戦国BASARA

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■お兄ちゃん、板挟みになるの巻




「はぅあ!?」

学校から帰宅した幸村は鞄からすっかり中身のなくなった弁当箱を取り出そうとしてその失態に気付いた。

女子が好むような小さくて可愛らしい色、形などと違い、どれだけ詰め込める事ができるのかのみを重点に置いたような銀色の、そしていかに育ち盛りの高校生といえどそれは少し大きすぎやしないか、どこで買ったんだと突っ込まれそうなサイズの弁当箱。

これは毎朝、可愛い可愛い弟、政宗が食いしん坊の幸村の為にせっせと昼飯を作り、詰める為の箱である。幸村が毎朝部屋に行っては散々呼びかけ、揺すってそれでようやっと起きていた、とかく朝には滅法弱いはずの政宗だったが幸村が高校生に上がった時、幸村の弁当は自分が作ると母親に宣言して以来毎朝寝坊する事なく作り続けてくれている。

学食も購買もあるし、たまには楽しても良いと言っても政宗は欠かさず幸村の為に弁当を作り続けた。

「…しまった…」

そして、幸村がもう一度鞄に手を突っ込んで取り出したのはその、バカデカい弁当箱に比べるとやたら小さく見える、しかし実際は普通の成人男性用の四角い弁当箱だった。

この弁当箱に中身を詰め込んでくれるのは政宗ではない。

「佐助に返しそびれてしまった」




佐助。

正確に言うと猿飛佐助。彼は幸村と政宗の親が再婚する前から幸村と仲良しな友だちで、所謂幼なじみである。佐助の方が一つ年が上で世話焼き好きという事や幸村は本来可愛がるよりも周りから可愛がられる体質なのもあって、佐助は本当の兄のように…というより本当のオカンのように幸村の世話を焼いていた。

幸村が再婚により今住んでいる新居に引っ越してからも近所とまではいかないものの幸い距離はそれ程離れておらず、学校も同じままだったので幼なじみの関係はそのまま続き、高校も当たり前のように同じところへ進んだ。




そうして、弁当である。




政宗が作ったバカデカい弁当の中身は申し分なく美味であり、こう言っては悪いが自分の母親が作る料理よりも美味である。政宗は普通の主婦なら手抜きするような場所を決して手抜きせず、丁寧に処理する。その上研究熱心な政宗は試行錯誤して幸村が同じような味ばかりで飽きないように常に新しい工夫も取り入れていた。佐助も毎回この弁当には驚いている。幸村も大満足だ。




………だがしかし。




幸村という人間の燃費はすこぶる悪かった。

文武両道を貫くべく幸村は勉強もスポーツも常に全力投球な為か、消費エネルギーの方も全力投球だった。

学校が始まり二時間目には腹が減ったと早弁を始め、お昼の時間に残りを食べた後購買でパンを買っていた。

…そんな幸村を見て世話焼き好きの血が騒いだ佐助が早弁用の弁当を作ってきてやると提案してきたのだ。

幸村は素直に佐助の厚意を、政宗には内緒で受け取っていた。




何故内緒なのか。理由を思い出すと今でも幸村はため息を吐いてしまう。




時間は一年と少し前に遡る。

新しい生活に慣れ始めていた幸村と政宗に両親から携帯電話が買い与えられた。最初の内は写メやらムービーやらでお互いを撮ったり撮られたり撮られまいと逃げたりで楽しげにしていた幸村と政宗だったが、ある日幸村の携帯をいじっていた政宗がしかめっ面でこう聞いてきたのだ。

「幸村、佐助って誰だよ」

ああ、着信履歴でも見たのかと気付いた幸村が幼なじみである事を話すと

「俺とのメールよりこいつとのメールの方が多い…電話の回数も」

と、それはそれは不機嫌そうに言うので佐助にはもうほとんど学校でしか会えないから、と言うと

「ふーん」

と言って政宗は少し幸村の携帯を操作してから返してきた。

実はこの時、政宗がとんでもない事をしていたと気付くのは次の日である。

朝学校へ行くと神妙な顔付きの佐助がげた箱の前で待ち伏せしていて、どうかしたのかとは思ったがとりあえずいつものように挨拶すると怪訝そうな顔をされた。

そして自分の携帯を取り出した佐助は画面を幸村に見せてこう言ったのだ。

「これ、どういう事かわかる?」

佐助の携帯画面は昨日受信したメールを映し出しており、

『迷惑だ二度とメールするな猿野郎』

と書かれていた。

差出人の名前は…何故か自分。

「何かの冗談かと思って返信しても送れずに返ってくるし電話しても着信拒否されてるみたいだし」

何の事だ、そんな事俺は知らない、と混乱する幸村から携帯を借りると、佐助は少し操作して自分の携帯から幸村に電話をかけ、無事着信拒否を解除した事を確認する。

「ま、もともと旦那が冗談でも俺様にこんな事するわけないと思ってたし、そもそも着信拒否の操作方法も知らないみたいだし。犯人は旦那の事が大好きで俺様にヤキモチ妬いた誰かさんだろうね。…心当たり、ある?」

心当たり、なんて。

疑いたくはなかったが当てはまる人物はいた。…というか、今回この事件を起こせた人間は一人しかいない。




「政宗殿!」

帰宅して一番、過ぎるイタズラを咎めるべく政宗にめっ!しようとした幸村だったが、向かい合った政宗の態度ときたら全く反省の色ナシだった。それどころか逆に政宗の方が怒り出し自分とよりも佐助との方がメールや電話の回数が多いのは贔屓だとか、幸村の佐助に対する態度が自分とのそれよりもかなり親しげで砕けているのが気に食わないなどと抜かし、幸村を動揺させた。

その上政宗は突然シュンとなり、左目に涙を浮かべ

「俺と猿野郎、どっちが大切なんだよ」

と言い捨て自分の部屋に閉じ籠もってしまったのだ。

ついさっきまで政宗を叱る気満々だった幸村は、だがしかし一体何故今、こんな状況になってしまったのかさっぱりわからずしばらく呆然と立ち尽くしていたが、やがて政宗を部屋から引っ張り出すべくドアの外で四苦八苦した。




「あの時は大変だった…」

政宗はかなりヤキモチ妬きだった。

それ以来、また政宗が拗ねるといけないので家で佐助の話題は鬼門となっていた。

いつ携帯を覗かれても大丈夫なように佐助関連のメールや着信履歴などもこまめに消すようにしている。また政宗があの時のように拗ねるよりはマシだと面倒くさいながらも繰り返す内、すでに今では癖となっている。




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