かすかな、潮の香り。
さざめく波の音。
足元の砂はさらさらとしていて。
「綺麗な夜景でしょう?」
誰もいない海辺で貴文が笑う。
夜景。
貴文の言葉どおり、綺麗だった。
まるい水平線につながれた輝石のような灯り。
遠く、ビル群の光だった。
「たまに一人で来るんです。でもね、ずっと君に見せたかった」
そう言うと。
貴文は少女の肩に着ていたスーツの上着をかけた。
「夜だからね、冷える」
にっこりと微笑みながら言う。
少女が礼をいうと、貴文は首をふった。
「かまわないですよ、気にしないで。僕が勝手にやっているんだから。したいからしているんですよ」
それでもまだ困ったように礼を言う少女に、貴文は頬へキスした。
「そんなに言うなら、また明日も店にきてくれますか?僕を指名してくれる?」
少女がうなずく。
「…………」
貴文がふと無言になる。
「だめ、ですよ」
そして悲しそうな顔。
「そんな簡単にホストを信じちゃだめです。僕は悪人なんだから。いつだって君を欲しいと思ってるんだから」
そっと、少女の頬をつつむ。
「店では品のいいホストでも、二人きりになれば狼にでもなるんだよ?」
じっと少女の瞳を見る。
「もう店には来ないでください。皆が君を狙っている。奪われたくない」
そっと、抱きしめた。
「僕は君だけのホストだ。永遠に僕だけを指名して?」
夜空に願いを込めるように。
貴文は瞳を閉じた。
→fin←
お帰りなさいませ。
貴文はいかがでしたか?
最近、貴女様のことで思い悩んでいるようですね。
またのご来店をお待ちしております。
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