Catants

□六
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ある日。

老人は悩んでいた。

「うーんうーんうーん…どうしたものかのう…。うーんうーんうーん……」

明らかに。

わざとらしく、腕をくみ、考える仕草。

「…どうかしたのですか、校長。」

当然ながら、良心を少しでも持って生まれた人間は、声をかけざるをえない。

そしてそれが二人きりの校長室の出来事ならばなおさらだ。

副校長であるミネルバは、痛む頭を押さえながら、いやいや尋ねた。

元がきっちりとしていて、且つ面倒見が良い彼女のこと。

苦労をすることは目に見えているのに。

彼女は律儀な性格である自分を、この時だけは呪ったそうだ。

「それがのーあの青年がのー。」

「校長、きちんと座りきちんと喋って下さい。」

机に顎をつき、両手をぶら下げて。

あまりにやる気のなさそうなその態度に、呆れながらもミネルバは注意した。

「ぶー。ミネルバは厳しいのー。」

「…お願いですから、生徒の前だけではそのような態度、見せないで下さいね。」

「ぶー。」

「聞きなさい。」

会話が成立していない。

するつもりもないのか。
ミネルバは怒鳴りたい気持ちをおさえて、先を促した。

「それで。あの青年がどうかしたのですか?」

「それがのー。」

ギラッ

姿勢は正したものの、語尾を変えようとしない老人に。

いい加減耐えがたくなったのか、ミネルバは一睨みきかせた。

それが利いてるのかいないのか。

校長は押し黙り、動かなくなってしまった。

かと思えば、深々と息をついた。

「…恐らく、日本人であることは間違いないじゃろう…。」

「…っ!」

息につまる。

その事実。

日本。

謎に隠された、恐怖の国。

使者として日本に向かった者は、無事に帰ってこない。

日本から外国に人が渡ったという話も聞いたことがない。

流れるのは、良くない噂ばかり。

恐らく、史上初。

日本人を、このホグワーツは所持している。

それがバレたらどうなるのか。

政府は。

世論は。

そして、何よりも大切な、ホグワーツ城は、どうなってしまうのか。

ミネルバは無意識にか、肩に手をやり、自身を抱き締めるようにした。

「しかしそんなことはどうでもいいんじゃー。」

「は?! ああ、というかまた机に寝そべって…!」

ふて腐れた子供のように。

机に頬をあて、脱力する老人。

この老人が上司だと言うのだから、部下はたまったものではない。

「あの青年はのー。」

「何事もなかったかのように話すのは止めなさい。」

「青年がのー。」

「聞け。」

ミネルバが一際重たい辞書に手に持ち、目を光らせた。

その時。

「名前を教えてくれんのじゃー。」

「…は?」





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