短い話
□93.狐の嫁入り
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(…完全に、迷った。)
フュリー曹長と2人で出かけた外回りの帰り道で、公園のブランコから落ちたといって、顔を血だらけにした女の子と出くわした。
一目見たときは驚いたが、出血は鼻血だけで、骨も大丈夫そうだったので、そこで曹長と別れて家まで送っていったのだ。
女の子の母親にもらったお菓子の袋を握りしめ、夕焼けに照らされた道をてくてく歩く。
(これは…どこかで電話を借りよう。)
しかし住宅地の真ん中で、適当なお店もない。
にもかかわらず、私には焦る気持ちは少しもなかった。
こんな時でも知らない道を歩くのは楽しかった。
見知らぬ路地を歩き続ける。
不思議なことに、通りを行くのは私一人だ。
(学校帰りの子供とか、いてもよさそうなんだけどな。)
(…ネコもいやしない。)
そのとき、突然、サーッという音を立てて、雨が降ってきた。
細かい雨のひと粒ひと粒が、日光にあたってキラキラと光っている。
「…きれい。」
濡れるのも構わずにぼんやりしていると、前方の十字路に、行列が現れた。
煌めく雨の幕の向こう。
提灯を提げてしずしずと進む小さい姿。
(まさか。)
私は行列を追って、走り出した。
十字路を、左に曲がる。
すると次の角を右折して消えていくフサフサしたしっぽが見えた。
しっぽを追って角を曲がると。
目の前を横切っているのは中央通りだった。