クリスマス

□零一と過ごす。
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今夜のドレスコードはブラックタイ。


ホスト全員がタキシードを着るという。


だから零一がベルベットのそれを着ていても驚かなかった。


先日のハロウィンとおなじく眼鏡をはずしていても、どきりとするだけだった。


それよりもなによりも驚いたのは。


「よく来たな」


そう言った、零一の場所だった。


店の前。


客でなければ、そこがホストクラブだとは気づかないような落ち着いた印象の外観と看板。


ClubGS


その横に、零一が立っていた。


ホストはいつでも客に笑顔をくれる。


けれどそれは「店」に入ってからだ。


ホストみずから店外に客を迎えにいくことはない。


“アフターはやっても同伴はやらない”


少女が通う場所はそういう店で。


そのナンバー1である零一が、外にいる不自然さ。


少女は戸惑いながらも零一に挨拶をした。


「―ああ」


よく来たな、と。


いつものように、店の中にいるように笑みを向けられて。


どうして?と、少女は零一にたずねた。


「どうして?なにがだ」


え、と少女がもっと戸惑う。


その表情から零一は察したのだろう。


少女の腰を右手でひきよせると、ゆるく抱きしめた。


「君を待っていただけだ」


か、と少女の頬が赤くなる。


それを零一の指がなでた。


「赤いぞ」


わかっていることを、わざとささやく。


もっと赤くなりながらも、少女は零一の指がとても冷たいことに気がついた。


自分の頬が熱をもっているせいもあるだろうが、それにしても冷たすぎる。


ぎゅ、とその指をにぎると零一が笑った。


「どうした」


その口からは息が白くなって消えていく。


12月。
冬の真っ只中。


雪こそ降っていないが暖かいはずがない。


いったいどれほど前から零一は自分を待っていたのか。


少女は店に行くとき、事前に零一に知らせることはなかった。


零一がそれを拒むからだ。


『来たい時にくればいい。約束で君をしばるような無粋なことはしない。私はいつでも店にいる』


そうして微笑むだけ。


少女が零一の指をにぎりしめながら見つめていると。


「行くか」


頭の上で声がした。


それと同時に少女の腰に手をかけていた零一の指に力がはいる。


気がつけば少女の足は店から遠ざかっている。


ゆっくりと、けれど確実に。


小さくなって、街のイルミネーションに消えていく店の扉。


ホストが営業時間に店を外出している事実。


少女は今度こそ、あわてて零一を見た。


店にいなくて大丈夫かと聞くと。


「聖夜だろう、今夜は」


ふ、と足を止めて零一が言った。


「君といることは当然のことだ」


それは他の客に見せるような作り物の微笑みではなく。


唇の端だけ少し上げる、親密な相手だけに見せる笑い方。


少女も思わず微笑むと。


「知っているか?聖夜は明日もあるな」


今夜のイブと。
明日のクリスマス。


二日間。


「その間―」


氷室は少女の体をだきしめて。


「私のベッドから出られると思うな」


囁いた。


街をきらめく何色ものイルミネーション。


少女のうるんだ瞳を照らして。
氷室の端整な顔を照らして。


こわいくらい綺麗だった。



→fin←


支配人の益田です。
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