戦国BASARA
□sweets maker
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※学園BASARA
※バレンタイン
※オカン佐助の温かな眼差し
※政宗様がリア充
「俺に菓子の作り方を教えてくれ」
日曜日の朝っぱらから突然家にやって来て頼む、とクソ真面目な顔で俺に頼み込んできたのは幼なじみの真田幸村。俺は真田幸村を"旦那"と呼ぶが年は一つ下だ。小さな頃から弟みたいに、というより我が子のごとく世話を焼いてきた。
サッカーにのみ情熱を傾けてきた旦那は家事なんか一度もやった事ないし、もともとあんまり手先も器用な方じゃないからこれから先も家事…ましてや台所になんて立つ事はないのだろう。(だいたい、旦那の家族も台所を壊滅させられたくないはずだから立たせないと思うし)
家の事はとにかく誰かに頼りきりで生きていくんだろうな。俺とか。………なーんて思っていたのに。
「お、お菓子って…本気なの旦那」
「俺はいつだって本気だ!」
旦那は甘い物が大好物だが自分で甘い物を作りたがる事は一度としてなかった。旦那にとって甘味とは作る物ではなく作ってある物なのだから。…いや待てよ、小学生の時ホットプレートでホットケーキを焼いてあげた時に一度だけ俺にもやらせろと言ってお玉で生地をホットプレートに流し入れた事があったか。あの時旦那ったらまだだって言ってるのに焦って生地を早めにひっくり返して形が崩れちゃって。…ふふふ、あの時の旦那の顔ったら…。あ、いやいや、今はそれは置いといて。
「でも何で急にお菓子なの」
黙ってたってもうすぐいっぱい食べられるってのに。
「うむ。実は」
***
「…良いけどね、別に。俺様も旦那に作ってあげようと思ってたし…」
お菓子を作ってくれ、ではなくお菓子の作り方を教えてくれと言われた俺はとりあえず旦那と一緒にスーパーへやって来た。
今日は部活も休みで、さっきも言ったけど実は旦那にチョコレートケーキでも焼いてやろうと思っていた俺は材料を買いにもともと一人で来る予定だった。
旦那と買い物に来るのは別に初めてじゃないし別に良いんだけど…。でも、今日は違和感がある。
「…旦那、何でカレールー選んでるの」
俺の突っ込みに旦那がギクリと振り返る。
ここはカレールーコーナーだ。
「いや…ち、違う、チョコレートの事を考えていたらだな、」
「色と形が似てるカレールーを連想して食べたくなっちゃったの?」
「う…。…まぁ、そんなところだ」
「しょうがないなぁ」
俺はカレールーを自分のカゴに入れつつ旦那の姿をチラリと見やる。
いかにもお買い物に来ましたって感じでカゴを持つ旦那。
でも旦那はいつもカゴは持たない。持つのはいつも俺一人。
しかもその、旦那の持つカゴの中身は板チョコレートでいっぱいになっている。
その上、そのチョコレートは自分で食べる為に買うならまだしも他人の為に買うチョコレートだというのだから何だかもう、違和感を感じたって仕方がない。
え。誰の為に買うかって?
まぁね、旦那がこういうイレギュラーな事をする理由…、と、いうより原因?元凶?っていうの?………そんなものは一つしかない。
旦那と日々顔を突き合わせればいがみ合ったりいちいち真剣勝負をしたり、放課後には部活を行う為にグラウンド使用権を奪い合う、旦那の宿命のライバル…伊達政宗。
とまぁ、建て前的な事言ったけど実際は伊達政宗が旦那にベタボレで顔を見れば我慢できずにちょっかい出しまくってて、でも真面目な旦那は伊達政宗の下心に気付かず真剣に応戦してる感じだ。
今回の事もそう。
旦那が何故いきなりお菓子の作り方なんか聞いて来たのかと思ったらどうやらまた伊達政宗にちょっかいをかけられたらしい。
何でも?グラウンド使用権をかけて言い争ってる内に突然バレンタインの話を持ちかけてきて喧嘩腰のまま何故か手作りでチョコレートが作れるか作れないかに論点が移り、よくわからないながらも応戦していたら伊達政宗があまりにも小馬鹿にするような言い方をするのでつい作れると大見栄を切ってしまったらしいのだ。
誘導されてるよ、旦那…
旦那が家事全般ダメな事くらい伊達政宗はとっくの昔に知っている。しかもグラウンド使用権を争ってる時に強引に話をそっちに持ってって大袈裟に煽るなんてもう、旦那からのチョコレートがどうしても欲しかったから誘導したとしか思えない。どうしようもないな…
旦那も旦那だよ、いくら勝負好きだからってちょっと煽られただけでほいほい乗っかっちゃって。鈍すぎるにも程があるよ。普通わかるだろ、バレンタインにチョコレートだよ?自分だって毎年いっぱいもらうだろ。(ただし義理以外は丁重にお断りしている)
多少なりとも結果を想像してよね。自分が作ったチョコレートを伊達政宗に手渡す瞬間の事を。つまりあれだよ?わかってないだろうけどバレンタインに手作りチョコレートを伊達政宗にあげる約束してきたんだよ?
呆れを込めた視線を旦那にやると、今度はジッと、華やかで可愛らしいラッピングコーナーを見つめていた。
「…旦那?」
呼びかけてみると旦那は視線を外さないままさりげなく俺に爆弾を落とした。
「…佐助。やはりバレンタインであるし、菓子の包装はこういったもので飾り立てた方が喜ばれるだろうか」
「えっ?」
驚いて聞き返すと、旦那の顔にさっと赤みが差したのが見えて更に驚く。
「な、何でもない!」
旦那が足早にラッピングコーナーを離れていく。俺は驚きの余韻で少しだけその場に立ち尽くしてしまった。
「え…な…何それ、」
勝負って事じゃないの?何、喜ばれる事考えるとか、え?は?旦那…?
「やだ嘘でしょちょっと」
最近伊達政宗絡みの事で俺は旦那に驚く事が多くなった。
まだまだ子どもだと思ってた旦那が、知らない内にどんどん成長してる姿をちょこちょこ見るのだ。
旦那はただ伊達政宗に煽られて勝負に燃えていただけではなかった。
ちゃんとバレンタインを意識していた。
つまりちゃんと意味を理解していた。
色恋なんかからっきしで花より団子の旦那が、こんな可愛いラッピングを見て伊達政宗が喜ぶか否かを考えてたなんて。
「何だかなぁ…」
俺は目の前にある色とりどりのラッピングセットの中から旦那らしい赤い物を手に取ってカゴに入れた。多分自分からはもう恥ずかしくて買えないだろうから。
「こんくらい世話焼いたって良いよね?」
*