Catants

□四
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『君を他へやったりはしない。』

それは、保護の意味なのか、拘束の意味なのか。

青年はベッドに寝転がり、高い天井を見上げながら、思った。

高い高い天井。

見える景色は全て自分が見てきたものと違うもの。

違う建築様式。

違う色。

違う空気。

これだけ違えば、人柄も違うものだと、つい先ほど知らされた。

『わしの名前は、アルバス・ダンブルドアじゃ。』

真名を、名乗った。

真実の名を。

自分と名付け親以外には、決して知らせることはない名を。

彼の男は迷いなく言い放った。

「(支配、されるのに…)」

真名を名乗ることは、支配されるも同じこと。

名を呼ばれ、命令されたら、どんな者も逆らえない。

いかなる者でも。

たとえ如月家当主であろうと。

それなのに。

あの老人は、名乗った。

迷いなく。

それが礼儀だとでも言うように。

青年は天井を見上げた。

青年の頭元には窓があり、外にある外灯の明かりが柔らかく青年を照らす。

青年は真っ白なシーツを手繰り寄せ、ぎゅ、と握った。

「(なんで、真名…)」

もし、自ら、言うことがあれば。

自ら真名を伝えることがあるとすれば。

それは、暗に「私は貴方を信頼している」と言っているに等しい。

あの老人は、自分を、信頼したというのか。

名前すら知らない、この自分を。

「(油断、させようとしているのか…それにしては、リスクが大きすぎる…)」

ふと。

何の前触れもなく、思い出した。

『すまない。だがわかってくれ。』

去り際に、あの老人が残した言葉。

あの言葉は、本当である気がした。

真実。

今ある現状。

それを、くれる人であると。





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