Catants

□四
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「(馬鹿馬鹿しい、か…あの会話の中で、決めつけるのは。)」

信用できると、安易に決めてはいけない。

自分はそういう土地で育ってきた。

誰も信用出来ない。

今日話した友が、明日自分の命を狙うかもしれない。

青年は頭を揺らし、カーテンを見た。

そこにある壁。

周りと自分を隔てる境界線。

あの老人が作った、結界。

確かに、青年を守るものであり、青年が周りに影響を及ぼすのを防ぐものだ。

強力な結界は、色を帯びる。

この結界は、白。

真珠のような光沢を放っている。

青年の中でも、白は初めて見る色だった。

ここまで純粋な白は。

ドーム状に覆うこの結界。

美しい。

そう、思う。

『結界は芸術よ。』

いつの日か、誰かが言っていた言葉を思い出す。

『いくら頑丈でも、継続が長くても、美しくなければ、意味をなさないの。』

そう語った人も、今は自分の敵でしかない。

青年は瞳を閉ざし、息を大きく吸って、吐いた。

「(蒼依は…どうして…)」

あの老人は、ここはイギリスであると、言った。

「(どうして、俺をここへ……)」

遠い。今は遠くなってしまった銀色を想う。

夢の中で別れを告げた、愛しい銀色。

別れを告げる暇もなかった黒は、今。

ふいに。

ゆらり、と視界が揺れる。

身体が熱を帯び始め、痛みが全身を駆け巡る。

「(あの、老人が言っていたことは、本当か…)」

まだ休養が必要だ、と言った。

確かに、身体は思っているより体力を消耗しているようだ。

青年は瞳を閉ざした。

身体を休ませなければならない。

しかし、意識を途切れさせることはせず、横になる。

気配がしたら、直ぐにでも戦えるように。

油断はせず。

青年は、浅い浅い、眠りについた。



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