珪がエスコートしたのは遊園地だった。
夜の遊園地。
「…貸切り」
翡翠色の瞳をやわらげて、珪が笑う。
「行こう」
珪は少女の手をとると、入口の門からまっすぐ歩いたところ、
姫が住むような大きな白い城の前に連れて行った。
上を見上げると円錐型の装飾された屋根ごしにゆるやかに欠けた月がいる。
遠くからかすかに聞こえる園内の音楽は上品なもので。
風も。
星も。
噴水のしぶきさえも穏やかで。
まるで今の珪みたいだと少女が言うと。
「…お前といるから」
また笑った。
そして。
なにも言わずに珪は少女を抱きしめた。
やさしく。
やさしく。
まるで真綿でつつむように。
少女が頬を桜色に染めながら相手に体重を預けて、やっと。
「愛してる…」
珪はわずかに力をこめた。
ぴったりと二人が抱き合うと、長身の珪の顔は少女のつむじの上になる。
だから珪はそっと少女の前髪をずらすと小さな額にキスをした。
一度目はかるく。
二度目は長く。
三度目は耳たぶに。
キスする。
何度も。
何度も。
額。
頬。
耳。
首。
肩。
くりかえす。
そして最後は。
くちびる。
少女の頬を両手でやさしく上向かせて、する。
永遠につづきそうなほどのキスを少女に贈る。
「…姫。俺だけの姫…」
わずかに熱くなった吐息が、少女のくちびるをあたためつづけた。
→fin←
お帰りなさいませ。
珪はいかがでしたか?
貴女様を見る瞳が格段に和らいでいるのは気のせいでしょうか。
またのご来店をお待ちしております。
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