「ここだ」


零一が連れてきたのは、カンタループだった。


「馴染みの店だ。雰囲気がいい」


カラン。


ドアの呼び鈴がちいさく揺れる。


「足元に気をつけて」


零一が少女に手をさしだす。


店内は薄暗い照明だった。


ジャズが流れている。


カウンターではなく、ボックス席に座った。


「君は、なにを飲む?」


少女が答えると、氷室は瞳をほそめて微笑んだ。


「実に君に似合う。甘く、せつなく、品がある…」


そのまま、少女の指にキスをした。


「今夜はどうする。私の部屋に―」


部屋にくるか?


そう聞くはずだった。


なのに。


「おう、零一。………ってなんだそのド美女はッ」


益田である。


零一は、あからさまなほど不機嫌に眉をよせた。


「益田。邪魔をするな。どこかへ消えろ」


「おいおい。ここは俺の店なんだけど」


零一の皮肉を気にもせず、益田が笑った。


そして、零一の隣にいる少女に声をかける。


「はじめまして。マスターの益田です。君は? 零一のお客さん?」


頷いた少女をまじまじと益田が見る。


「すごいなあ。すごい綺麗。ビューティーホー。ていうか芸術?こんな子に会えるんなら俺もホストになろうかな」


見惚れるように吐息をつきながら言う。


「潰すぞ」


冷たい声で氷室が言った。


「うん?」


「彼女に手を出したら、潰す」


「れ、零一…?」


「お前でも、潰す」


「お、おいおい…」


「容赦はしない」


氷のような視線を益田に向ける。


ゴクリと益田がのどをならした。


「冗談で言ったのに本気になるなよ…おお、こわ」


寒いといったように、益田は自分の腕をさすった。


「鳥肌たっただろうが、たくっ…」


そう言いながら、益田はカウンターにもどっていった。


零一が少女を見る。


その指に触れながら見る。


瞳をほそめて。


くちびるの端をわずかに上げて。


微笑む。


「今夜、私の部屋に来るな?」


極上の、ナンバーズの笑み。


客ではなく、今は一人の少女だけに注がれていた。



→fin←


お帰りなさいませ。
零一はいかがでしたか?
上位ナンバーの彼も、すっかり貴女様の虜のようですね。
またのご来店をお待ちしております。

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