OTHER
□死ハ甘美ナル快楽ニモニテ・完
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それは本当に些細な事で。
きっと、オレだったら見逃していた。
アルだから気づくことが出来た。
そしてオレの罪と罰を再確認させた――。
「アルー?何やってんだぁー?」
いつものように道の片隅にしゃがみ込んだ弟にオレは、背後から声を掛けた。路地でアルがこんな格好をしているときは決まってナニかを拾っている時だ。
こいつのコレは一種の病気みたいなものなのだろう。
「アールー…」
半ば諦めた声で呼んでみるがしゃがみ込んだままアルは動かない。
「アル…?」
いつもならばオドオドしながら『飼っちゃダメ』という視線を向けてくるのに今回はそれがない。
不審に思い、アルの肩越しに大事に抱きかかえられたモノを覗き込んだ。
小さな白い物体を抱いているのは判ったが、アルの陰になっていてそれが何か判別できない。
「兄さん……」
ようやくオレの気配にアルは振り向いた。
俺を呼ぶ声はどこか不安げで、その姿はまるで悪戯がばれて怒られる前の子どものようだ。
「今度は何を拾って…」
大切に抱かれたその物体を目にし、オレはギクリとした。
「動かないんだ、この子…」
アルが差し出したのは一匹の子猫だった。まだ生まれて一月も経っていないであろう小さな命。
だが身体は痩せていて毛艶も悪い。投げ出された四肢に薄っすらと開いた口、閉じられたままの瞳。
触れて確認するまでもなかった。
一目見てもう生きていないと、空気が伝える。
「寝てるのかな?」
「アル…」
幼さの代償として感覚を失ってしまったオレの弟は『物体』として捉えられる情報と『音』として聞こえる情報しか理解できない。
生物の『死』のように五感総てで感じるモノは自分だけでは解らない。
「……」
じっと抱きかかえたまま動かないアル。
オレの態度で気づいてしまっただろうか?
あの時の事を思い出させてしまったのだろうか?