる程驚いた。
「ほ、ほら他人の恋仲を応援するよりこっちをかまってほしいよ〜みたいな?」
「そっ、それならそうと口で言えば良いではないか!」
「言いたいけどなかなか口に出せないから行動で示したんだよきっと」
「しっ、しかし言い出しにくいとてわざわざあのような事を!」
…けど…ちょっと苦しいかなこれ。伊達政宗の"仲良くしたい"意味は旦那の考える仲良く、とは違う。そこを突っ込まなければ筋が通らないのだが俺はわかっていながら突っ込む事ができないのだ。
「…佐助、」
「えっ、な、何?旦那」
う。さすがの旦那でも気付いたか…?
「仲良くしたい故接吻するというのは普通なのか?俺は接吻とは好き合った男女が交わす特別な儀式のようなものだと思っていた」
「儀式て」
そんなわけなかった。
理解はし難いが何とか理解しようと努める、そんな顔をした旦那が真面目に聞き返してきた。
「まーイマドキはキスの一つや二つ、そんなに重たい意味を持ってする人は少ないかもねー」
「は、初めてだったのだぞ!」
「あー、ウン…」
どうしよう自分で自分の首を締めてるようなこの感覚。誤魔化せば誤魔化す程苦しくなってくぞこれ。
ううう。ごめんよ旦那。勿論キスの重さなんて人それぞれだしほんとは不意打ちでファーストキス奪われちゃった旦那を慰めてあげたい気持ちでいっぱいなんだけど…
「だがやはり俺にとって接吻とは、そのように軽々しく扱えるようなものではない!それを…それを…!そのような軽い気持ちで!伊達政宗め許せぬ!!」
罪悪感でチクチクする胸を思わず押さえていると、目の前で困惑してばかりいた旦那が突然怒りに燃え、猛烈な勢いで走り出した。
「えっ、えええ!?ちょっと旦那!?」
方角はグラウンドの隅。確かさっき見た時伊達政宗が一人で居残って練習していた。
どうしよう俺、どうするんだ俺。
とりあえず距離を置いて追いかける。
っていうかすっかり"とあるオトモダチ"の設定忘れちゃってるし伊達政宗って言っちゃってるし!
「知らない振りするこっちの身にもなってよもォー!」
…しかし、よく考えてみたら旦那が伊達政宗に昨日のキスの事で文句を言うのは当然といえば当然だ。ここで俺が間に割って入るのは野暮ってものだしここはひとつ、追いかけなかった事にしてこっそり見守るのも手か。
辺りが暗くなってきた為か後片付けに入っていたらしい伊達政宗に走り寄り、ビシリと人差し指を向けている旦那が見えた。
「伊達政宗ぇえ!!貴様に一言物申す!!」
俺は苦笑いしながらこそこそと適当な茂みに身を隠す。…と。
「あれ」
近くに先客がいた。
「猿飛?」
片倉の旦那だ。
「こんなとこで何してんの片倉の旦那」
「政宗様の練習を見守っているんだ」
「見守るくらいなら一緒に付き合ってやれば良いのに」
「断られた。しばらくの間部活に出なかった分をこうして部活後も練習する事で埋めようとしていらっしゃるのだが、散々迷惑をかけた部員たちには絶対突き合わせない…と仰られた。俺も先に帰るよう言われたんだが心配でな」
「ふーん。どこも似たようなもんだね」
「…で、あれは何だ?」
「あー、あれね」
あれ、とは勿論少し先で伊達政宗に食ってかかっている旦那の事だ。
「昨日の事でちょっとね」
「…ああ」
片倉の旦那は多分俺と同じような顔をしてため息を吐いた。
旦那は顔を真っ赤にしてキスに対する考え方を改めるよう訴えていた。
「なのにおぬしときたらあのように軽々しくしてしまいおって!だいたい、某と仲良くしたいなら言葉で伝えれば良かろうっ!!おぬしにとって接吻が気軽なものだとしても某にとっては違うのだ!!」
「Ha、猿に何か言われたな?」
「昨日のおぬしの何もかもが理解できかねたので相談したのだっ!」
「Ok、んなピリピリすんなよ。あんたの言いたい事はわかった」
旦那があんなに熱くなっているというのに伊達政宗は珍しく冷静だ。大概いつも一緒に熱くなっているというのに。
…何かヤな予感がする。
「わかったとはどういう事でござる」
「つまりあんたは軽々しくkissされたのが許せねぇんだろ?」
「いかにも!!」
「Okok!俺も男だ。そこまで言われたらちゃんとしねぇわけにいかねぇよな?」
伊達政宗がズイと旦那に近付いた。ヤな予感が強まる。
「…な、何でござるか」
「だから、ちゃんとするんだろ、kiss。」
「なっ?ななななな?!何を!?」
ハイハイハイハイ嫌な予感的中ー。何言っちゃってんのかなあのスケベはー。
片倉の旦那を見てみると左手でこめかみを押さえている。止める気はないのね。
「あんたのfirst kiss、ちゃんとやり直してやる。相手は俺なんだ、問題はねぇだろ?」
「なっ、何故そういう事になるのだ!」
「あんたが文句言ってきたんだろうが。軽々しくkissしやがって、って。だからちゃんとしたkissしてやるって言ってんだろ」
「そっ、そっ、某は!やり直してほしいなどとは!」
お前がしたいだけだろスケベ!旦那逃げ…
「いいから、もう目、瞑れよ。」
「え、あ…待…」
あ…あれ?何大人しくして
「…」
「…」
えええ…
瞑っちゃった
瞑っちゃったよ
旦那大人しく目瞑っちゃったよ
旦那、目を瞑ったって事はどういう事かわかってるんだろうか。
伊達政宗の右手が旦那の頬に、左手は腰に回る。そうして唇が触れ合った瞬間、旦那の体が大きくビクついた。
「んっ」
俺の体も少しビクついた。旦那の、くぐもったような声。『そういう時の』声。うわーうわー身内のこういうのあんまり聞きたくないんですけど…
「は、…ぅ…」
角度を変え、多分鼻で息ができないのだろう旦那の為に息継ぎをさせてやりながら伊達政宗の"ちゃんとしたキス"はだいぶ長い事続いた。終わった時、薄暗かった辺りの景色がすっかり真っ暗になっていたのだから本当に長かった。
「どうだった?ちゃんとしたkissは」
「…は、…な…長、…」
「これで文句は無ェな?」
唇が離れてからそれだけ言葉を交わすと、旦那は伊達政宗と目を合わせる事なく、帰る、と呟いてヨロヨロとサッカー部の部室の方へ歩いて行った。
どうしよう俺。これからどんな顔して旦那に会おう。部室に荷物置きっぱだから先に帰ってた事にもできやしない。
そうして悩んでいる俺をよそに、伊達政宗は旦那の姿が見えなくなると
「ふ…ふふふ…くく、ふはははは…」
不気味な一人笑いを始めその場にうずくまり、笑い続けた。
き…気持ち悪…何あの人…
こっちはこんなに悩んでいるというのに原因であるご本人様はえらくご機嫌でムカついた。ハイハイ拒否られなくて良かったデスネ
っつーかまた告白しねぇのかよヘタレ!!
「猿飛…。」
そんな俺の心中を察してか片倉の旦那が神妙な顔付きで肩を叩いてきた。
「呑むか、今夜」
勿論頷いた。
次の日、伊達政宗に自販機前で絡まれた旦那は最初は少し気まずそうにしながらも、応戦。
それからも何やかんやと以前のようにそこかしこで衝突し合い放課後くらいになるといつもの二人に戻っていた。
そうしてまた旦那に相談される俺。
「…昨日そなたに相談した件なのだが、仲良くしたいから接吻した割にはあちらから仲良くしたいと歩み寄るような気配が全く感じられぬのだ」
旦那は気付いてないんだろうな。つまらない事で気兼ねなく衝突(端から見ればじゃれ合いだけどね)し合える事事態が旦那たちにとって仲良しな証拠だって事に。実際、つい最近衝突できない事で調子を崩してたのはどこの子だったっけ?
俺からしてみればカッコつけの意地っ張りと超鈍感がいかに互いの距離が近いか無意識に確かめ合ってるように見えるよ
あーあ、ご馳走様ですね。やってられないよもう
「…む?ところで佐助、そなた微かに酒臭くはないか?」
あんたらのせいですよ!
おわり
+++
(*^p^*)オカン乙!
どういうわけか珍しく学バサ政宗様が積極的だったという驚き(笑)
12.02.14