ハロウィン

□道に迷う
1ページ/1ページ

ほてった頬を冷やそうと廊下を歩いていただけだった。


けれど、どこをどう迷ったのか。


少女はホスト達のいるホールからずいぶん離れた場所に来てしまったらしい。


しん、とした長い廊下はいつのまにか照明が少なくなっていた。


これは完全に方向を間違ったと少女がきびすを返そうとしたとき。


音がした。


ひとつのドアから。


なかに誰かがいるらしい。


ホールに戻りたい一心で少女はそのドアを開けたのだが。


「ん…、あれ?」


衣装室らしいそこに立っていたのは支配人の義人だった。


スーツ姿のまま、ビニールに包まれた服を持っている。


「どうしたの。こんな裏まで…、迷った?」


少女と同じくらい、瞳を開いて聞いてくる。


たしかに開店時には入り口でゆったりと「いらっしゃいませ」と客を案内していたはずだが。


目の前の義人は口調がくだけていて、どこか別人のように見えた。


「あ、ごめん。こっちが地金。びっくりして出ちゃったよ」


少女の表情から内心をよんだ義人が明るく笑った。


そして。


「Trick or treat」


なめらかな声で言った。


「俺にもお菓子をくれない?」


それが。


少女と義人の出会いだった。


fin


>ホールに案内してもらう
>店に戻る

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ