Catants
□七
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落ち着いた様子で治療をする女医。
同じく、落ち着いた様子で治療をうける青年。
老人はにっこりとした。
「上々、上々。」
そう言って、青年の頭を撫でる老人。
以前ならば、老人の一挙一動に敏感に反応し、触らせてくれるどころか、近寄らせてさえくれなかった青年。
ずいぶんと、丸くなった。
老人はニッコリとして、青年を見つめていた。
*
「生徒を会わせる?!」
副校長にしてグリフィンドールの寮官であるミネルバ・マクゴナガルは憤慨して目の前の老人を見つめた。
「そうじゃ。英語を教えてくれる生徒が良いのぅ。」
「に、日本人に…?」
「ラキに、じゃよ。」
ミネルバはあり得ないものを見るようにして老人――ダンブルドアを見た。
そして直ぐに首をふる。
「あり得ません。危険すぎます。」
「危険? どこがじゃ?」
「日本人です!」
訴えるように、ミネルバは叫ぶ。
恐怖の国、日本。
いくら年若いと言えど、安心出来るものではない。
「ミネルバ、日本人というだけでそう判断するのは、浅はかじゃと思わんか? 実際、あの青年は何ら問題を起こしておらん。」
「…単に、傷がまだ癒えていないだけかもしれませんし…私たちを騙そうとしているのやも…。」
「ミネルバ。」
ダンブルドアは諭すように、名前を呼ぶ。
ミネルバは無意識の内に下げていた視線を上げる。
「疑わしきは罰せず、じゃよ。」
「…校長…。」
ミネルバの肩を掴み、安心させようとする。
ミネルバは落ち着かないようすで、視線をあちこちにさ迷わせる。
「不安ならば、あなたがラキに会ってみると良い。」
ダンブルドアは、微笑う。
「きっと、分かってくださるじゃろう…。」
*
普段は忙しそうにして一日一回しか来ない老人が、今日は二回来た。
一度目は、頭を撫でて、帰っていった。
二度目は、知らない女性を連れてきた。
髪を高く結い上げた、厳格そうな女性。
ラキは、静かな瞳で、女性を見つめた。
「ラキ、こちらはミネルバ・マクゴナガル。わしの同僚じゃよ。」
老人は穏やかな目でラキを見た。
ラキは老人を見つめ、女性を見つめた。
女性はどこか怯えていて、緊張している様子だった。
「……。」
キッと。
いっそ睨むようにして、こちらを見る女性ことミネルバ。
その瞳の奥の奥に揺らぐ、恐怖。
ラキは静かに、ゆっくりと瞬きをし。
礼をした。
英国にはない、頭を下げるという儀礼。
ミネルバは面食らったように、動かなくなった。
やはりダンブルドアは笑い、ラキの肩を叩いた。
「ラキ、この国では挨拶をする時、手を握るのじゃよ。」
「……?」
わからない、といった様子のラキ。
「ミネルバ。」
「っ…はい。」
突然話しかけられて驚いたのか。
ミネルバは動揺して、招き寄せられるままに、ダンブルドアの元にいった。
その手をとり、握手をするダンブルドア。
ダンブルドアは促すように、ラキを見る。
ラキは迷いなく、そして静かに、手を伸ばした。
対して、ミネルバは驚いた瞳でその手を見つめる。
そして、その手を、とった。
「上々じゃ。」
今日のダンブルドアは始終笑顔であった。