桜 ノ 夢

□光
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春の風がそよそよと流れ、花の香りをつれて郷田城と城下に和やかな空気を与える。

鳥がさえずりながら、足を休むのに降り立った城の中核に設けられた人目につかない小さな部屋。

城のために暗躍する『東忍』のためのもの。


城下を窓から見下ろしながら、平和を喜びつつも何も起こらないのを退屈として東忍の一人、彩女が ため息をついていた。

『は〜〜〜。何か起こらないもんかねぇ』

『殿からの命令もないし、暇ったらありゃしない』


彩女がぶつぶつ言っているのを尻目にその横でいそいそと任務の支度を始める東忍の頭目、力丸


『殿はおまえの体を案じておられるのだ。文句を言わず療養に勤しめ』


二日前…任務遂行の折に、敵地で不覚にも回復に時間がかかるほどの怪我を負ってしまった彩女。


回復するまで任務は殿に止められてしまい、それまでの任務は全て力丸に任せる羽目になっていた。


『分かったよ、ったく。
…で?あんたはその格好で何の任務を与えられたんだい?』


影に生きるものとしては、少々、いや大分不相応な格好。


口にあてられていた布は取りのぞかれ、着物も闇には似合わぬ、紺よりは少し明るい青色。


『どっからどうみても…町人だねぇ…。あんた、苦手だろう?その任務』


『…仕方なかろう、殿のご命令だ』



  
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