戦国BASARA

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■お兄ちゃん、みかんの皮を剥くの巻




俺とは逆の目に眼帯してる奴がいる。

見た目が無駄に良いから入学式の日に初めて見かけた時はビジュアル系気取りの優男かナルシスト野郎かと思ったが、どうやら違うらしい事はすぐにわかった。

群がる女共を心底迷惑そうに振り払う様はモテたい奴の行動とはとても思えなかったし、ナルシストなら見た目を誉められて嫌な顔をしないはずだ。

ついでに奴は誰かから話しかけられればそれなりに受け答えしはするし無愛想とまではいかないが基本的には一人を好むらしく決まったダチを作ろうとしていないようでいつも一人だった。

だが一人で退屈そうだとか寂しそうに見えるかと思えばそうでもなく、むしろ用がないなら近寄ってくんじゃねぇオーラを醸し出す、近寄りがたい、そんな奴だった。

眼帯の下の事で何かあってそうなっちまったのかもしれないしそうじゃないのかもしれないが、そんな事はどうでも良かった。

純粋に眼帯仲間じゃん

という親近感が元々あったのと、俺となら案外馬が合うんじゃね?という根拠のない期待。あとはただ仲良くなってみたいという気持ちだけで二年に上がった時、同じクラスになったのを機会に近付いた。

意外にも奴は来る者拒まずな反応だった。迷惑そうにされると思ってたから拍子抜けした。

それはもしかすると、こっちだけじゃなくてあっちも実は俺を一年の時から眼帯仲間と認識していたからかもしれないし、もしくは俺が眼帯の下について興味本位でいろいろ聞かなかったからかもしれない。…まぁ、何か照れくさいから今更聞けねぇけどよ。

とにかく俺とそいつ―――…伊達政宗はよく連む仲となっていった。

連む内にわかったのだが、こいつはかなり嫌な野郎だ。見た目が良い上に成績が良くて運動神経もすこぶる良い。成る程こんなんじゃモテねぇ方がおかしいわけだ。

だからせっかく一年の、ちいちゃくて可愛い、思わず揉み倒したくなる巨乳を持つ後輩に告られても二つ返事でお断りしてきたって不思議はないわけだな畜生め




…なぁお前大丈夫?俺ら天下の中学二年生様だぜ?




心配になって親切で合コンに誘ったら散々な目に遭うし。

宝の持ち腐れすぎるだろこんなの。

お前、若い内に恋とか青春とか、とにかくいろいろやっといた方が良いぜ、なんて忠告したらいつもみたいに無表情かうんざりした顔で余計なお世話だ、興味ねぇ。みたいな応えが返ってくると思ったのに。




奴は、それはそれはらしくない柔らかな笑顔を見せた。

そんであまりにも見慣れない、女子的にはハート鷲掴みものなんだろうが俺的には(悪い意味で)鳥肌ものの、不気味とさえ言える表情で何故か家に招待された。




だから俺は休みの日の昼過ぎ、わざわざ政宗の家にやってきたわけだ。

…だが、政宗からは招待と同時におかしなルールを付けられた。

まず何故か、呼び鈴を押す事、家に向かって呼びかける事など、存在のアピールを禁じられた。

そして作戦会議よろしく家の間取りを図にして俺に簡単に説明した奴は、物音をたてないようにこっそり家に入り、自分の部屋まで来るようにと指示した。

その理由はもしかすると政宗の家の、他人が簡単に踏み込んではいけないような何か特殊な事情があるのかもしれないと理由は聞かずに頷いてその通りにしたわけだが。




俺は目の前の光景に我が目、我が耳をまず疑い、今現在が夢の中である可能性まで考えた。




「幸村ぁ、俺の事好きか」
「勿論!だーいすきでござるよ政宗殿!」




何だこれ、どゆ事?





いつもクールでマイペース。人に決して媚びる事などしない一匹狼気質の政宗。

場所なんか関係ない。学校だろうが家だろうがそれは変わらないはずで今日だっていつもの気怠げな態度で出迎えられるんだろうと思っていたのだが。

わざとらしく少し開いたドアの隙間から見える光景は見事に俺の考えを覆した。




「…もう一回言ってくれ」
「大好きでござるよ」

「もう一回」
「何度でも言いましょう。…政宗殿が大好きでござる」

「俺もだ幸村、愛してるぜ」
「嬉しゅうござる。某と政宗殿は昔から相思相愛ですなぁ」




クールな一匹狼のはずのあの政宗が。ベッドの上で正座する男…幸村、とか言ったか今。何度か政宗の口から聞いた事がある名前だ。確か政宗の兄貴のはずだ。…その、幸村の膝に頭を預け何かこう、幸せそうにゴロニャンしているのだ。よく飼い慣らされた子猫のように。

んで兄貴である幸村はといえば慈愛に満ちた目で政宗の頭を優しく撫でている。




…え。何これ。




その衝撃は俺の体をしばらく金縛り状態にするには十分すぎる強さだった。っつうか、こんなデカいショックは生まれて初めてだ。

…俺、ここにいていいの?もしかしてマズい現場なんじゃないのかこれ。見ちまったけど大丈夫かおい




どうすりゃいいんだ…




今日はとりあえず帰った方が…なんて、別に俺が悪いわけじゃないのにやましいような気になっていると、

「Hey、いつまでそこで突っ立ってる気だ長宗我部」

ふいに部屋から−…幸せそうにごろにゃんしていたはずの政宗から声をかけられた。




***




「…とまぁ、そういうわけだ。」

場所は変わって現在リビング。俺は政宗と、その兄貴の幸村とコタツを囲んでいる。

さっき政宗の部屋で幸村とは挨拶を済ませた。

少し前にいろいろあったから若干様子を伺いながら挨拶したんだが、幸村は電話越しの時とは違いほんわかしていて普段はあんな怖いキャラではない事を知る。

そんでせっかく弟の友人が来たのだからと自分だけ席を外そうとする幸村を、政宗が抱き止めた。それはそれは自然に。

…まぁ、うん。俺は察しが良い方だからすぐに理解した。政宗は幸村を俺に紹介するつもりで今日呼んだんだろう。

いやむしろ、幸村との関係を、か?

あの変なルールはつまり、政宗と幸村がイチャイチャしてる姿をわざと見せたくて付けたんだろうしな。

「いや、そういうわけってお前…」

どんな顔すりゃいいかわからない俺はどうしても引きつる顔もそのままに政宗を見やった。そういうわけとはつまり、こないだ話してた恋とか青春とかについての返答がこれなのだろう。何の脈略もなくいきなり言われようがわかる。何故なら俺は察しが良いのだ。

ちなみに幸村は現在、俺の手土産である牛乳プリンを満面の笑みで頬張っている。政宗に買ってきたやつだが政宗が幸村に譲ったのだ。

何かガキっぽいな…

そうは思ったがこの兄貴はなかなかに大人だとも思う。さっき自分たちがイチャイチャしてるところを…その上世間一般では良い顔されない関係である事が一発でバレるような場面を見られたっつうのに慌てもしなければ隠そうともせず、むしろ全く普通に、政宗に膝枕したまま挨拶を返してきたのだ。

政宗はもとからわかってたからともかく、普通ならあの状況は取り乱すとこだと思うんだが。

…つまり、この目の前のプリンを頬張ってる高校生は、やっぱ俺よりも大人というところか。




「…何借りてきた猫みたいになってんだあんた」

いまだにショック状態から完全に抜けきらない俺の、口数の少なさを指摘しているのだろう。政宗がからかうように口端をあげて笑っている。…これは学校だったらかなりレアな表情…。つまりは超ご機嫌、だ。

「猫みたいになってんのはお前だろ。兄貴の前だといつもそうなのか?」

からかい返すように言ってやればそれには幸村が笑顔で応えた。

「確かに政宗殿は甘えたさんでござるな。学校では違うので?」

いや。甘えたさんて。ガキか。

思わず突っ込もうとしたら幸村の言葉には政宗がマッハで反応する。

「言ったろ?俺が甘えるのは幸村、あんたにだけだって」
「政宗殿…」

ぞわわっと鳥肌が立った 。

何だこれ、つか、誰、こいつ。

いつもと違い過ぎる政宗の姿にドン引きしながら俺はつくづく嗚呼、と納得する。

「成る程な、こんなんじゃ学校の女子共なんて眼中に入らねえわけだ」

さらに合コンに誘った時の幸村の反応にもだ。

今時合コンくらいで随分と頭が固い兄貴だと今まで思っていたが今となっては考えを改めずにはいられまい。弟とはいえ、やっぱり恋人が合コンに参加するなんてのは不愉快だったんだろう。

「む?女子?」

ほらな、すぐ反応した。でも今はちゃんとわきまえてるからもう地雷を踏むようなヘマはしない。

「そうそう、政宗ときたら学校で超モテるくせに全然見向きもしないんだぜ」
「よせよ長宗我部」

政宗が軽く諌めてくるが気にしない。幸村はほぉ、と感心したように頷くと、ニコリと笑った。

「政宗殿は見目麗しいだけでなく心優しくもあり、勉学も家事もこなしてしまう魅力の塊のようなお方でござるからなぁ。」

…ちょ…誉めすぎだろ…。身内馬鹿っていうか何て言うかバカップルなのこいつら。俺もう帰って良い?

そんな意味を含めた視線を政宗にやると、政宗は何故か笑顔を引きつらせている。照れてんのか?と思ったが次の瞬間、多分こういう話の流れになるとわかっててそんな顔になったんだなと知る。




「もしも政宗殿がこれと決め、真剣に交際をしたいと思える女子ができたら某にも教えて下され。」




あれ?

となって政宗を見やれば苦々しい顔で笑顔の幸村を見つめて黙っている。

「えっ。いいのか?政宗が女子と付き合う事になっても…」

思わず幸村に問えば幸村は大きく頷いた。

「勿論でござる。政宗殿が真剣に選んだお方ならば兄は口出しなど致しませぬ。政宗殿を取られてしまうようで少し寂しく感じましょうがこの幸村、心から応援する所存」

…あれ?

と益々なってまた政宗を見やれば、これ以上余計な事言ったら殺すぞ、という顔でこっちを睨んできた。

…ん…んんん?ちょっと待てよ?何かおかしくないか?

「えーと?あれ?」

その政宗に首を傾げると、政宗は舌打ちした。

「…ま、そういうわけだ」

そういうわけってどういうわけ。

丁度タイミング良く幸村がみかんを取りに席を立ったので聞いてやると、政宗は幸村が戻って来るまでにとかなり簡潔な説明を寄越した。

幸村との関係、政宗が幸村をマジで愛してる事、だが幸村はかなり鈍くて真っ正面から告っても伝わらない事、幸村からは政宗とは違う意味でだが溺愛されている事。

「はーん。お前ぇの片思いか」
「うるせぇな」

今や政宗はさっきまでドヤ顔していたのが嘘のようなしかめっ面だ。

成る程、つまり幸村は、実は大人なのかと思いきややっぱり見た通りのガキだったのだ。

さっき政宗とイチャイチャしてるとこを見られて取り乱さなかったのも、幸村にとってはあれがただの兄弟同士のスキンシップに他ならなかったからだ。

…ちょっとほっとした。

いや、どの道この兄弟愛は普通からかなりズレてるし政宗は義理とはいえ同性の兄貴に真剣に片思い中なのは変わらないんだがすでに禁断バカップルになっていた、よりは何となく現状はマシな気がした。

「見てな、その内絶対落としてやる」
「振られたらお前ぇが地獄に落ちるぞ」

「Ha、有り得ねぇな」

長期戦を覚悟してか自信たっぷり、とまではいかないが政宗は不敵に笑った。

その時、またしてもタイミング良く幸村がみかんをいくつか持って帰って来た。

「幸村ぁ、みかん」
「しばし待たれよ」

幸村はテーブルの中央に持ってきたみかんを置いて、その内の一つを剥き始める。…多分あんまり手先は器用な方じゃないだろうなと思った。

「見ろよ、俺のために一生懸命みかん剥く幸村を。cuteだろ。天使だろ。…オイ、何見とれてやがる。あんま見てんじゃねぇよ幸村が減るだろうが」
「見とれてねぇし」

お前ぇはどうしたいんだ。見せびらかしたいのか見せたくないのかどっちなんだ。つか、減るって何だ。

「政宗殿、某は減ったりしませぬぞ?」

そう言ってニコニコと皮無しみかんを政宗に渡す幸村と締まりのねぇ面で笑う政宗を見て、俺は一刻も早く家に帰りたくなった。頼む、誰かタイミングくれ。





おわり

+++

(*^p^*)お兄ちゃんが自分の為に不器用ながらも一生懸命みかんの皮を剥いている姿を見て萌える弟を書きたくて始めたらこうなった

よくわかんないけど巻き込まれたアニキ乙です




12.03.12
 

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