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□夜の闇に抱かれて
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君に『愛している』と伝えた事は無かったね。


君と一緒に居たのは、長い長い俺の人生の中のほんの少し――そう、瞬きをするぐらいの短い間だった。
それでも俺の一番大切な瞬間(じかん)だったよ。



俺たち一族は、子を成す事が出来ないから。
人より数十倍長く生きれても、未来(さき)に繋げる術も、伝えるべき事も、何もありはしない。
だから『愛』なんてモノは知らなかった、知る必要もなかった。


――君に会うまでは。


君に会えたのは、ただのイレギュラーだったのかもしれない。
それでも俺は君に出会えてよかった。
君と過ごせてよかった。





     『夜の闇に抱かれて』





俺が生まれた所は元来、怪物(モンスター)といわれる者が多い国だったそうだ。


人と比べると圧倒的にモンスターの方が数は少ない。
中でも俺たち『吸血鬼(バンパイア)』と呼ばれる種族は本当に数が少ない。
初代の吸血鬼が自分の血を崇高しすぎたためか、栄養源が人の血である為かは知らないが、俺たちは子供を作る事が出来ないからだ。


その代わりにどの生物よりも寿命は長く出来ている。
だが、俺たちが人の世で寿命を全うする事は、まずありえない。


人間社会に入り込み、人と何ら変わりなく過ごしているモンスターも居る。
しかし、俺たち吸血鬼はそれが出来ない。
多かれ少なかれ人の血を摂取しなければ生きていけない我々は、人にとって好ましいものではないからだ。
そのうえ、俺たちは、子孫を残す代わりに一生に一度だけ気に入った人間を一人、仲間にしてしまうから。


伝奇や伝説にあるように、血を吸った相手全てを吸血鬼にする事は出来ないが、人々には俺たちに噛まれれば、皆が皆、吸血鬼になると信じられてきた。
だから人は徒党を組み、俺たちを根絶やしにしようとする。
自分達の身を守るという大義名分を掲げて。


何事にも例外は有る



『俺たち一族は子を作れない』



だが、俺の母にあたる人は違った。
彼女は天然の吸血鬼――突然変異体らしい――で、それだけでも珍しいのに、人間の男との間に子供――つまりは俺を作ったのだ。
元より孤高である事を好む吸血鬼が、突然変異体の、しかも子供まで作った母を一族は迫害した。


人間にも吸血鬼(なかま)にも受け入れられなかった母と父は、幼い俺を連れ、逃げるように西の辺境の地、『日本』へとやって来た。



『お前は俺達の誇りだ。何があっても強く生きろ』



長旅の疲れからか、父は日本に着いてから暫らくして、亡くなった。



『あの人と貴方に出会えて私は幸せだったわ。貴方もいつかきっと、永遠を上げても良いという相手に巡り逢えるわ』

『貴方もその人と永遠の恋をするの』



元々身体の弱かった母も父の後を追うように亡くなった。
俺は父と母の永遠の恋の生き証人なのだ。
 

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