Catants

□零
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「はぁっ…はぁっ…」


走っていた。

ただ、走っていた。

暗いこの世界を。

逃げるため。

去るため。

置いていくため。

巻き込まないため。

ただ、必死で。


「(そんなこと、無理だって…わかってるけど……)」


守るために。

この世界から。

この孤立した土地から。

その思想から。

銀色の小さな子供と。

黒い、小さな娘を。

守りたい。


この子たちをめぐって、たくさんの血が流された。

今も、流され続けている。

その事実はこの子たちを傷付ける。

自分の痛みは耐えられる。

しかし周りが傷付くのは耐えられない。

だから、逃げる。

これ以上巻き込まないように。


「(そんなの、無理なのに…)」


この土地に生まれて。

ここで生きてきた自分たち。

その自分たちが逃げれば、追うのはその友。

追う者に与えられる命は、抹殺のみ。

今逃げたら、この子たちは未来に友と殺し合うこととなる。

それでも、今死ぬよりかは……


「蒼依…」


走る影の側に、白い鳥がきた。

その鳥の上には銀の髪を風にゆらすものがいた。

その子が走る影の名を呼んだ。

影は微笑み、銀の頭を撫でた。

それとほぼ同時に鳥が先の二倍ほどの大きさとなり、影はその背に飛び乗った。

鳥は空高く舞い上がり、木々が風を受けざわめく。

その中、白い鳥はその身を夜空へと吸い込まれるように、高く高く舞い上がる。

その後ろを、炎を纏った矢が追いかけた。

何本も放たれる矢を、鳥は器用によける。

そんな攻防が何分か続いたかと思われるころ、一斉に矢が止んだ。

鳥は旋回を続けた。

下には自分たちが生まれ育った土地が広がっている。

その土地は今や赤々と燃え上がり、巨大な煙が立ち上っていた。

水の能力者たちが消火活動を行っているが、簡単には消えはしない。

ただの火ではないからだ。

術者の能力によって燃える炎。

その炎を、消すことは容易ではない。

火を作った能力者以上の水の使い手が必要となる。

しかし、その火も、本家が動けばすぐに消せるものだろう。

一人でダメならば大勢で消せばいいのだ。

それをしない訳。

その理由は本家にあった。


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