Catants
□三
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夢を見た。
痛い。
身を裂くような痛み。
熱い、熱い、痛み。
痛くて。
正気を保つのでさえ億劫で。
目の前に広がるのは、闇。
痛みの中、辛くて。
でも、目を開いた。
その先にあるのは、血だった。
血塗られた道。
自分が今まで歩んできた道。
そこにはたくさんの人の犠牲がある。
自分で殺めた、命もある。
急に痛みが引き、代わりに襲うのは、恐怖。
ひたひたと、自身をゆっくりと覆っていくような、冷感。
思考が止まり、身体を動かすことさえ出来ない。
恐怖。
倒れた人々が動き出す。
歩けないものは這いつくばって。
歩けるものは血に濡れた身体を引きずりながら、自身の方にやってくる。
「痛い」「うぅ…」「信じてたのに…」「裏切り者!」「痛いよぉぉっ」「熱い…」「うっ…うっ…」「いたいいたいいたい゛ぃ゛っ」「なんで…」「ぐあぁっ
!」「なんでよ…」「どうして…」「やめてっ!」「お願い…」「この子だけは…」「約束したのに…」「どうして…」「どうしてよっ!」
《うるさいっ!》
頭を抱え、耳をふさぎ。
それでも聞こえてくる声に、発狂しそうになる。
《うるさいうるさいうるさいっっ! ああするしかなかったんだ! あんただって俺の立場ならそうしただろう!》
悲痛に。
聞きたくない、と言うように。
膝をついて、暗闇に、叫ぶ。
その姿は。
《俺は悪くないっ…俺は悪くないんだっ!!》
涙を流していた。
しばらく忘れていたことだった。
その中に、一筋の光が現れた。
小さな小さな光。
それは、次第に大きくなり―――でもやっぱり小さかった。
でも、その光に、何故か酷く安心した。
「ラキ…」
その光は自身の名を呼んだ。
そうだ。と思った。
そうだ。俺の名前は…
「聞いて…」
光は言った。
光は小さかった。
しかし、強く光輝いていた。
「これから、少しだけお別れなの…」
《…どうして?》
「…どうしても。」
光は微笑ったようだった。
曖昧に。
誤魔化すように。
「その間、少しだけ、待ってて…」
いやだった。
一人はいやだった。
でも、それでも。
《…うん。わかった…。》
光は強かった。
しかしどんどん遠ざかっていっているようだった。
光の声は、遠くなる……
《待って…》
手を、伸ばす。
《待ってくれ…》
光は、だんだん細く…
「蒼依…」