ハロウィン
□道に迷う
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ほてった頬を冷やそうと廊下を歩いていただけだった。
けれど、どこをどう迷ったのか。
少女はホスト達のいるホールからずいぶん離れた場所に来てしまったらしい。
しん、とした長い廊下はいつのまにか照明が少なくなっていた。
これは完全に方向を間違ったと少女がきびすを返そうとしたとき。
音がした。
ひとつのドアから。
なかに誰かがいるらしい。
ホールに戻りたい一心で少女はそのドアを開けたのだが。
「ん…、あれ?」
衣装室らしいそこに立っていたのは支配人の義人だった。
スーツ姿のまま、ビニールに包まれた服を持っている。
「どうしたの。こんな裏まで…、迷った?」
少女と同じくらい、瞳を開いて聞いてくる。
たしかに開店時には入り口でゆったりと「いらっしゃいませ」と客を案内していたはずだが。
目の前の義人は口調がくだけていて、どこか別人のように見えた。
「あ、ごめん。こっちが地金。びっくりして出ちゃったよ」
少女の表情から内心をよんだ義人が明るく笑った。
そして。
「Trick or treat」
なめらかな声で言った。
「俺にもお菓子をくれない?」
それが。
少女と義人の出会いだった。
fin
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