クリスマス

□勝己と過ごす。
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店の中にはクラッシックなクリスマスソング。


「来いよ」


タキシード姿の勝己に手をさしだされて、少女が指をのばすと。


ぐい、と。


勝己は少女の華奢な手首をつかんで自分の腕の中に囲いこんだ。


顔のすぐ近くに勝己の胸元。


シルクのブラックタイは無造作に外され、シャツのボタンもふたつほど開いている。


正式な礼服をかなり着崩しているのだが。


シャツの間からのぞく濃い肌色。
ほのかに香るエキゾチックな香水。


不思議と下品には見えなかった。


それよりも、むしろ。


様になりすぎていて。


かっこいい―
「綺麗だな」


思ったと同時に勝己に言われて、少女はちいさく息をのんだ。


その言葉。


"綺麗だな"


勝己は粗暴な印象を与えるものの、冷たくはない。


けれど今までの少女に対する言動は。


『いいな』
『エロい』
『ソソる』


欲に忠実なものだけ。


『俺の女になれ』
『お前しか愛せない』


そう囁かれたことはあるけれど、今のように"綺麗"と言われたことは初めてだった。


しかも。


「行くか。中央にツリーがある」


抱きしめていた両腕をほどくと、右手を少女の腰にあてた。


え、と思う間に勝己が少女の左側に立つ。


タフタのロングドレスの裾は床につくほどなのだが。


それを踏まないよう半歩後ろに立ちながら、ヒールの少女をリードして歩をすすめている。


それは完璧なエスコートの形。


少女がまじまじと勝己を見ると。


「なんだ」


聞いてくる。


少女はあいまいに首をふりながら、わからないという顔をした。


それに、ふ、と勝己が口元だけで笑った。


「そんな顔をすると綺麗な顔が台無しだぞ。ドレスも似合ってるのに」


また言われて。


少女は今度こそ、わけがわからなくなってしまった。


その間にも、二人の足は中央に着き。


目の前には高い天井に届きそうなほどの大きなクリスマスツリー。


綺麗…、と思わず少女がつぶやくと。


「来るか?」


勝己が手をさしだした。


"来るか?"


その言葉に、少女はさきほどのことを思い出していた。


きっと勝己は強引な仕草で自分を引き寄せるのだろう。


いつものように。


けれど。


勝己がしたことは違うものだった。


少女の指をとり。


ぎゅ、と包みこむように握る。


そして口元にはこんでキスする。


ふ、と微笑んで。


少女をなめらかに抱き上げた。


それは姫を抱くような格好で。


もう何も言えずに驚いたように見つめる相手に向かって、勝己が言った。


「イブだろ。今夜は」


少女がぎこちなく、うなずく。


「だったらお前にもやさしくなる」


勝己は抱き上げて、すぐ近くにある少女の額にちいさなキスをした。


「たまにはこんな夜もあっていいだろ」


勝己が言った。


「いつでも俺はお前に挿れたくなるからな」


少女の耳元でささやく。


かっ、と頬を染めた相手の頬にキスしながら。


「そんな顔すると、また襲うぞ…?」


ふと獣を感じさせる声と吐息をもらした。


少女の全身に無意識に力が入って。


「…冗談」


勝己が瞳の力をぬく。


「今夜はしない」


そう言うと。


勝己は巨大なツリーのてっぺんに手をのばした。


そこにあったのはきらきらと輝く星の飾り。


それを勝己が根元から豪快に折って、少女に渡した。


少女がなに、とたずねると。


「支配人が言ってた。その星をイブにもらえた奴は幸福になれるらしい」


少女は自分の手の中にある星を見た。


星は光の加減でいくつもの光を発している。


そして。


少女はその中に星自身よりも輝くものを見つけた。


勝己を見る。


「貸せ」


勝己が片手で星をつかんだ。


つかんで、握りこむように力をこめる。


とたん。


パシ、ン


星が砕ける。


「手、出せ」


拳を握りこんだまま、勝己が言った。


少女が戸惑いながら両手をだすと、その真上で拳をひらいた。


瞬間。


きらきらと舞い落ちる、星のかけら。


そして。


ぽとり。


少女の手の上に落ちた、ひとつの指輪。


華奢な少女の指にぴったりとはまりそうな小さなそれは、桜色の宝石がはまっていた。


ピンクトパーズ。


「俺の誕生石」


会えない時の代わりだ、と勝己が言う。


「…これからも俺から離れるな」


そう言って。


勝己は少女のくちびるにキスをおとした。


いつものように奪うものではなく。


聖なる夜に与えるキス。


きらきらと。


くだけた星が二人を彩っていた。



→fin←


支配人の益田です。
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