バレンタイン

□珪と過ごす。
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珪からゴディバのチョコレートをもらって。


少女はちいさく微笑んでしまった。


「…どうした?」


珪が貴文と同じ翡翠色の瞳で少女を見つめたまま、首をかしげる。


ゴディバ。


ベルギー発の超高級チョコレートブランド。


世界各国に店舗を展開し、抜群の知名度を誇り、


―有名で誰もが知っている。


それはとても珪のようだと少女は思ったのだ。


それに。


勝己と同じくブランドに興味のない珪がゴディバを選んだのは、毎年たくさんの女性からチョコをもらうからだろう。


その中にあった、気にいった味。


ブランドなど関係なく。


「…お前にあげたくて選んだけど…苦手か?」


珪が少女の手の中にある箱を見た。


ピンクシルバーのちいさな円柱の箱。


そこにはハートのクリスタルが付いている。


「…お前みたいにかわいいなと思って」


ありがとう…、と少女が言う。


「…苦手じゃないか?」


頷くと。


「…よかった」


微笑む。


「…本当は、お前からチョコが欲しかったけど…」


自分から渡すのも悪くないな、と相手を見つめる。


「…お前の驚く顔…笑う顔…全部、かわいい」


そう微笑んで。


「…開けてみて」


珪が言った。


少女が中をあけると。


箱の中には一粒のチョコレートが入っていた。


期間限定のダークチョコレートムース。


上には小さな赤いハートが飾られ、純金でゴディバの「G」の文字が描かれている。


「…今夜は来てくれてありがとう。会いたかったから嬉しい…」


珪がそっと少女の手にふれる。


ゆっくりと指をからめる。


「本当に…嬉しい…」


思うままを言葉にする珪の前で。


少女の頬が徐々に桜色にそまっていく。


その様を、じい、と珪が見ていた。


長く。


長く。


まばたきもしないで。


少女だけを見つめていた。


珪くん…、と少女が呼ぶと。


ふ、と笑った。


ゆるく細まった翡翠色の瞳。


いつもと同じような微笑み方なのに。


それはとても柔らかで。


穏やかで。


やさしくて。


泣いてしまいそうで。


少女の瞳が無意識にうるむ。


「…おいで」


珪がソファに座っている少女の体を引きよせて、抱きしめた。


きゅうぅ。


音がしそうな抱擁。


ぴったりと密着された体に、少女は動きを封じられてしまった。


「…こうしていると…チョコみたいだな」


固められたチョコ。


「…チョコだったら何度でも溶けるんだろ?」


熱を加えられれば、しっかりとした形もくずれていく。


「…だから、今夜は帰さない」


珪が言う。


「…溶かすのは俺だけ」


くちびるで。


指で。


心で。


「…お前を溶かすのは俺だけ」


そして。


「…こうやって固めるのも…俺だけ」


少女をもっと抱きしめた。


「…愛してる」


今夜は。


愛を誓い合うバレンタインの夜は。


「…溶かして、固めて、食ってやる…」


珪の低い、きれいな声が。


少女の耳を犯した。



→fin←


珪はいかがでしたか。
さすがの王子も貴女さまの前では野獣に変身してしまうようですね。
またのご来店、お待ちしております。

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